リトルキャッスル前編_アンアサ_1

フランシス・ボヌフォア…
甘いマスクでお金持ちの一人息子と一見恵まれている…なのに近頃どこか不憫な境遇に置かれる事が多い。
フランシスの行くところに落とし穴あり…とでも言わんばかりに、最近ひどく運がない。
今日のクラスメートの女の子からのお誘いはそんなフランシスのこのところの運のなさを一掃するもの……のはずだった。

「フラン、春休み旅行行こうっ!」
もうすぐ春休み。
朝、教師を待つ教室で、隣の席の女子が言った。
ジェニー・ローランド…中学からの友人…さらに言うなら元彼女でもある。
そう、フランは悪友達が関わらなければこれでも結構モテるのだ。
最近お気に入りのアーサーを諦める訳ではないが、アーサーはずっとアントーニョに抱え込まれているし、なんとなく不遇な立場にばかり追い込まれている気がするし、たまにはちやほやされたい…
フランがそう思うのは当然の事だった。

「なあに?久々に旅行で二人きりになりたい?」
すっかりその気で甘い笑顔を浮かべたフランの期待はジェニーの
「えっとね…シンディんとこの伯父さんがね、ペンションやっててさ、オフシーズンだからって自分の事は自分でやるって条件で一日1000円の食材費のみで泊まらせてくれんだって。でさ、男手足りないのよっ。お願いっ。」
という言葉であっさり裏切られたわけだが、手を合わせてお願いするジェニーは可愛かったし、同じクラスのシンディも一緒で男手が足りないと言う事は…むしろハーレムかっと、フランは笑顔で、いいよ~、お兄さん頑張っちゃうと応じた。

そう…この考えなさがいつも自分をピンチに陥れているのに、いまだフランは学習していなかった。


翌日…朝フランが机に鞄を放り出すと
「フラン、ちょっと…」
と、前のドアの所で隣のクラスの顔見知りの女子がチョイチョイとフランに手招きをした。
去年同じクラスだったアン・カーペンター。
陸上部所属のスポーツ少女。
ジェニーと仲が良くてその関係でクラスが同じ頃はちょくちょくつるんでいたが、最近はあまり話す事もなかった。
珍しいな、と思ったフランは、そこで思いつく。
ジェニーが言っていた旅行だ、当然アンも行くのか。

「なに?旅行の事?」
ガタっと立ち上がってかけよると、アンは複雑な表情でフランを見上げた。
「…やっぱり…ホントに行くんだ。」
そのアンの意味深な言い方にギクリとするフラン。
…まさか…裏が…
「えと…何か裏あったり?シンディのおじさんのやってるペンションに1000円で泊まらせてもらえるし、男手が足りないって言うから、おっけいしたんだけど?」
嫌~な予感がして言うフランにアンは同情の視線を送った。
「えと…ね、元々はシンディが彼氏と旅行って事で、彼氏の友達3人連れてくるって言う話になって、私とソフィーとジェニーも来てって事だったんだけど……」
「彼氏…マイクかぁ…」
「…うん…」

マイク、同じクラスにはなった事はないが同級生。
他人の彼氏をどうこう言うのはなんだけど…とフランは思う。
フランの学校であまり柄のよろしくない事で有名な空手部であまりよろしくない噂を聞く輩で…つるんでいる面々も同じくあまりよろしくない噂を…。

「でね、あの連中と旅行って怖くて嫌だったんだけどシンディ一人にするのはもっと怖いからって話をね、3人でしてたら、ジェニーが生け贄連れてくるって…」
(そういうことぉ…?)
がっくりと肩を落とすフラン。
そう言えばジェニーは昔から可愛いがちゃっかりした娘だった。やられた!と思う。

「やっぱフランの事だったんだね。ま、フランいれば確かに安心だけど♪じゃ、また春休みだね♪」
サラっと不吉な情報を残して自分の教室に戻って行くアン。
その後ろ姿を見送って、フランは諸悪の根源、小悪魔の登校を待った。

「ジェニー~!!!」
ジェニーが後ろのドアから入ってきて席に着くなり、フランは叫んで駆け寄った。
「おはよっ!どうしたの?恐い顔してっ」
にこやかに手をあげるジェニー。

「どうしたん?じゃないでしょっ!お兄さん死ぬじゃないっ!マジ死ぬって!」
今までトラブルに巻き込まれたのは偶然だった。でも今回はどう考えても必然だ。
もう巻き込まれるのは最初からわかっている。
というか…今度は自分が殺人事件の被害者になるんじゃないか?とつめよるフランにジェニーはあははっと笑った。

「あ~アンあたりに聞いちゃった?」
「聞いちゃった?じゃないでしょうが…。空手部4人に詰め寄られたらお兄さんマジ死ぬよ?」
「あ~大丈夫っ。空手部っていっても格好だけだしさっ。空手有段者のシンディの伯父さんが止めてくれるよ、死ぬ前にっ」
悪びれずに言うジェニーにフランはため息をつく。

「無理…キャンセルする…。行かない。」
死なないまでも痛い思いは嫌だ。
しかしジェニーはきっぱり
「無理っ。もう予約入れちゃったしっ。他断っちゃったからね~、どうしてもドタキャンするっていうならキャンセル料高いよっ?」
「高くてもいい。命には変えられないしっ」

さすがに…こうありえないレベルのトラブルに巻き込まれ続けてると、基本的には楽天家のフランでも学習する。
普段はことなかれで流されてくれるフランのきっぱりとした拒絶にジェニーはちょっと考え込んだ。

「フラン…シンディ心配じゃない?」
その顔から笑みが消えて、真剣な瞳がフランを見上げる。

「私達もさ…ホントは怖いんだよね…。でもさ、シンディだけで行かせるわけに行かないじゃん?」
確かに…ジェニー達にしても楽しくて行くわけではない。
男の自分ですら怖いのだ。女3人怖くないわけはない。

「お願い。ホントに仲いいフランにしかこんな事頼めないんだよ。」
ジェニーは真面目な顔でフランに手を合わせた。

「でも…さ、お兄さん一人いてもしかたなくない?」
少し揺らぐフランにジェニーは後一押しとばかりに言う。

「だから一人じゃないって。空手有段者のシンディのおじさんもいるし。でも4対1とかじゃあまりに分が悪いじゃん」
確かにそうだが…別に自分は武道有段者というわけでもないわけだから…いてどうなるよ、と、思った瞬間、フランは思いついた。

「あ…じゃ、もう3人連れて来ていい?男だけど」
どうやら押し切られたっぽいフランの言葉にジェニーは笑顔で
「もちろん!じゃんじゃん連れて来ておっけぃ♪」
とうなづいた。

「…というわけなんだけど…」
まあ…あとはお決まりなわけで…。
その夜フランはギルベルトに電話をかけた。

とりあえず悪友二人どころかアーサーすら自分よりは強い。
その中でもギルベルトはアーサーと出会った時の事件のナイフを持った犯人を素手で取り押さえたくらいの武術の達人だ。

「俺はいいけど…アーサー達は了承取れたのか?
そんないわくつきの旅行にアーサー連れていくのなんて、トーニョが絶対に許しそうにない気するんだが…」

なんのかんので実は人のいいギルベルトはもちろん全ての事情を話したら了承してくれたわけだが、そこで持ち前の心配性も顔をのぞかせる。

フラン的には…3回遭遇した殺人事件のうち2回仲間を守りきってくれて、さらにその全てを解決して見せたこのありえないスペックの高さを誇る男がいれば、たかだか不良高校生くらい屁でもないと思うが、前回の温泉旅行での事件のように、万が一ギルベルトに何かあるとも限らない。
保険にその事件の時に主に事件を解決に導いた二人も誘っておきたい。
そこで姑息な手を使ってみようと思う

「うん…だからさ、アーサーの方に交渉してみようと思って。アーサーが了承すればもれなくトーニョもついてくるし…」
「あそこは…帰宅してからはいつ一緒にいていつ一緒にいないのか謎だぞ?」
ギルベルトは以前アーサーにメール送ったら即効何故か一緒にいたらしいアントーニョに消された挙句、呼び出しをくらった過去を思い出して、電話の向こうでため息をついた。

「うん、だからメールでさ。学校いる間なら絶対に一人だろうし…」
「メールだけで説得できるって?」
とギルベルトが言った途端に、PCの方のメルアドにメール。
「なんだ?」
と開いてみると何ともメルヘンの国のお城を小さくしたような可愛らしいペンション。
「可愛いでしょ?」
と電話口で笑うフラン。

「あの子あれで可愛いモノ大好きだからね。湖畔のお城で落ちてくれないかな~なんて思ってるんだけど」
「お前…無意味なところであざといなぁ…」
呆れるギルベルト。
おそらくこれでアーサーは落ちて…確実にアントーニョも釣れるだろう。
その変なところでだけ発揮する知恵をもっと有意義なところにつかってくれ…とギルベルトはまたため息をついた。

翌日…アーサーには学校にいる時間にメールを送っておく。
案の定アーサーからは参加の意思表示。
返答が当日じゃなく翌日で、ほぼ同時刻にアントーニョから【覚えとき!】というタイトルでやはり参加表明のメールが来たのは、とりあえず行きたいアーサーと行かせたくないアントーニョの間で揉めていたためと思われる。
だが、かくして…護衛確保!
これでなんとか不良にふるぼっこは回避したと、ホッとするフランだった。



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