オンラインゲーム殺人事件あなざーその1・魔王探偵の事件簿_8

他のパーティにも絡んでみよう(4日目~6日目)


ゲームを始めて一週間。
そろそろ自分達以外にも固定パーティを組んで行動しているプレイヤーが出始めている。

先日のウォーリア達もどうやら最近は近接物理系3人のパーティらしい。
狩り場が微妙に重なって、気づけば近くで戦っている時もある。

こちらは盾役ではあるが火力もあるベルセルクのアントーニョがメインで、それをフランシスがさらに魔法で火力をめいっぱいアップ。
防御的にはアーサーが防御力アップをかけながら回復をしているので、かなり強めの敵を1体ずつ倒して行く形だが、向こうは近接のみなので弱めの敵を大量にリンク狩りをしていて、近くにいても敵自体は被らないため問題はない。

しかし先日通常会話でリアル事情を垂れ流していたウォーリアーのゴッドセイバーは戦闘でも考えなしだったらしい。

女1人に男2人の不協和音。
どうやらそれとなく二人は張り合っているらしく、もう一人の男、ベルセルクのショウがそれまで叩いていたドードーより若干強い狂牛を連れてくると、ゴッドセイバーがいきなり無言でダっとどこかに駆け出して行った。
それをスルーで二人はそのまま敵を叩いている。

「イヴ~!」
やがてゴッドセイバーが戻って来た………張り合うようにでかい巨人を連れて…。
「俺の敵の方がでけえしー、やっぱ俺マジやばくねっ?」


『えっと…自分の方が別の意味でやばくね?HP真っ赤なんだけど?
てか…倒せるのか?あれ……』
と、思わず目をむくギルベルト。

『脳みそに何かわいとるな……』
と、アントーニョは呆れたようなため息をつき、フランシスは

『まあ…とばっちり来ない程度に距離取っておこうか…』
と、苦笑しながら全員のHPを回復し終わって自分のMP回復のために座ってるアーサーを少し離れた岩陰にうながした。

こちら側がのんびりとそんな風に話している間にも修羅場はさらに悪化している。

「ちょ、ちょっと信じらんないっ!何連れて来てんのよっ、あんたっ!!」
こちらより少し遅れてゴッドセイバーが連れてきた怪物に気付いたらしい。
イヴが叫ぶ。

「一番強そうなの連れて来たしー。俺すごくねっ?」
「すごいわよっ!もう信じらんないくらいすごい馬鹿っ!!倒せない敵連れて来てどうすんのよっ!!」
イヴの言葉にゴッドセイバーはポカンと立ちすくんだ。

「え~!マジっ?!ありえなくねっ?!」
「ありえないのはあんたよっ!それ連れて向こう行って死んどいてよっバカっ!こっち連れて来ないでっ!!」
「まじすかっ!!」


「ほんと……ありえんわ……」
あちらのドタバタを見ながらリアルで息を吐き出して首を軽く横に振るアントーニョ。

しかしディスプレイの中では後ろを振り返りフランシスに声をかけている

『フラン。能力アップ一通りかけといて』
その言葉にアーサーの隣でやっぱりMPを回復してたフランは立ち上がってかけよった。

『なに?助けるの?』
そのままアントーニョの隣で魔法をかけ始めるフラン。

『ん~、義を見てせざるは勇なきなりって言うやん。でも倒せるかわからんし自分らは離れとって。』
と、アントーニョはいかにも勇者様な台詞を吐いて、スラっと背中に背負った大剣を抜いた。

「で?その心は?向こうとの接触か?」

もちろんアントーニョが身内以外に能動的にそんな世話を焼くはずもないと、ギルベルトはすまして聞く。

それに対してアントーニョもこちらもすまして
「…と、点数稼ぎやな。親分なとこ見せて引きつけとかんと……救急箱(アーサー)を。」
と答えた。

その答えにギルベルトは秀麗な眉をわずかに寄せて、口をつぐむ。
室内を流れる少し緊迫した空気に、フランシスは冷やりとまた額に汗をかいた。



リアルの3人の側でそんなやりとりが繰り広げられてる間にも、イヴ達は修羅場を繰り広げてる。

「きゃあぁっ!ちょっと、どうすんのよ、これっ!」
悲鳴を上げるイヴの前に
「まかせろっ!」
と、立ちはだかるゴッドセイバー。

「暗黒に染まりし神の使徒、このゴッドセイバーの虚空より現れいでる刃の煌めき!受けるがいいっ!!
ナイトメアスーパーメテオインパクト!!!」
と、そのまま巨人に特攻………スカっとかわされた。

「ムッ!貴様、やるなっ!!」
巨人の周りをそのままグルグル逃げ回りながら叫ぶゴッドセイバー。
呆れるイヴとショウ…。

「イヴ…この隙に離れようぜ」
というショウにうなづいて、イヴはショウと共にジリジリと後ろに下がって距離を取り始める。

「ク、クソッ!お前は俺を怒らせた~!黒き業火がごとき俺の怒りを受けてみよっ!今燃え上がる漆黒の必殺技!ファイナルゴッドライトニングスラッシュ!!!」

………スカッ。
…だめだ、こりゃ…と、離れて見ている悪友3人+アーサーは皆思う。
残りHP…おそらく10以下と思われる。そろそろ死にそうだ。

しかしそこでアントーニョがあと一撃で死ぬだろうゴッドセイバーに斧を振り下ろしかけてる巨人に斬り掛かって行った。

『ひどいよな。パーティーのメンバーなのに見捨てるなんて。それに比べてアントーニョはすごい…』
との言葉にギルベルトがちらりと見ると、おそらくリアルではキラキラした視線を送っているんだろうなぁと思われるアーサー。

「騙されすぎてて俺様涙が出そうなんだけど……」
と、リアルで片手を額に当ててため息をつくギルベルトに、苦笑いのフランシス。

それにアントーニョは
「すごいのも偉いのもほんまやん。別にどういう理由で助けられようと、助けられた本人にとっては変わらんやろ。」
と、ドヤ顔で言う。

そんな会話を交わしながらも各種アビリティを使いこなしながら巨人のHPを削っていくアントーニョ。
それに気づいたゴッドセイバーが同じく殴り掛かってもスカスカで全く当たらなかったのは、フランシスの魔法の効果も大きいと思われるが、この微妙な空気で下手な事を言って何かをつつきたくないと、フランシスは口を閉じておく。
こうしてとりあえず自分のHPを半分ほど減らしながらもアントーニョが巨人をソロで倒した。

ズドン!と音をたてて倒れたあと、ス~っと地面に巨人が消えて行くのを確認すると、そのまま無言で大剣をまた背に担いでこちらに戻ろうとするアントーニョの背中に、ゴッドセイバーが
「待て!」
と、声をかける。

「俺は暗黒神の使徒、黒い稲妻ゴッドセイバーだ。共に強敵を倒した盟友のお前の名前を聞きたい」
アントーニョは一瞬無言で立ち止まる。そしてため息。
「…アホか。キャラ名…頭の上に出てるやろ。見えへんのか。」
それだけ言ってまた歩き始めるアントーニョ。


そこで一応空気は読んだのか、アーサーがパーティー会話で
『そもそもバットマンの攻撃一発も当たってないから”共に”倒してないよな…』
とつぶやいて、フランシスが大きく頷いて同意した。



「トーニョ君すごいねっ♪マジかっこ良かった♪」
巨人が倒れて安全なのを確認してイヴが戻ってくる。

「今度リアルで会わない?名前教えてっ?」
と、ピタっと寄り添いかけるイヴからスっと距離を取るアントーニョ。

そのイヴの言葉にゴッドセイバーが口をはさむ。
「俺のダチだしー、3人で会わね?」
「何よ?トーニョ君のリアフレなの?GS」
「いや、今ダチになったしー」
「なってへんわっ!」
アントーニョがきっぱりと言う。

すると
「じゃ、あんたは要らない、GS」
と、こちらもきっぱり言うイヴ。

そんなゴッドセイバーとは対照的に、イヴのもう一人の仲間ショウは
「トーニョがすごいわけじゃないよ、イヴ。向こうにはエンチャがいるから。
能力アップの魔法かけてるから同じくらいのレベルでも強いように見えるだけだって」
と、つめよる。


「あ~、なんかこいつらめんど~。もうこいつらがどうなってもええか。」
と、リアルでもう色々呆れかえったように言って、アントーニョは

「ま、そういうことにしといて。」
と、イヴ達に返すと、彼らを放置でパーティーの仲間の方へと戻ってくる。


「待たせて堪忍な~」
とヘラリと言うアントーニョのはるか後方では
「もうっ!トーニョ君行っちゃったじゃないっ!GSもショウもエンジェルウィング一つ取ってこれないくせにっ」
と、イヴが怒ってて、二人が必死にご機嫌を取っているが、もちろん放置。
少し距離を取ってまた狩りを再開した。



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