悲運の俳優はヒロインを想って退場を決意する
「あーちゃん、あーちゃんっ!!!」
そのまま警察に運ばれて意識を取り戻したアーサーを抱きしめて、アントーニョは泣いた。
普段饒舌な質である男が、もう言葉も出ない。
ただただその体温を確かめるかのように、アーサーの白い頬に自らの頬をすりつけた。
そこにギルベルトがこちらに来る前に連絡を取ったもう一人の人物が現れる。
「ギル…頼む。ぜってえ悪いようにはしないから、話をさせてくれ…」
と、アーサーを抱きしめるアントーニョから少し離れて立っているギルベルトに、ロヴィーノは少し思いつめた様子で懇願する。
「たぶん…ここまでいったらアントーニョの言葉じゃ納得できなくなってると思う。
だから…頼む。
それが真実じゃなかったとしても絶対にアーサーを苦しめるような事は言わねえよ。
俺に説得させてくれ。」
いつのまにか自分と同じような視線をアーサーに送っているロヴィーノに、ギルベルトはうなづいた。
そしてひどく渋るアントーニョに、アーサーのためだから自分と共に席を外すようにと言い含める。
普段なら絶対に了承しないであろうアントーニョだが、今回の事は堪えたのだろう。
渋々ではあるが、それに従った。
「…アーサー…わりい…。誤解させた。」
それはロヴィーノ的には非常に不本意な嘘ではあったが、同時にアーサーを一番心安らかにできるだろう理由付けになる。
「俺がアントーニョに頼んだんだ。好きな奴の気をひくのに協力してくれって。
ごめん…あいつとアーサーが付き合ってるなんて知らなかったからさ…。
俺がアントーニョの事好きな振りでもすれば、ちっとは気にしてくれねえかなぁなんてさ…」
「好きな…やつ?」
思ってもいなかったロヴィーノの言葉に、アーサーは目をぱちくりさせる。
「ああ。これからはアントーニョもお前も巻き込まずに自分で頑張ってみるからさ…ごめんな?」
少し苦い笑いを浮かべるロヴィーノに、アーサーは身を乗り出した。
「お、俺は巻き込まれてもいいぞっ!協力するっ!ロヴィーノは…その…友達…親友…だし。」
親友……そう、少し照れたように言い直すアーサーに、ロヴィーノは少し胸の奥が痛んだ。
だがアーサーを傷つけるよりはこの胸の痛みを抱えて生きたほうがいい…ロヴィーノはそう決意して、痛む心を押し殺して笑ってみせた。
「サンキュ。アーサーが協力してくれたら百人力かもな。俺よりアーサーの方が親しいやつだし…」
その言葉にアーサーは一瞬考えこんで、次に思いついたように顔を上げた。
「ギル…か?」
ある程度確信を持った様子で聞くアーサーに、ロヴィーノはうなづく。
「とりあえず…本人にはまだ言うなよ?秘密な?」
「ああ、もちろん!でも俺に協力出来ることがあったらなんでも言ってくれっ!
ギルはすごくいいやつだぞっ。さすがロヴィ、目が高いなっ」
(好きな奴にこんなに嬉しそうに他の奴との仲を協力するって言われるのは、マジきついな…)
そうは思うものの、好きな相手を泣かせるよりは自分が泣いた方が百倍良い…ロヴィーノはそう自分を納得させると、
「ああ、その時はマジ頼むな」
と、またアーサーにむかって笑ってみせた。
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