ファントムの恋文
「日曜やっていうのにデートもできひんなんて…」
ブチブチ愚痴りながらも、学園祭の準備で登校をするアーサーのために朝食を作るアントーニョ。
今日も付いて行こうとは思っているが、アーサーは忙しく、副会長のギルベルト、生徒会のミスコン候補の衣装を任されたフランに混じって、微妙に手持ち無沙汰だ。
良い季節でもあるしどうせならデートでもしたいなぁと思いつつも、仕方なしに弁当の他に、少しでも構えるように休憩を促す理由付けにとクッキーを焼いていたアントーニョは、草木の水やりがてら新聞を取りに行ったアーサーがキッチンに入ってきた気配を感じて振り向いた。
「なんや、それ?」
「金雀枝。」
と答えるアーサーの手には可愛らしい黄色の花束。
「いや…花の名前やなくて、それどないしたん?」
当たり前に花の名前を答えるアーサーに苦笑しつつ、アントーニョが更に聞くと、アーサーはやはり端的に
「ん~ポストの前に置いてあった。」
と答える。
「…あ~ちゃんに…やんな?」
「そうなのか?やっぱり。一応ここお前も住んでるけど元々俺ん家だし…」
「誰から?」
面白くない。おおいに面白くない…そう思いながら相手によっては闇討ちにいったろか…とアントーニョが内心思って聞くと、アーサーは困ったように眉を寄せ、
「カードはあるんだけど…」
と、花に添えられていたらしいカードをアントーニョに渡した。
カードには宛名も差出人もなく、ただ一言
- クリスティーナへ あなたに恋するファントムより -
と、書かれている。
「あーちゃんのお母ちゃんがクリスティーナさんやったとか言うオチかいな?」
頭に思い切りハテナマークを浮かべるアントーニョに、アーサーは首を横にふる。
「いや、母はエリザベス。
ていうか…たぶんこのカードの贈り主、オペラ座の怪人に自分をなぞらえてるんじゃないかと思う。
そう考えれば花が金雀枝なのもうなづけるし…」
「なんやそれ?」
近頃、猛勉強をしてある程度成績があがったとはいえ、アントーニョはその手のいわゆる教養の部分になると疎い。
そこでアーサーは説明を始めた。
オペラ座の怪人…は、フランスの作家ガストン・ルルーによって1910年に発表された小説でそれを原作として映画、テレビ映画、ミュージカルなどが多数が作られている。
内容はオペラ座の若手女優クリスティーヌに恋をしたオペラ座の地下にこっそり住み着いている醜い”オペラ座の怪人”ファントムの愛憎劇だ。
「でな、金雀枝の花言葉って”恋の苦しみ”なんだ。
だから醜いファントムがクリスティーヌに悲しくも苦しい恋をする…そういう意味合いで選んだんじゃないかな。
何故俺に贈ってきたのかは謎なんだが…」
アーサーが首をかしげると、アントーニョは忌々しげに
「ようは…顔に自信の無い奴が贈ってきたいうことやな。」
と吐き捨てるように言った。
アーサーは少女趣味なところがあり、ロマンティックな事が大好きだ。
そんなところを見越してわざわざこんな回りくどくも気障なやり方で贈り物をしてきたのだとすると、油断がならない…。
これはあるいは贈り主を割り出して釘を刺さなければ……。
「とりあえず、それ自体に害がないなら玄関にでも飾っとこか。
俺が活けとくからあーちゃんは着替えてき。学校に遅れるで」
アントーニョは何でもない風を装ってアーサーからカードと花を取り上げると、アーサーを部屋に促す。
そして自身はこんなアピールが続くようならギルにでも言ってこっそり調べさせようと、こっそりとカードをビニールに入れて保管することにした。
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