パーティー結成――3日目
40…50…59……よしっ8時っ!
時計とにらめっこしながら8時を待つようになって早3日。
アーサーは当初の目的も忘れて、日々初めてのゲームを楽しんでいた。
時間になるのを待って即アクセスしてゲームの中のアーサーを呼び出す。
最初はもちろんレベル1。
街を出てすぐのスライムを倒すのにも死闘を繰り広げていたアーサーもいまではレベル4になり、敵をサクサク倒せるようになっていた。
このゲームでは何もせずに座っていれば徐々にHPとMPが回復していく。
で、レベル1では1戦するたび座って回復していたのが、今では5戦くらいなら連続して戦える。
最初は基本操作に慣れるのに手いっぱいで、敵1体倒せて嬉しい、何度かの戦闘後にレベルが上がって嬉しいと、何もかもが新鮮だったのだが、レベル4になってからは城近くの敵ではなかなかレベルも上がらなくなってきて、少し新鮮味が薄れてくる。
さらに、一応他にプレイヤーがいないかと街をでてすぐの所でインをして、インするたび辺りを探すのだが、他のプレイヤーに会った事がない。
みんなもしかしてもうある程度レベル上がって現地でログイン、ログアウトしているのかも?と、少し新しい事もしてみたくなる。
そろそろ…ミッションでもやってみようか…
アーサーがそう思ったのはそんな事情を踏まえると、不思議なことではない。
最初のミッションは受託自体はプロローグで強引にさせられているので、少し離れた山の麓の衛兵に手紙とどけるだけの簡単なミッションだ。
道沿いに行けば敵は出てこないが、草むらを突っ切っていけば近い。
道からそれればもちろん敵が出てくる可能性もあるが、こちらから手を出さなければ良いだけの話だ。
そんな目算のもと直線的に突っ切る事にして、山に向かって走り出すアーサー。
…が、モンスターについては考えてはいた彼は、しかしながらとんでもない落とし穴に陥る事になった。
文字通り落とし穴に……。
山まであと半分くらいのところで、いきなり景色が変わった。
そう、アーサーはいきなり草むらに隠れてた落とし穴に落っこちたのだった。
ズザザザザ~と転げ落ちるとそこは暗い洞窟。
やばい…どうしよう…と、青くなるアーサー。
どうみても上級者向けの狩り場。
地上の敵はRPGでは最初の敵としておなじみのスライムとかだったが、こっちコウモリだ。
強さはわからないが、まあスライムより数段強いのは確かだと思う。
それでもこちらから攻撃を仕掛けなければ…と、おそるおそる脇を通り過ぎようとした時、いきなりキキッ!と声をあげてこちらを振り向くコウモリ。
画面に赤い光が出て、一気に半分ほど減るHPに、アーサーはパニックになった。
まあ、たとえ倒せずに死に戻りをしたとしても、デスペナルティとして多少経験値が減ったりする程度である。
だが、そんな経験をしたこともなく、ゲーム慣れもしていないアーサーにとっては、今キャラが死にかけているというのは十分恐怖体験だ。
恐ろしさで若干涙目になりながら、必死に回復魔法を唱えるが、HPが全快しても次の一撃でまた半分になる。
もうダメかもしれない…と、半分諦めながらも回復魔法のボタンを再度押そうとした瞬間…コウモリに向かって光の線が伸びてきて、今までアーサーを攻撃していたコウモリは線が伸びて来た方向へと飛び去って行った。
「はよ、回復しとき。」
と、コウモリが向かった先で声がしたと思えば、あれだけ強敵に思えたコウモリは漆黒の鎧を身にまとったベルセルクの闇に浮かびあがる青白い大剣に一刀両断にされていた。
カッコいい!
と、まず思う。
思わず見とれていると、後ろの仲間らしきプレイヤー二人と共に近づいてきた。
最初に近づいてきたのは、おそらく特性である移動速度2倍のアビリティを使ったシーフである。
短めの銀髪、整ってはいるが若干キツイ感じのする顔立ち。
そんな外見の通り
「MP切れてんのか?それともビビって動けねえのか?」
と、アーサーをツン!と突くようなモーションと共に言うシーフの意地悪くからかうような言葉に、
「アホッ!ギルちゃん、あとでグーパンなっ。」
と、追いついてきて蹴りをいれるモーションをいれたあと、助けてくれたベルセルクはアーサーに向かってニコリと微笑んで見せた。
そして、
「MP切れてんなら座っとき。敵なら親分がみといたるから。」
と、パーティーの誘いを飛ばしてくる。
こ…これはもしかして初パーティーでは?
急いで誘いに対してYESを選択すると、画面に相手のパラメータも表示された。
ベルセルクのアントーニョ、シーフのギルベルト、エンチャンタのフランシス。
いずれもレベルは4のアーサーよりかなり高い10だ。
ああ…これは一時的に…かな。レベルが違いすぎる……と、がっかりするアーサーに追い打ちをかけるように、件のシーフがパーティー会話に切り替えて
『あ~、こりゃあ一緒にやるには、ちょっとレベル差ありすぎるか…』
と、やっぱりそう言うのにアーサーはリアルでがっくりと肩を落とした。
もう少し頑張ってレベルが上がっていればここで仲間が出来たのだろうか…。
せっかく友達が出来るチャンスだったのに…と、悲しさで胸がズキズキ痛んで俯いた顔に涙が伝って落ちる。
と、その時、ボスン!と殴るモーションの時にする音がして、同じくパーティー会話の青い文字がディスプレイに文字が流れていった。
『何言うとるん、ギルちゃん。こんなヒーラーの子が1人でおったら危ないやん。
自分が嫌なら親分が抜けてこの子守ったるわ。』
と、いきなりアーサーに駆け寄るベルセルク。
『は?そうじゃねえだろ、俺様何もっ…』
『あ~、言い訳は聞きたないわ。一緒に来るん?抜けるん?』
と、ざ~っと流れていくログをアーサーは茫然と見送った。
『行くっ!別にそういう意味で言ったんじゃねえし。そいつがいいなら良いけど…』
『お前らちょっと待ちなさいな。トーニョが連れていきたいのはわかったけど、坊ちゃんの方はどうなの?』
と、そこでそれまで黙っていたエンチャンターが初めて口を開く。
するといきなり当事者間にしか見えない会話であるウィスが飛んできた。
アントーニョからだ。
(効率厨のアホのギルちゃんが失礼な事言うて堪忍な?
別にヒーラーやったら回復にレベル関係ないし、殴られたら危ないレベルの敵と戦う時かて、親分が絶対にタゲやらへんから、大丈夫やで?
せやから一緒に来たって?)
思いがけない言葉に、何度もディスプレイを見直した。
嬉しすぎて、消えてしまうのがもったいなくて、スクリーンショットを取って保存する。
シーフは少し意地悪だが、ベルセルクは優しい。
『…迷惑じゃないなら……』
と、それでもおそるおそる言うと、シーフが口を開く前に
『迷惑なわけないやん。ウェルカムやでっ!』
とベルセルクが両手を広げて言ってくれて、ホッとした。
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