その後同行した極東支部のブレインのトップ砂田の挨拶があり乾杯が始まる。
そんな中でアントーニョはひときわ人の集まっているあたりの人ごみをかきわけ、その輪の中心にたどり着いた。
そして
「フェリちゃん、めっちゃ可愛えわぁ」
と、その中心にいる胸元にフリルをふんだんにあしらった真っ白なシャツを着たフェリシアーノに声をかけた。
確かに華奢で何かお伽噺の王子様のように愛らしいし、もともとフェリシアーノの事がお気に入りのアントーニョが真っ先にそう声をかけるのはいつものことだ。
だがその周りには花のように可憐なドレスのお嬢さん達も多数いる。
声をかけるべき相手が違う…と、まずは思うところだが、周りもそんなアントーニョの行動には慣れていて、お嬢さん達本人ですら苦笑いだ。
というか、むしろそれを温かい目で見守るジャスティスのレディ2人。
「まあ…あそこはCPというよりコンビかな?」
「そうだネ。フェリちゃんにはやっぱりルートだネ」
などとニコニコ歓談している。
そんな中、壇上では促されて極東から到着したジャスティスが姿を見せて歓声があがった。
薄緑色の着物を着た少女。
髪は艶やかな黒髪。
黒曜石のような黒い瞳。
凛とした美少女で女の子大好きなフェリシアーノが
「うああ~~ベッラっ!あのベッラとこれから一緒なんだね~!!!」
と歓声をあげてはしゃいだ。
――本田桜でございます。
そう言って頭を下げる。
容姿だけではなく、声も美しい。
しかし、フェリシアーノを褒めるのは良くても、
「ほんまやなぁ。
癖のないさらっさらの黒髪て、見事なもんやなぁ……」
と、この感想はまずかったらしい。
怒りはしない…怒りはしないが、梅が少し凹んだ。
「確かに…私はどれだけ手入れしてもちょとだけ跳ねるネ……」
どうしても一筋跳ねる自分の髪に少し恨めしげにそう言う梅を見て、エリザが怖い目でフライパンを持ちだす。
「え?え?ちょっと待ってや。
別に梅ちゃんかて可愛えよ?」
「”別に”って?…無理に褒めてくれないでもいいヨ…」
「トーニョ…(ブン!と言う素振りの音)」
「ちょ、ちょっと待ってやっ!!」
壇上の挨拶をそっちのけで本部ジャスティスとフリーダム本部長が騒いでいたその時…
プイっと横を向いた梅の目の前に、ふいにすっと先っぽに可愛らしい子猫のついた棒が差し出される。
「…?」
梅が棒を受け取って不思議に思ってその人物を見上げると、
その人物はニコっと笑って言った。
「お土産。飴細工だから、どうぞ。レディ」
少し高めの少年の声。
落ちついた金色の髪に夢見るように澄んだ薄いグリーンの瞳。
人形のように愛らしい容姿に不似合いな少々太すぎる眉でかろうじて彼が少年だと言う事を主張している。
が、そんな事は関係ない。
梅は彼をよく知っていた。
……主に…エリザがこっそりと編集長を務めるブルーアースのとある趣味の乙女達の雑誌…【乙女ジャーナル】に掲載されている極東支部の編集員から提供された隠し撮り写真で……
「アーサー君ネ?!!
うああ~~~可愛いネっ!!
ほんっとに天使だネっ!!
会えて嬉しいヨ~~!!!!」
おおはしゃぎの梅。
アーサーは少し驚いたように目を見開いたが、そこはすぐにっこりと微笑み胸元のペンダントに手をやり
「モディフィケーション…」
とつぶやく。
とたんに手のあたりが光り、その左手に澄んだグリーンのロッドが握られた。
そしてその人物がロッドをクルクルっと回して上に向け、
「ファイアッ♪」
とまた小さくつぶやくと、ロッドの先から花火のように炎が舞い上がる。
「わあっ綺麗っvv」
その美しさに思わず手を叩く梅にまたにっこりと綺麗な笑みを向けると、そのアーサーはまたクルクルっとロッドを回し、
「アズビフォア」
とそれをペンダントに戻した。
そして
「お気に召して頂いてなにより。ご機嫌は直りましたか、レディ?」
と、胸に手をあてて優雅に一礼する。
一気に集まる注目。
「た~ま…」
「…なんだよ」
「俺様の時とずいぶん態度違わね?」
「…お前が可愛いレディなら同じように扱うけど?」
さきほどまでと一転した様子にギルベルトが小声で言うのに同じくそう返しつつ、アーサーの視線は本部女性ジャスティス組へ。
「アーサー・カークランド。
武器はペリドット・ロッド。
後衛なので前衛のレディ達とはご一緒させて頂く事も多くなると思いますが、宜しく」
という言葉に、嬌声をあげてエリザと抱き合う梅。
それをギルベルトがグイ~っと後ろから抱き寄せて
「タマは俺様んだろっ?!
ロヴィがコンビ組ませるって言ってたんだからなっ」
と言うのに、何故かいきなり参戦するフリーダム本部長…
「なんっ!ギルちゃん独り占めはずっるいわ~~!!!
かっわかわええっ!!
ギルちゃんに虐められたらフリーダムに逃げておいで?!」
とアントーニョが広げる両手をギルベルトは足蹴にして眉を吊り上げた。
「お前なぁ!!そうまで言うなら、全フリーダムちゃんと躾けとけよっ!!」
「は?なんなん?うちの奴ら何かアホやらかした?」
「本部じゃなくて…極東の奴らだけどな。
俺様の可愛いタマにさっきお礼参りとばかりに襲撃しかけやがったぞっ!!」
「はあ?!!!!!」
バキ…と、たまたまそこにあって握り締めたらしいフォークが折れた……
「…え?」
アーサーは青くなり、そしてギルベルトを見あげる。
「…あいつ…フリーダムの本部長兼攻撃特化系フリーダムだったり?」
思わず聞くアーサーにギルベルトは
「残念ながらな……ありえねえ怪力のただの人間だ……」
と、深刻な顔で首を横に振った。
そんなやりとりをしている間にも高まっていく殺気…
ざわつく会場内。
「…お姫ちゃん、堪忍な?
ちょお親分、アホどもを懲らしめてくるさかいな。
これからはもうそんなことおこらへんから安心したってな」
と、引きつりながらも笑顔。
そして伸びてくる手にアーサーが思わずヒッっと小さく悲鳴をあげてギルに抱きつくも、その手はフォークをへし折ったのとは全く違う優しい力加減でアーサーの頭を撫でる。
そして、怒りのフリーダム本部長は会場を退出して行った。
「…ぽち…あれ……止めないで良いのか?」
「いや…アレ止めるのは俺様でもしんどい…かなと」
「…え……でも………」
ぼそぼそと話し合う2人。
しかしその会話も壇上からの
――アーサーさんっ!!どこ行ってたんですかっ!!すぐいらっしゃいっ!!!!
と言うマイクを通しての大音量で中断された。
「うあ…桜、怒ってる……ポチ、なんとかしろっ!!」
「え??俺様っ?!!!」
途端涙目で後ろに隠れるアーサーに、戸惑うギルベルト。
「…大人しく見えて、怒ると怖えんだよ…あいつ」
「あー……」
「守られてくれとか言ってただろっ、お前っ!!
守られてやるから、お前も自分の言葉には責任持てよっ!!!」
「あ?言ったけど…言ったけどな……」
混乱するギルベルトに、助け舟(?)を出したのはエリザだ。
「ほら、これマイク借りてきてあげたからっ!
アーサーは俺様が守るからって挨拶しなさいっ!!」
「は?」
「は?じゃないわよっ!早くしなさいっ!!」
「お、おう?」
渡されるマイク。
そしてサッとエリザが手をあげると何故か室内の照明が若干落とされて、ライトがギルベルトに当たる。
はぁ??と思うものの、後ろにはしがみついているアーサー。
横にはフライパンをちらつかせる同僚。
逃げ道はない。
…ので、ギルベルトも開き直る事にした。
「あー、本部ジャスティスのギルベルト・バイルシュミットだ。
で、後ろにいるのは俺様とコンビを組むことになる極東支部から来たアーサー。
俺様の相方になるってことは…だ、わかってると思うが、こいつに下手なちょっかいかけてきやがったら命はねえと思え。
俺様が全身全霊、全力で守るからなっ。
以上っ!」
一部から割れんばかりの拍手といつもにもましてぎらついた視線。
何故か壇上の桜もすごい勢いで拍手をしている。
もちろんエリザも梅も良い笑顔で拍手。
これ…もしかしてヤバい事になったか…と、一瞬思うが、後ろでアーサーがホッと安堵の息を吐きだしている気配を感じて、ギルベルトもまあいいかと諦めることにした。
そして…パシャパシャと何かシャッター音が聞こえるのもきっと幻聴なのだ…と自分に言い聞かせつつ、アーサーを紹介すべく、本部ジャスティスを集合させたのだった。
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