前日――Ver悪友
私立森陽学園は知る人ぞ知る名門校。
小等部から大学まで一貫教育のその学校は全寮制で、政財界の大物の子息など、名門の家の子息が多く集う。
無作為に…というわりには、何故か同じ学校、同じ学年どころか同じクラスの3人に揃って送られてきたオンラインゲームのディスク。
最初に食いついたのはギルベルトだ。
「これ…放置しておいたら、ぜってえに賞金目当てに犯罪まがいの行動起こす輩が出るぞ。
放置すんのもなんだし、俺様やってみるわ。」
見かけはビジュアル系で普段はおちゃらけたキャラだが、ギルベルトはこう見えても警視の息子で、根は生真面目で世話好きな面のある男だ。
でなければ興味のないRPGゲームになどわざわざ手を出そうとは思わない。
「え~、お兄さんきな臭いのは勘弁よ?」
と、他の二人と同じく、自分のところに送られてきた封書を持って寮の中にもある寮長用のリビング、寮長室に集った3人のうちの1人、フランシスは世界的デザイナー、フランソワーズ・ボヌフォワの1人息子である。
ふわさらの長めのブロンドに宝石のような紫がかった青い瞳。
顔立ちは整いすぎるほど整っていて、幼い頃は可憐な少女のようだったが、最近は男らしい骨格になり、しかしそれはそれで美しい。
まるで少女漫画にでも登場しそうなその美しい容姿で上級生から下級生にまで人気のある彼は、外見通り3人の中で唯一の根っからの平和主義者で可能な限り争いは避けたいタイプだ。
今回も暗に
――またギルちゃんのお節介病が…。やるなら1人でやってね…――
と主張しつつ、
「じゃ、そういうことでっ」
と、包みを放り出して即退散しようとしたのだが、外に出ようとした瞬間、ガン!!!と、いきなり出口を足でふさがれた。
足が触れている壁がミシミシ音をたてているのは気のせいだろうか…。
あと一歩前に踏み出していたら…と思うと、フランシスの背中に冷やりとした汗が伝う。
「自分…副寮長やんな?」
地の底からはいずり出てくるような低い声。
ああ…これはもしかして……と、嫌な予感に振り向くと、最後の1人、寮長様はにこりと笑顔を浮かべていて…だが、目が笑っていない。
「はい。そうですけど、それが何か?」
と非常に嫌な予感にかられながらもそう聞くと、この紅竜寮を仕切る魔王…もとい寮長様は、無言で籠の中のクルミを一つつまんで、バキっと割って見せた。
「あ、うそっ!お兄さんゲーム大好きっ!やりたいなぁ!」
クルミの二の舞はご免だと、即前言を撤回して、いったんは放りだした包みに飛び付くフランシスに、寮長であるアントーニョは満足げに頷いた。
「そうやんな?俺ら3人に来とるってことは、万が一にもうちの寮の寮生に送られてないとも限らへんし?
仕事熱心な副寮長としてギルちゃんが頑張る言うとるとこに、自分だけエスケープはないわな?」
と、言うアントーニョだが、
「…って建前は良いとして、お前がこういうの参加したがるって珍しいな。
どっちかっていうとゲーム内で格闘するより、素手で殴る方が好きそうじゃん?」
と、そこで恐れ知らずにも突っ込みをいれるギルベルト。
それにはフランシスも同意だが、命を天秤にはかけたくないので黙っている。
「あ~それやねんけどな…」
と、だがアントーニョはそれには腹をたてる事もなく、くしゃくしゃと自身の茶色がかった黒髪をかきまわした。
そして言う。
「今年の夏はおっちゃんが忙しくて探検旅行に出れなくて暇やねん。
別宅帰ってもおもろないしな。
寮もほとんどの寮生が帰省中やん?」
「なるほど、退屈しのぎか…」
と、笑うギルベルト。
「そそ。なんや面白い事になりそうやん?それ。」
と、アントーニョも機嫌よく笑う。
他の人間の感情の機微には敏いフランシスだが、このあたり、どこがアントーニョの沸点なのかがギルベルトには理解できているようなのに、理解できない。
そもそも、アントーニョが行けなくてつまらないと言っている探検旅行というのも、フランシスにとっては何が楽しいのかわからない。
というか、恐ろしい。
なにしろ、普通に紛争地域やらジャングルの奥地やらに両親亡きあとアントーニョの保護者となった大伯父と二人渡り歩いてサバイバルジャーニーをしてくるのだ。
正気の沙汰じゃないと思う。
まあ、そんな特殊部隊も真っ青な趣味に付き合えと言われないだけ良いのかもしれない…と、フランシスは思いなおして、
「で?結局何をどうすればいいのよ?」
と、これはギルベルトに問いかけた。
そう、やりたいと叫んだところで、アントーニョが地道に説明の手紙やマニュアルに目を通しているとは到底思えない。
そういう事はマメで真面目なギルベルトに聞くのが正しい。
案の定、
「いつからやるん?準備頼むわ。」
と、アントーニョもギルベルトに声をかける。
言われてギルベルトは、やっぱり俺様かよ…と、それでも諦めのため息をつきながら、
「とりあえずイン出来んのは明日の夜8時だけど、インストールとか準備と説明があっから、明日はフランは夕食にここで食えるもん用意して、トーニョはノートPC3台調達で、5時に集合な。」
と、その日は解散と相成った。
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