実は最近日本の“キャラ弁”に凝っているプロイセンはそれに必要な各種材料を日本から送ってもらっていた。
それを駆使して早朝からイギリスのためのランチの制作を開始する。
海苔を切り抜いて絵を描いてデコふりで色をつけた○カチュウのご飯と○ィグダのウィンナーにミニトマトとうずら卵で作った○ケモンボールの弁当を作ったのは、ほんの出来心だった。
日本と仲が良く、和食にも親しんでいるというイギリスに日本風のランチは良いとしても、さすがに23歳成人男性に○ケモン弁当は少し恥ずかしかったか…と、昼休みに入る頃には少し反省していたのだが、弁当箱を開けたくらいの時間にピロピロと鳴り響くメールの着信音。
恐る恐る開いてみると、驚くほど興奮したイギリスからのメール。
日本に遊びに行って知った○ケモンが大好きで、特に○カチュウは実在する妖精だと信じていたら架空のものだと知ってショックを受けた事など、他には絶対に言わないよな…と思うような事が本当にすごい勢いで書き連ねてあり、最後はプロイセンの子どもに生まれたかったで〆られていて、その発想にプロイセンは他のスタッフもいる控室だというのに、思わず爆笑した。
『子どもじゃなくたって、別に作って欲しけりゃいつでも作ってやんぜ』
と返すと、
『とても…とても、嬉しい。サンクス』
と、最初のメールとは反対に短いメール。
しかし普段滅多に素直に喜びを現す事のないイギリスそのデレの価値は、本当にプライスレスだと思う。
イギリス…マジ可愛い。可愛すぎじゃね?
と、それに内心悶えていたら、いつのまにやらスタッフルームにプロイセンを訪ねて来た悪友に、悪いことを企んでいる犯罪者のような凶悪にして気味の悪い顔はやめろと言われて、思わずどつき倒した。
それからその会議中はプロイセンが弁当を作ってやっていたが、初日に漬け込んだベーコンを燻すためイギリスがプロイセンの家に来た時、
「プロイセン…頼みがあるんだけど…な…」
と、プロイセンのエプロンの端をツンツンと引っ張る。
こういう仕草にプロイセンが弱いのをわかっててやっていたらすごいと思うが、おそらく無意識だろう。
どうやらプライベートで物を頼み慣れていないイギリスはひどく緊張しているようで、断られたらどうしよう?と、不安でその大きな瞳が潤んでいる。
「おう、なんだよ?
言うだけはタダだから言ってみ?
聞くだけは聞いてやるし、OKできることならやってやるから」
と、クシャクシャっと最近はすっかり癖になったように頭を撫でると、イギリスはホッとしたように少し困ったような迷うような笑みを浮かべる。
そんな不器用な子どもに実は弱いプロイセンはなんだかその願いとやらを叶えてやりたくなって、
「あ~、もうお前可愛いなぁ。
わかったっ。俺様にできることなら何でもやってやっから言ってみ?」
と、振り返ってイギリスに視線を合わせた。
あのイギリスがわざわざ頼むことだ。
どんなすごい願いなのかと思いきや、思い切って…というように告げられた願いは、ある意味ささやかにして意外なものだった。
――弁当…俺も誰かに弁当作ってみたい…
続けて、
――プロイセンに作っちゃダメ…か?
と、コテンと小首をかしげて上目遣いに伺う様子は本気で可愛すぎて凶悪だ。
これを拒否れる人間がいたらお目にかかりたいと思う。
いや…可愛すぎて断れず、うんと言ってしまってからあとで拒否る。
それが一般的な反応だろう。
しかしプロイセンは覚悟を決めた。
確かにイギリスは食物兵器をよく作成するが、何も手が触れたからと言って食材が化学変化を起こすわけではないだろう。
現にジャムは美味いし、プロイセンが手伝わせた事に関してはきちんとできている。
一緒に作ったベーコンはいつもプロイセンが作るものと変わらず美味い。
つまり…きちんとした手順を守らせれば普通のものが出来るはず。
手芸の腕を見る限り不器用なわけでもなければ、経済関係を見る限りいい加減なわけではないので、ちゃんと教えてやれば絶対に上達するはずなのだ。
と言う事で、イギリスの脱料理下手を目指して自分に弁当を作らせるということで特訓する事にした。
こうしてそれからは逆にイギリスがプロイセンの弁当を作ることになったのである。
そしてプロイセンがそれを了承した時、もう一つ了承させられた事がある。
それが、外に持って行く場合、弁当の作り主がイギリスである事を秘密にすることだ。
「あ~やっぱ恥ずかしいとかか?」
と問うと、当たり前に、
「違げえよ」
と返される。
「なんていうか…誰かとの間に秘密を持ってみたい!」
――なんか仲良い奴がいるみたいだろ?
と、胸を張って斜め上の宣言するドヤ顔。
でも可愛い。
まあプロイセン的には実害はないので、それも了承してやった。
たとえ多少の実害があろうとも、その時のイギリスの本当に嬉しそうな顔を見たら、ま、いっかと思ったであろう事は請け合いではあるが…。
こうして週末はたいていどちらかの家で料理修業。
イギリスには絶対にこのレシピを守れ…と、きっちり分量と時間を書いたものを渡して1人で作らせてみる。
幸いな事に、料理が下手でまずい料理でも食べられる半面、フランスの料理で育っているので美味い料理とまずい料理の区別がつかないわけではない。
レシピのままだと火の通りが甘いのでは…と言いだす時には、その料理の半分をレシピ通りの火加減で取り出し、もう半分は納得のいく火加減までやらせて、食べ比べさせる。
「な?こっちの方が美味いだろ?」
とそれを食べ比べさせれば納得する。
納得できれば次からは火の通し過ぎがなくなる。
当然次からきちんとレシピを守って美味しいものを作れるようになった時には思い切り褒めてやるのも忘れない。
そんな風にまるで子どもに教えるかのように地道にコツコツと教えて行った結果…元々は器用なイギリスの料理の腕はどんどんあがっていった。
細工に関して言えばもう、器用な上に可愛らしいセンスをしているので、プロイセンよりもよほど可愛らしいものを作る。
こうして料理も含めて家事が完璧なイギリス様の出来上がりだ。
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