オンラインゲーム殺人事件あなざーその1・魔王探偵の事件簿_7

ネット内の怖さも知れ(4日目)


リアフレ…というのは良いにしても、相手の身元も人間性も分からない状態で3人同じ部屋で一緒にプレイ出来る環境である事は伏せておいた方が良い。
そのために、インする時間を少しずらそう…。

そう提案したのは自分なので、アントーニョとフランシスが菓子を齧っている間に、ギルベルトはまず自分が最初にインをした。

アーサーとの待ち合わせは街中央の広場の噴水の前。
8時から一呼吸置いてギルベルトがイルヴィスに足を踏み入れると、何故か真っ白なローブを翻しながら噴水の中を駆け回っている少年。

そこでパーティの誘いを送りがてら、

「オスっ。おい、何してんだよ?」
と、尋ねてみると、そこで初めてギルベルトに気付いたらしい。
少年はピタッと足を止めて、そそくさと噴水の中から飛び出した。

そして一瞬の間。

「べ、別に水が波紋を描くのが綺麗だったからとか、そんなんじゃねえからなっ!
お前が遅いから退屈しのぎに水に入ったらどうなるか試してみてただけだっ!」

パーティに入るなり焦りでもしているようにざ~っと流れる文字。
フハッっとリアルでそれを見たアントーニョが噴出した。

「うん、この子もしかしたら同じ10代でも10代前半かもね。」
と、やはり噴出しながらリアルで言うフランシス。
「ん~、あとは普段あんまゲームとかしてねえのかもな。」
と、ギルベルトは昨日の出会った時の事を思い出しながら、それもリアルで口にした。

そうしている間にディスプレイの向こうではアーサーに向かって
「…にしてはずいぶん長く楽しんでたみてえだけど?」
と、突っ込みをいれるが、悪友達のようにポン!と言ってポン!と返ってくるタイプではないらしい。
アーサーはそれに少し引いたのかしばらく押し黙り、それから
「トーニョ…まだ来ないのか?」
と、ぽつりと零した。

どうやら昨日のやりとりで自分は元々少し距離を置かれていて、アーサーはアントーニョのことは逆に頼りにしているらしい…と、気づき、ギルベルトは少し憮然とする。

いやいや、お前、信頼する相手間違ってっからっ…と指摘出来れば良いのだが、そんな言葉を吐いた日には隣にいる魔王様にPCを破壊されかねない。

仕方なしに
『あ~、まだ来てねえみたいだな。』
と答えると、ディスプレイの中だと言うのになんとなくショボンとした空気漂わせて
「そっか…」
と、アーサーはまた黙り込んだ。

そこで、
「沈黙が重え……どっちか入ってこいよ。」
とのギルベルトのリアルの言葉に、
「親分このチュロス食い終わってからな~」
とアントーニョはチョコレートに付けたチュロスを齧りながら言うので、
「はいはい。じゃあお兄さんが行きますかね。」
とフランシスがPCを立ちあげ始める。

ウィンドウズが立ちあがり、ゲームを立ち上げるまでの時間、ギルベルトがまたディスプレイに目を戻すと、噴水の向こうに自分達の他にもプレイヤーがいるのに気付いた。

男女二人のプレイヤー。
どちらもアントーニョのような重鎧を着ているところを見ると、ウォリアーかベルセルクだろう。
暇なので通常会話で話している二人の話にそれとなく耳を傾ける。

男のウォリアー、ゴッドセイバーがほぼ一方的に話してるようだ。

「俺さぁ、今レベル高えしー、ミッションもちょーやってるしー。
でもゲームだけじゃないしー。
リアルもマジパネェつーかー、俺、鈴木大輔って都立S高の2年なんだけどー、
ちょー背高いしー、ちょーイケメンだしー…」

延々と続く自慢話。
聞かされてるイヴって女も大変だなぁ…と思わず同情する。


ところがそこでアーサーはまた会話のきっかけをと思ったらしい。
「なあ、ギル…」
『…ん?』
「ギルもさ…高校生?それとも中学か?」
『ああ、俺様は高校生。』
「そっか。ギルはさ、どんな感じなんだ?リアル。俺は…」
『ストップ!!黙っとけ、馬鹿!!』
続くアーサーの言葉をギルベルトは強い口調でさえぎった。


『ネット上だと相手も嘘つけるからな。下手に自分の個人情報漏らすと悪用されるぞ。
お前はリアルどっちなのか知らねえし追及もしねえけど、特に女は絶対にやばい。
実際騙されて呼び出されて乱暴されたりとか、ストーカーされたりとか結構あるんだからな。
まあ男でも気をつけろよ。絶対に下手に相手を信用すんな。
ましてや誰が聞いてるともわかんない通常会話でリアル明かすと本当に危ねえぞ』

……と、説明をしようとキーボードに指を滑らせようとした時、

「二人ともばんわ~♪麗しのお兄さんが来ましたよ~。パーティー誘って。」
と、フランシスが絶妙のタイミングでインしてくる。

ギルベルトからしたら本当にタイミングが悪い、悪すぎる。

案の定、

「フラン、こんばんは。今誘う。」
と、アーサーが即パーティーの誘いを飛ばし、フランシスの方へと駆け寄った。

え?え?俺様嫌われてる?
と地味にショックを受けるギルベルト。

そんな間にフランシスは
『アーサー、パーティ入ってる時はパーティ会話にした方がいいよ。
通常チャットだと全く関係のない会話を聞きたくない相手にも聞かせちゃう事になるし、ログ流れちゃうからね。』
と、注意してウィンク。

『ああ、そうなんだ。わかった、そうする。』
と、アーサーは即会話モードを変更した。

そして少ししてチュロスを食べ終わったアントーニョが登場。

『お待たせやで~。ほな、行こか~』
と、パーティーに入って、街の外へ続く門とは反対側、商店街の方へと足を向ける。

『あの…トーニョ、外は反対じゃ?』
こくんと首をかしげるアーサー。

キャラが少し幼い感じなので、そんな動作をするとあどけなさがより際立つ。
リアルだったら、頭をくしゃくしゃっと撫でまわしたい感じだ…と思っていたら、隣の魔王様はディスプレイの向こうでそれをやっている。

少し身をかがめてアーサーの頭をなでると、
『タゲは絶対にやらんけど、全体攻撃とか受けた時に危ないさかいな。
もうちょお丈夫な防具買うたるわ。』
と、笑みを浮かべた。

そこでアントーニョのあとをちょこちょこ付いて歩いていた少年がちょっと立ち止まる。
『あの…今あまりお金なくて…』
との戸惑ったような言葉に、
『別に親分が買うたるから、気にせんでええよ。プリーストは防御弱いからな。事故があったら大変やし。』
と、鷹揚に笑って言う。


「へ~、利用するだけ利用するのかと思ったら、良いとこあるじゃない?トーニョ。」
と、ギルベルトとアントーニョの対面でゲームをしつつ、リアルでぴゅ~っと口笛を吹くフランシスを、アントーニョは軽く蹴りあげた。

「あほかい、ヒーラー死んでホームポイントに戻られたら効率悪いやろ。
金はあとで三等分な。」
「え~~~」

ゲスい!と叫んでまた蹴られるフランシス。
その正面では、そんな事は当然予測の範囲内だったギルベルトが、すでに買うであろう装備の費用の総計を算出して3分の1の金額をトレードし終わっている。

「ま、それくれえはしてやんねえと。経験値的には不自由させんだしな。
支援も時間なかったら俺様の回避UPは後回しでいいぜ。
ヒーラーのMP回復優先してやってくれ。
殴られねえように気をつけるし、途中で殴られたら薬使うわ。」

と、自分はあとで噴水で待ち合わせると宣言して、ギルベルトは1人薬屋に向かった。



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