青い大地の果てにあるものGA_10_4

「…あなた何をなさっているんですか……」

女子ジャスティス控室…別名【乙女ジャーナル編集部】

エリザを探してそこに駆け込んだ桜は、目の前のデスクにとある人物をみつけて唖然とした。

何故ここにいる?
ここで何をしている?
ああ、本当に何故ここにいる……?

そう、そんな風に思ってしまう程度には彼女、桜は疲れ切っていたのだ…。






アーサーを回収して早3日。
今基地内は大変な事になっている…

……主に…桜の取った行動のせいで……





別に間違った事はしていない…というか、そうするしかなかったのだが、先日の救出劇、あれが事の発端だ。

あの時の桜の行動のせいで、本来なら全員無事回収でめでたしめでたしの結果も、ブレインvsフリーダムの対立を勃発させているのである。



元々両本部は代々仲がよろしくなかったらしい。

全てを管理して計画通りにやりたい管理側のブレインと、敵も機械ではないので机上の論理の通りでは動いてくれないため、現場の状況に合わせて臨機応変に動きたい実働部隊のフリーダム。

双方立場も違えば望む方向性も違うため、揉めるのもわからなくはない。

現在の両部長はまだ就任したてのため小さな諍いはあってもそこまでの軋轢はなかったのだが、今回の事で対立姿勢がかなり見えて来た。



あの日…アントーニョの気づかいで2時間ほど車でゆっくりしたあと戻った基地で

「なんでまず俺に連絡しねえんだよっ!!」
と、かなりご立腹のロヴィーノに出迎えられた。

怒られるのはもう仕方ないと思う。

桜はきっちり命令をガン無視するだけでなく、ブレインの方には言ったら反対されるだろうということでブレイン側には内緒で、確信犯的にフリーダムに話を持ちかけている。

ここは理由があったにしてもとりあえず『自分が勝手に申し訳ありませんでした』…と、とにかく謝り倒すのが平和な道だ

そう思って一歩前にでかけた桜を、しかしながらアントーニョが止めて代わりに自分が前に出た。

そして言う。


「何言うとるん。
自分の指示聞いとったら魔術師のお姫ちゃん死んでもうてたで?!
貴重なジャスティスみすみす死なせるつもり満々な指示だす奴のメンツのためだけに、その指示撤回したってなんて無駄な時間使う暇あったら、少しでも迅速に救出は当たり前やろ!」



おそらく体育会系でフェミニストなアントーニョは桜を庇ってくれようとしているのだろう。

ありがたいことだ。
そう…本来はありがたいことなのだが…

うあ~うあ~うあああ~~~~!!!!!

空気が読めすぎてしまう桜は心の中で頭を抱えて絶叫した。

これ揉める…絶対に揉める…と思っていたら、案の定ロヴィーノも激昂した。


「敵が本部を急襲するとこだったんだぞっ!!!
本部には他のジャスティスも居れば職員もいるし…もっと言えばまだジャスティスを選んでないフリーのジュエルだって安置されているっ!
これ以上の犠牲を避けてそちらの防衛を優先させるのは仕方ないだろっ!!」


そう言うロヴィーノの言葉は桜もわかる。

感情的には納得できなくても、ブレインの本部長としての立場上ロヴィーノがそういう方向で動くのはもちろんわかる…のだが、アントーニョはそうではなかったらしい。


「ほな、優秀なジャスティス1人、助かるかもしれへんのに見捨てろ言うんかっ!
俺らも含めて戦地出る人間は自分らのチェスの駒やないでっ!!!
今回はあの子見捨てて全員で防衛したかて絶対に他を守れるなんて保証のないケースやったっ!!
せやったら、少しでも拾える命拾うて撤退言うんが正解やろっ!!
死ななあかん時はあって親分かてその時に命捨てる覚悟はもちろんある!
けど、無能な采配での無駄死にはごめんやっ!!
結果が全てやろっ!!結果見てみいっ!!
自分の命令無視したから魔術師のお姫ちゃん含めて全員生還できてんでっ!!!


きゃあああーーーー!!!!

と、桜はまた心の中でさらに悲鳴をあげた



言ったらいけない言葉、指摘してはいけない事のオンパレードすぎる。

というか、フリーダム本部長は絶対に事を大きくはしても収めようとはしていない…火に油注ぐ気満々だ…


まずい…非常にまずい…どうしよう…と、桜はそこで救いを求めて長い期間一緒にやってきた2歳年下の元相方に視線をむけた。

だが彼女は気づくべきだった。

彼はフリーダム本部長と違って事を大きくしようとは思いはしないが、その手の事に関しては非常に不器用だと言う事を…

アーサーは桜の救援要請に気づいて間に入ろうと口を開いた。

しかしながら桜はその後、彼にフォロー要請を出したのを思い切り後悔することになる。


「悪い。確かに全体の動きを統括するブレイン本部長としてのロヴィーノの判断は正しいと思う。
今回貴重なヒーラーの桜を危険にさらしてしまったのは俺の判断ミスだ。
極東で長くやってきてそのあたりは割り切れてるかと思ったけど、長く一緒だっただけに桜も情を優先してしまったんだと思う。
次にこういう事があったら、皆全力で桜を止めてくれ。
別に俺なら死んでも他に代わりはいるから…

………
………
………


アーサーさんっ!!あなた何を火にガソリンどばどば降りかけてくださってやがるんですかぁーーー!!!!

頭を掻きむしって大絶叫どころの話じゃない。
恐ろしすぎて声も出ない。

本当に…大火事、大災害レベルだ

…と思っていたら、その炎はよりにもよって、見事にジャスティス最強を誇る我らがお館様に綺麗に引火してくれた。


「…これ以上の犠牲を防ぐ…か…」

一気にあたりの空気が氷点下まで下がったような錯覚を受ける。

アントーニョのように声高に叫んだりはしない。

本来自制自律を旨として育てられてきたはずのお館様は、静かに…静かに…とてつもなく冷ややかに怒っていらっしゃる。

もう心の中の絶叫すら出てこない。

ずっと絶対者として見るよう育てられてきた相手…お館様の初めて見る怒りに桜は失神寸前だった。

「…犠牲…な。犠牲にするつもりだったよな…確かに。
後ろに下がっているのがスタンダードの桜だけじゃなく、本来は前に出て後衛の盾になる俺らアタッカーにすら行くなって命じたもんな、お前…。
でも覚えておけ。
あれでタマが死んでたら、俺は命尽きるまで本部破壊し尽くして、道連れに出来る奴みんな道連れにして死ぬとこだったからな?
タマをわざわざ見殺しにしやがったら、もう本部は味方じゃねえ。
レッドムーン以上の倒すべき敵だ」

あれほど騒々しく言い争っていた両本部長は双方一言の言葉もない。
固まっている。

その沈黙を了承と受け取ったらしい。

ギルベルトはさらに

「今後は俺様のいねえところでタマに出動命じたりしたら、怪我しようがしまいが、どれだけ些細な敵だろうが、俺様は本部の人間100人をもれなく血祭りにあげるからな。
覚えておけ」

そう言うとアーサーを抱き上げ、

「そう言う事で蘇生したとはいえ体弱ってるタマをくだらねえ話でいつまでも立たせておくんじゃねえよ。
俺らは医療本部行くからな」
と、医療本部方向へと消えて行った。


その姿が見えなくなってようやく、はぁ~っと脱力しきって息を吐きだす一同。

全員がもうそれ以上何か話す気力もなくなって、その場は解散した。



………
………
………

…が、話はそこで終わらなかった。

アーサーはそのまま念のため医療本部で入院。
ギルベルトはピリピリしながらそのそばを離れない。

 と言う事で報告書その他は桜の仕事とあいなったわけだが、今回はなんのかんので本部長就任以来初めてのアントーニョの出動というのもあって、事の顛末が基地中に知れ渡っていた。

そしてフリーダムのブレインバッシングがまずすごい。

同じ現場仕事と言う事もあり、本部のフリーダムはジャスティスに対しての仲間意識がおそらくブレインよりも強いようで、余計にそうなるようだ。

戻ってすぐ一応お礼をと訪ねたフリーダム本部では桜は大歓迎を受け、また山のような労わりとねぎらいの言葉が降って来た。

なのでそちらはまだ良い。
極東のフリーダムとの関係を振り返れば驚くほど平和だ。

だが、桜のことは労わっても、桜がそういう行動を取らざるを得なくなったブレイン側の指示にはブーイングの嵐がすごかった。

これ…一過性のものだと良いんですけど…と、嫌な予感に駆られながらも桜はフリーダム本部を後にする。

そして問題はその後。
ブレイン本部である。

怖い、気まずい、行きたくない

本音を言えばそんなところだが、それでなくても命令無視だ。

二度と会わないで良いなら良いが、これから嫌でも一緒に仕事をやって行かなくてはならないのだ。

避けるわけにもいかない…。

そう思って書類を届けがてら行ってみるとまず土下座せんばかりの部員達。
命令無視を怒っている様子はない…良かった………とは、しかしながら当然ならない。

そこで桜のみたものは、大勢の部員達からの本部長バッシングの図である。

元々ブレインもフリーダムも、優秀だとしてもベテラン勢を差し置いて早すぎると言われ続けての若い本部長就任で、部内の人心掌握に四苦八苦していたらしく、その中での今回の騒動だ。

風当たりが強いなんてものじゃない。
バッシングの嵐にロヴィーノは死んだ魚のような目になっている。

繰り返しになるが指示自体はブレイン本部長としては必ずしも間違ったものとも言いきれないのもあって、桜は申し訳なさに身が縮む思いだ。

かといって自分で何か出来る気がしてこない。
出来るほど本部の人間関係に通じていない。

そこで桜は適任者に振る事にした。

自分が出来ない事は無理してやろうとするより適任者に振れ。
それは桜が長いジャスティス生活の中で潰れないために学んだことである。



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