リトルキャッスル後編_アンアサ_6(完)

「フラン…今回はごめん。嫌な思いさせたよね」
送ってもらっている警察の船の中でジェニーがフランに声をかけた。
「おや…お兄さんてっきりいびられるかと思ってたけど…」
フランにとっては率直な感想だったのだが、それはジェニーには痛烈な批判に聞こえたらしい。
普段は気の強いジェニーが泣いた。

「ごめん。本当にこんな…フラン達にシンディーの犯罪暴かせるなんて事になるなんて本当に思ってなかったのよ。ごめんなさい」
そのジェニーを左右からアンとソフィがなぐさめる。

確かに後味の悪すぎる旅行だった…。
しかしまあここまでの自体が起こったのはジェニー達のせいではない。
彼女達は彼女達でシンディーに対する友情と善意のみのために来たのだ。責めるのは酷というものだろう。
というか…フランはジェニーに言われるまで責任を感じられる立場だと全く意識していなかった。

「…お兄さんはいいけど…お詫びならあっちに言いなさい。
ギルちゃんは今回板挟みと責任とその他諸々で随分苦しんだんだからさ」
まあ…開き直られても腹がたつのだが、あらためて神妙に謝られてもなんとなく困る訳で…フランはジ~っと波間に視線を漂わせて考え込んでいるギルベルトの方へと振ってみた。

凛とした表情で遠くを見つめるその様子は、美しく絵にはなるのだが、なんとなく一般人には近づきがたい印象も与える。
「なんか…さ、今回はギルベルト大先生のカッコよさマジ認識したよね。
今まで全然チェック入れた事なかったんだけど、マジスペック高くない?」
ソフィがボソボソっとささやくと、アンとジェニーがうんうん目を輝かせる。

「可愛さで殿下かカッコよさでギルベルト大先生っ。
船が着くまでに最後のチャレンジいっちゃう?」
といつの間にか立ち直った女性陣のたくましさにため息をつきつつも、
「行くならとりあえずギルちゃんにしといて。アーサーは色々困るから」
と、注意をしておく。

「ギルベルト大先生~!!!」
脱力してぼ~っとしている所をいきなり女3人に取り囲まれてぎょっとするギルベルト。
ふと離れた所に目をやると、フランがわびるように手を合わせていて、なんとなく事情を察して諦めの息を吐きだす。

「ね、誰が一番好みっ?」
「好みじゃねえ…好きな奴いるし…」
興味なさげにギルベルトは言うが、女性陣は
「え~!でもつきあってはいないんでしょ?とりあえず誰かとつきあってみない?その子より好きになれるかもしれないじゃないっ!」
と食い下がる。
「あ~…無理」
「なんで?」
一応女の子相手にきつい事を言うなと父親からしつけられ、三つ子の魂100までもじゃないが、なかなかうまい言葉が見つからない。
傷つけずにうまく断る方法なんてあるんだろうか…この諦める気がかけらもない女達を前にして……
悩んでいると
「好きな子いるって嘘でしょ?」
と、いう質問が飛ぶ。
「嘘じゃねえよ」
とギルベルトは即答。
そう…告白できず、カップルになどなれる可能性も皆無だが、好きな相手がいると言うのは嘘じゃない。
「じゃ、なんで告白しないの?」
「あ~そんなんじゃねえから…」
と思わず真面目に答えてハッとする。
「そんなんじゃないって恋愛じゃないって事?じゃ、彼女いてもいいじゃない」
と、予想通りの突っ込みが入った。
良くねえんだよ…と心の中でつぶやきながら、ギルベルトはちらりと想い人の方へと目をやった。

女性陣の注目が自分の方へむいているため、すっかりリラックスした様子で、アントーニョにもたれかかってうつらうつらしているアーサー。
ギルベルトはそれを見て、立ち上がるとそちらの方へ移動した。

「トーニョ、風強くなってきたから、これ。」
と自分の上着を脱いでアントーニョに渡すと、おそらく自分もそれは気になっていたのだろうが、もたれかかって眠っているアーサーを起こしてしまうため上着を脱げなかったアントーニョは
「おおきに」
とそれを受け取って当たり前にアーサーにかける。

その様子を遠目で見ていた女性陣は、おお~~と歓声をあげた。
「ね、もしかして大先生の好きな相手って殿下?お仕えしてるの?そうなの?」
「トーニョと大先生にお守りされてるのねっ殿下っ」
「フラン加えて3従士だねっ」
…なんだか話がおかしな方向に向かっているものの、それでタゲが外れて平和になるならまあいいだろう。

夕日の差し込む中、悪友二人は眠るアーサーを気遣い、それを見てはしゃぐ女性3人組。
一見平和で穏やかな光景だが、おそらくそれぞれの胸中にはそれぞれ複雑な思いがあるのだろう。
そしてそれはフラン自身の胸の中にも……。

しかしそれに正面から向かい合うには皆もう少し時間が必要だ。
刻々と遠ざかる小さなお城のある離島を眺めながら、フランは自分達にとってもう4度目となる悲惨な事件の記憶にソッと蓋をするように、4人お揃いのペンダントのかかる胸元を手で押さえた。



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