ファントムの呪いは女優達を襲う
翌日…朝起きるとカークランド邸にはやっぱり花束が届いていた。
「またなん?」
ポストから花束を抱えて戻ってきたアーサーに少し不機嫌な声を出すアントーニョだったが、アーサーは黙って花束に添えられていたカードを差し出した。
「どないしたん?」
アントーニョが受け取って目を通すとカードにはやはり一言…
- ラウルといつまでも幸せに。クリスティーヌの幸せだけを切に願うファントムより -
「ラウルはヒロインのクリスティーヌの恋人な。」
と、アーサーは知らないであろうアントーニョのためにそう一言説明を加えた。
これは……
「諦めたん?」
とつぶやくアントーニョにアーサーは小さく、みたいだな、と言う。
「この花、キンセンカの花言葉は - 別離の悲しみ - だから。」
昨日の今日でどんな心境の変化があったのだろうか…というか、贈り主は結局わからないままだ。
だがまあ、諦めてくれたのならそれ以上は追求すまい。
しかし…念のため…
「じゃ、せっかくやしこれは居間にでも飾っとくさかい、あーちゃん着替えてき。」
と、昨日と同様、カードと花束を受け取ると、アーサーを自室へと促し、カードだけ例によって保管する。
そうしてまた当たり前に忙しい一日が始まった。
今日も生徒会室は忙しい。
物品が足りないだの、隣が自分達の方まで割り込んでくるだの、些細な事で生徒会室に苦情を言いにかけこんでくる一般生徒。
しかも今日はかけこんできたのは一般生徒だけではなかった。
「カークランドを出せ!」
と、どこかで聞いた声に、アーサーはため息まじりに立ち上がり
「松永さん、申し訳ありません。ご覧の通り立てこんでおりまして談笑でしたら…」
と、言いかけて、そのただならぬ様子に口をつぐんだ。
「今日は談笑じゃなくサッカー部のOBとしてやってきたっ!」
と言いつつ一歩前に出る松永とアーサーの間に、アントーニョがすかさず身体を割りこませる。
その態度に松永は一瞬むっとしたが、結局諦めたらしい。
しかしその場に立ちすくんだ松永が続けて口にした
「うちの候補者の所に今脅迫状が届いたらしいぞ!
”ミスコン降りろっ。さもなくば災いがふりかかるだろう”なんてふざけた内容の!
しかも相手ファントムとかふざけた名前名乗って!調査しろっ、調査っ!」
という言葉にアーサーとアントーニョは凍り付いた。
また”ファントム”か…。
顔色を変えるアーサーに松永は
「何か知ってるのか?」
と聞いてくる。
アーサーは言うべきか迷ったが、結局
「俺の所にも”ファントム”を名乗る奴から謎のカードが届いてまして…」
と、打ち明けた。
「一応調査しますので、この脅迫状を持って来てもらえるように交渉して頂けますか?
警察もそれだけでは動いてくれないでしょうし、状況によってはミスコン自体行うかどうかの検討もしなければなりませんので。」
とのアーサーの言葉に、松永は慌てて
「何言ってる?!海陽の伝統だぞっ!!そんな脅迫状一つで中止させるつもりかっ!みっともない!!
お前何件も事件解決したんだろうがっ!そのくらいなんとかしろっ!!
中止なんて絶対に許さんっ!
脅迫状ならここにある!部長の越智から連絡きてすぐ車飛ばして候補者の家に行って取って来たっ!」
と叫んで封筒を押し付ける。
この期におよんで伝統もクソもない気が…どんだけ楽しみにしてんだよミスコン…とは思うものの、一応まだ実害がでてないだけに何とも言えない。
見るとそれはごくごくありふれた白い封筒に入ったカードに
- ミスコンを降りろ。さもなくば災いがふりかかるだろう -
というワープロの文字と、その下にファントムの署名。
アーサーのカードと同じく署名もワープロ。
「とりあえず…お預かりします」
とだけ言ってハンカチごしにその封筒ごとカードを受けとると、アーサーはギルベルトに
「名探偵、これ、頼む」
とそれを渡した。
「名探偵、これ、あーちゃんのとこにきとったカードな。一応持ち歩いとったんや」
と、それにならってアントーニョもカバンの中からアーサーに届いた花束に添えられていた2通のカードをギルベルトに手渡す。
「え?俺様かよ?」
慌てて受け取りつつ自分を指差すギルベルトに、
「あ~どちらでも構いませんが、生徒会の仕事に支障はきたさないようにおねがいしますよ、ギルベルト。」
と、ローデリヒがトドメを刺した。
その日はその後、テニス部の部室と化学部の部室に同様のカードが届いたとの届出があり、
集まったのは全部で5通のカード。
ちなみにその3つの部はいずれもミスコンの優勝候補と呼び声が高い部だ。
「…ここまで来てこれかよ…。忙しいのに…」
と、それを目の前に並べてギルベルトはため息をついた。
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