本田菊の策略_12

すさまじい光の中、目がくらみ、視界が遮られる事に焦って、スペインはぎゅうぎゅうとイングランドを抱きしめる腕の力を強めた。

ここで逃したら二度と会えない…そう思うと自然と力がこもる。
もしかしたら光に溶けて消えてしまうのかもしれない…そう思ったスペインだが、実際は逆だったようだ。

それでもスペインや他の国々に比べれば随分細いが、腕の中のイングランドは体積が増えたように思える。

頼りなかった少年のそれは、細身だが若干大きい青年のモノになっていた。

そして…ようやく光が消え、眩んでいた視界が戻ったスペインの目に映ったのは、成長したイングランド…現代のイギリスの姿だった。



「…離せよ……」

スペインの視界が戻った事に気づいたのだろう。
イギリスはスペインの腕の中で居心地悪そうに身じろぎをして言うが、スペインは即

「嫌やっ!」
と拒絶する。

「…さっきまでの事、覚えとる?」

と、半ば確信して聞くと、イギリスはきまり悪げに黙りこんだが、その沈黙こそが肯定と受け取って、スペインは離れようとするイギリスの身体をさらに引き寄せて抱え込んだ。

しかしイギリスはもう一度

「離せよ…」
と、短く言って離れようとするので、スペインはさらにもう一度

「ぜ~ったいに嫌やっ!」
とそれを拒否した。

「なんでだよっ?!嫌がらせかっ?!」
腕の中でしゃくりをあげ始めるイギリスに、スペインの方こそ泣きたくなった。

「なんでそうなるん?自分、さっきまでの事覚えてへんの?!」

抱いて欲しいとまで言うということは、まだ自分を好きだと思ってくれているということではなかったのか?

「からかうなよっ!!」
と、さらに続けられる言葉に、それは親分のセリフやで…と、思わず口をついて出る。

「さっきの…親分のことまだ好きやって思ってくれとるからやないん?」

ここを否定されたら、その事については嬉しかっただけに泣きそうだ。

まあ…ここまで来たら、否定されても情熱の国の名にかけて口説いて口説いて口説き落とすつもりではあるのだが…。

しかし返ってきた言葉は…

「……お前…俺のこと嫌いだろ……。」

で、なんというか…ドッと力が抜けた。

「なんでそうなるん?この1週間の事ほんま覚えてへんの?
親分、めっちゃ愛情示したつもりなんやけど……」

感情が非常にわかりやすいと言われる自分なのに、全然伝わってなかったのか?
ああ、あちこちでフラグクラッシャーと言われるのがよくわかる。
そんなことを考えていると、イギリスが腕の中でぼそぼそと付け足した。

「…500年前の……昔の“イングランド”の事は好きだったのかもしれないけど……」

あ~、そこか。
プロイセンの言っていた事が本当なら、誤解がとけていないのか…。

ようやく思い当たったスペインは両手をイギリスの背中と後頭部に当てて、ぎゅうっとその自分より一回り細い身体を抱きしめた。

「一応訂正しとくと、一週間前のキモい、消えろて発言やったら、あれフランスに言うた事やからな?
親分、確かに昔のお前も好きやったけど、今のお前もめっちゃ好きやで?
ていうか…あの頃から今まで、好きやなかった時代はないんやけど…。
代理戦争のあたりから自分に嫌われたて思いこんでて、辛すぎて近寄れなかってん。
何度も諦めよ思うたんやけど、無理やった。
ずっとそんな思い抱えたまま500年すぎてもうたんやけど…」

と、そこでいったん言葉を切って、身体を少し離すと、真っ赤になっている愛しい花嫁の顔を覗きこんで視線を合わせて、

――……諦めんでええんやろ?ほどよく育った事やし…な?
と、低くささやくと、イギリスが飛び上がって、ぶんぶんと首を横に振る。

「む、無理っ!」

「無理ちゃうわ。自分から言い出した事やで?」

「あ、あれはっ…そうっ!昨日だからでっ!」

「昨日から今日なんて劇的に変わらへんやろ?
我慢しとったんに、火ぃつけてもうたのは自分やからな?
責任取りっ!」

グイっと再び掴んだ腕をひっぱると、ぽすん!と腕におさまってしまうイギリス。
わたわたと離れようとするのを力で押さえこんで、

――焦らさんといて?…なあ…結ばれたいねん…
と耳を食むようにしてささやくと、ヘタリと力が抜けたので、そのまま抱き上げてベッドにおろす。

フラグクラッシャーにフラグをへし折られる前にまず既成事実を……


その考えは決して間違いではなかったかもしれないが、詰めが甘かった事を、幸せな気分で眠りについた翌朝、確かに抱きしめて寝たはずのぬくもりが消えている事で、スペインは思い知る事になる。

「ありえへん……」

半身起こしてガックリと肩を落としたのも一瞬、

「でも両思いってわかったからには、諦めへんでっ!
地の果てまでも追いかけたるっ!!」

と、決意もあらたに起き上がり、さっと服を身につけると、スペインは携帯と財布をジーンズのポケットにつっこんで、寝室をあとにした。





その数時間後……

「へ?なんでうちにいるのよ、坊っちゃんっ。
スペインと一緒にいたんじゃないの?!」

日本でオタ充して楽しく帰宅したフランスが自宅で目を丸くすることになる…。


哀れフランス。
どこまでも巻き込まれ体質の世界のお兄さんに、情熱の太陽の怒りが向けられる日は近い…が、それはまた後の話。



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