ファントム殺人事件 第一幕_6

舞台の袖で役者達はそれと知らず真実を配る


そんな風に朝から少しばかりのトラブルがあったが、アントーニョはカード確保に成功すると、それをカバンに忍ばせつつ、アーサーと共に学校へと向かった。

昨日に引き続き…というか、学祭までは生徒会室は戦場だ。

それでなくても4人しかいない正規役員の中で書記のロヴィーノがミスコン候補として時間を取られる事になるので、アントーニョも当然臨時お手伝いとして使われる事になった。

もちろん外部に対して何かする場合は正規の役員であるギルとローデリヒが向かうことにはなる。

今日も、学祭でこれも毎年恒例の兄弟校とのトーナメント方式の試合を行う剣道部と体育館の使用の時間帯について副会長のギルが打ち合わせに行ったため、雑用全般、コピー取りから力仕事まで当然アントーニョの仕事になっているが、それはそれでアーサーの側に居られるのでなんにも不満はない。

ただたまに幼馴染からの刺すような視線を感じて、アントーニョは少し戸惑った。

「ロヴィ、お茶淹れたいんやけど、カップこれでええん?」
と、戸棚をあされば
「あ~、勝手にいじんな。配置とかあるんだよ。アーサーのお茶は俺が淹れる事になってるから、お前はこれコピーな」
と、書類を渡され、部屋の端のコピー機に張り付かされ、

「あ~ちゃん、この書類なんやけど…」
と、書類の不備らしいものをみつけて会長のデスクに近づこうとしたら、
「んなことで会長の手を煩わせるな。ローデリヒに聞け」
と、道を遮られる。

元々愛想が良い方ではなかったが、どうにも物言いが邪険なだけじゃなく、アーサーと引き離されているように感じて仕方がない。

万事がこんな感じで、休憩を取らせようと朝焼いたクッキーを取り出すと、

「それアーサーのだな?」
と、当たり前に片手に皿を持ったロヴィーノの手が伸びてきて、それにクッキーを並べると、
「美術部が学園祭に使う荷物が届いてるから、廊下に出しといてくれ」
と、部屋の隅のダンボールをゆびさされる。

そしてロヴィーノ自身は、ティーカップとトレイを手に会長のデスクへ。

「今日は…カモミール?」
「ああ、リラックス効果があるから。アーサーも忙しいだけじゃなくてOBとかゾロゾロ来てて疲れてんだろ?」
コトリと当たり前にアーサーの前にだけ置かれるティーカップ。

コーヒーか紅茶か緑茶…そんな程度の選択しかないアントーニョと違って、ロヴィーノはハーブティにも詳しいらしい。

(そう言えばこいつ、忘れとったけどボンボンやしなぁ…)
男でハーブに詳しいのもすごいなぁ…と続いて思った時に、ふと嫌な考えが脳裏をよぎった。

ハーブに詳しい…洒落っ気のある…ということは…もしかして花言葉や舞台にも詳しい?
そう思って見てみれば、幼い時から人見知りが強いだけではなく、ぶっきらぼうで素直じゃないロヴィーノにしては、随分とアーサーにだけアタリが柔らかい。

…まさか…花の贈り主は……

「ちょお、ロヴィ…」
居てもたっても居られず、アントーニョがそう声をかけた瞬間、

「おまたせ~」
と、大量の衣装を抱えたフランが、何故か黒河幽斎を伴って生徒会室に入ってきた。

「幽斎先生っ、うちの学生が失礼を?!」
慌てて立ち上がって駆け寄るローデリヒを軽く手で制すると、黒河は
「いや、たまたま廊下であってな。なんだか懐かしくなって今年の生徒会の参加者を見にきたわけなんだが…会長のカークランド君ではないんだね。」
と、チラリとアーサーに目を向けた。

「ええ、今年は2年のヴァルガスが出場します。」
アーサーも立ち上がって黒河に椅子を勧めると、自ら紅茶を淹れ、話し相手を務める。

そうしているうちにロヴィーノはフランと衣装合わせに隣室へと消えていった。

ローデリヒも黒河との会話に加わって、アントーニョ一人妙に所在がない。

仕方なく一人黙々と大量のコピー作業をこなしていると、妙にテンションの高い笑い声が聞こえてきて、再度生徒会室のドアが開いた。

「お~、黒河先生が来てたのか~」
と、ギルベルトと談笑をしながら入ってきたのは、やはりサディクだった。

「今日はどないしはったんです?またあーちゃんに用ですか?」
と、アントーニョが応対すると、サディクは

「いや、今日は剣道部のOBとして後輩見にきたところに、昨日の生徒会で見たツラがいるんで、ちょっと雑談をな。
で、ついでに生徒会のミスコン参加者を拝みにきたってわけよっ。
カークランド差し置いてってことはよっぽど美人なのかと思ってなっ」
と、いつものように豪快に笑って言う。

「あ~、ロヴィなら今衣装合わせの最中ですわ。待ちはります?」
アントーニョが椅子を勧めると、サディクはわりいなっと言って腰を下ろす。

「まあ…バイルシュミットに聞いたんだが…松永みてえなのが絡んできたら、とりあえず俺に言えよ?一応おまわりさんだからなっ。
あいつももうすぐ嫁さんもらう予定だから無茶な事はしねえと思うが、前までは随分色々ちょっかいかけてたからなぁ…。OBと称してサッカー部入り浸ってたのも、目つけてた奴がいたからって話しだしな」
少し眉間にシワを寄せるサディク。

「サディクのおっちゃんはちゃうの?」
ことアーサーのことに関してはつい用心深くなるアントーニョが探りを入れると、サディクはオイオイと苦笑した。

「勘弁してくれよ。俺は桜さん一筋なんだからよ」
「桜さん?」
「おう!俺の愛しのカミさんだよ。もうこれが可愛くってよ~。浮気なんかする気しねえ」
と相好を崩すようすは、嘘を付いているようには思えない。

見るか?と、頼みもしないのにいきなり見せられた写真は、なるほど清楚で可愛らしい女性が写っている……が……

「エライ年の差婚なん?めっちゃ奥さん若い気ぃするけど…」

犯罪臭するで…とアントーニョがいうのに、ギルベルトがさすがにパコーンと後頭部を叩いたが、サディク自身は気を悪くする風もなく

「ああ。17歳違うな。俺が口説いてお願いしてようやく結婚出来たカミさんだからな。他に手を出すなんてお天道さまが西から登ったってありえねえ」
と笑った。

「あ~わかるわぁ…。俺も綺麗やな~カッコエエな~思う奴はおっても、単にそういう人やなって思うだけで、あーちゃん以外とどうこうなりたいとか思わんもん。」

「そうだろっ?惚れる相手なんて一人で十分だよなっ!」
「うんうん。同感やわ~」

と、妙なテンションで盛り上がる二人についていけず、ギルベルトは一人大量の書類の山を処理しながら、

「一人楽しすぎるぜ~」
と呟いて、ケセセっと笑った。


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