天使な悪魔_8章_11

エピローグ


「これ…お前が淹れてやってくれ。」

わたわたと慌ただしく数日分の着替えをまとめているフェリシアーノに、アーサーが厳選した茶葉とジャムを渡した。

「これも食べてね」
とフランシスが渡すのは色とりどりのマカロンだ。

「ありがと~。」
とそれを受け取るフェリシアーノに、
「フェリちゃん、あと30分で出発すっから。」
と、すでに同じく数日分の着替えだけを持ったギルベルトが時計を見ながら言った。

「ほなちょっと送ってくるからその間アーティー頼むわ。」
と、フェリシアーノの支度が出来た時点でアントーニョがフェリシアーノのカバンを持って、フランシスにそう声をかけ、

「ええ子にしとってな。無理したらあかんで?」
と、チュッとアーサーに口付ける。


こうしてアントーニョの車でギルベルトとフェリシアーノが向かう先は基地から10キロほど離れた待ち合わせ場所。

そこには【華麗な俺様と小鳥さん号】に乗ったイヴァンとトーリスが待っている。

「じゃ、2週間後に迎えに来るわ。着いたら電話したって?」
そこでギルベルト達を車から下ろして帰っていくアントーニョ。

遠ざかるその車に手を振ると、
「さて、行くか。」
と、ギルベルトはフェリシアーノの分のカバンも持って、2ヶ月ぶりの愛車のドアをノックした。

「ギルベルトさん、フェリシアーノさん、お久しぶりです。」

その音にトーリスがドアを開けて、二人の荷物を預かって棚にしまい込む。

「トーリスも久しぶりだね。今日はアーサーからの差し入れの美味しい茶葉とジャムと、フランシス兄ちゃんからの差し入れの美味しいマカロンがあるから、あとでロシアンティーにしてティータイムにしようねっ」
にこやかに言うフェリシアーノに、
「それは楽しみですね。アーサーさんのお茶もフランシスさんのお菓子も本当に美味しいから。特にロシアンティーはイヴァンさん大好きなんですよ。」
と、トーリスも顔を綻ばせた。

そんなほわほわした二人を横目に、ギルベルトは久々に愛車の運転席に座った。

「安全運転で頼むよ、ギルベルト君。」
と、助手席ではイヴァンがにこにこと言う。

「俺様いつも安全運転だろ?」
「う~ん…ギルベルト君の安全て言葉は僕の認識と大きくかけ離れてる気がするんだけど?」

友人同士でそんな軽口を言い合いながら、ギルベルトがアクセルをふかし、【華麗な俺様と小鳥さん号】はきままに適当な戦闘地域の村を目指して進む。


あの日から少しして、イヴァンは軍をやめた。


「う~ん、軍も怪我人ばかりで飽きちゃったし、たまには病気の人間にも関わりたいから一般の医者になるかなぁって思って。」

そんな言葉と共にたまたま休暇で例によって【華麗な俺様と小鳥さん号】で医療ボランティアに従事していたギルベルトとフェリシアーノの元に訪ねてきたイヴァンとお付きのトーリス。

ほわほわした者同士、すっかりトーリスと意気投合したフェリシアーノは、
「この移動病院良いですよねぇ…。
僕もフェリシアーノさんみたいにこんな車に乗って医療ボランティアしてみたいです。」
というトーリスの言葉に
「やればいいんだよっ!一緒にやろうっ!」
と、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、イヴァンも誘って一緒にやろうとギルベルトに持ちかけた。

そしてギルベルトからその話をさらに持ちかけられたイヴァンは、例によって
「ギルベルト君がそう言うならそれも楽しいかもね」
とにこにこ嬉しそうに応じる。

こうして一緒にやろうという話から、イヴァン達が今どうせフリーなら普段は空いているこの車利用しては?という事になった。

ということで、イヴァンとトーリスの二人は普段は一般の病院からするとかなり低料金…というか、下手をすれば物々交換で移動病院をしつつ、ギルベルトの休暇になるとギルベルト達を迎えに来て一緒に医療ボランティアをしている。

イヴァンもそれで随分と幸せそうだ。
もちろん夢のかなったトーリスも幸せだ。

一人きりでリストラに怯えながら出た事のない外に出された少年は今優しい保護者に保護されて幸せに暮らしているし、何度も愛を失った寂しい青年は愛すべき相手を側に置きやはり幸せに暮らしている。

騙されたとか事実が消えたとか、もうそんな事どうでもいいんじゃないかな?
幸せそうな周りを見ながらフェリシアーノは思う。

俺も何か幸せみつけなきゃ…今が幸せじゃないわけじゃないけど……

「あ、ごめんなさい。」
ぼ~っとそんな事を考えていたら、誰かにぶつかったようだ。

包帯などの医薬品の詰まったバッグが床に落ちた。

「いや、俺の方こそぼ~っとしていて済まなかった。大丈夫か?」
生真面目そうな体格の良い青年がバッグを拾ってくれる。

「あ、ありがとう。」
と、ソレを受け取ろうとすると、青年は
「いや、俺が運ぼう。遠くからわざわざありがとう。疲れているだろう?少し休んでくれ」
と、先に立って歩き出した。

ドキン…と、胸が高なったのは気のせいだろうか…。

「ありがとうっ!俺フェリシアーノ。名前聞いていいかな?」
「…ルートヴィヒだ。ルートでいい。」
生真面目そうな顔に少し恥ずかしそうな笑みを浮かべるその様子に、フェリシアーノは本当に久々に…正確にはあの日以来のときめきを確かに感じた。

遠い日に愛を失った少年に幸せが訪れる日も遠くはない…かもしれない?



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