天使な悪魔_7章_2

終焉の予感


虫の知らせ…昔からたまに何か好ましくない事が起きる前、なんとなく落ち着かない事がある。

なんとなく嫌な夢を見て早朝に目が覚めたアーサーはベッドを抜けだすと荷物の奥深く…財布を兼ねている携帯を取り出した。

…ああ……やっぱりか……。

そこには今一番見たくないアドレスからのメール。
民間企業のセールスを装った…しかし特殊な暗号を解くとパス付きの文章が出てくる。

期限の1年まであと半年以上もあると思って油断していた。

そこに何が書かれているとしても読むのは一人で考える時間のたっぷりあるアントーニョの仕事中にしよう。

そう決めて携帯をバッグに戻し、またベッドに戻って適当な時間まで眠っているふりをした。

そして普通に朝を迎える。

アントーニョに気付かれないように細心の注意を払ってベッドから起きて着替え、アントーニョの作った朝食を取った。

いつものように自然に…を心がけ、ようやく時間になり、いつものように仕事に行くアントーニョを見送るため玄関先まで出たのはいいが、気が付けば軍服の裾をしっかり握りしめていた。

行かせたくない…行ってほしくない…なんとなくそんな気分だったが、それを言葉や態度に出すつもりはなかったのに、無意識にやらかしていた。

「なん?…アーティー、もしかして体調悪いん?」

アントーニョが少し気遣わしげに眉を寄せる。
ここで頷けばおそらく休みを取って側にいてくれるのはわかっているが、だからこそ余計に頷けない。

アーサーはパッと手を離して

「冗談だよ。行ってこいよ。」
と、笑ってみせる。

平気なふりは得意だ。
ずっと一人だったから、他人の行動など当てにはしない…。
他人など気にしてはいないのだ。

……そう思っていたのに……

ズキリと胸が痛んだ。
離れて行かれたくない…。

ズキリ…ズキリ…刺すように痛む胸に気づけば膝をついていた。
あぶら汗が額を伝う。

「アーティっ!!どないしたんっ?!!苦しいんかっ?!!!」

少し遠くに聞こえるひどく切迫したようなアントーニョの問いに、大丈夫だ、と、笑って答えようとするのに、口からはヒューヒュー空気が音を立てるだけで言葉が出ない。

「アカンっ!無理に喋らんでええからっ!!」
半ば叫ぶように言うアントーニョ。
ひょいっと抱き上げられて、アーサーは息苦しさに涙目になりながらそのまま変わっていく景色を呆然と見送る。

廊下をアーサーを抱えたまま疾走したアントーニョが蹴り飛ばしたのはギルベルトの部屋だ。
隣が診察室になっている。

「ギルちゃんっ!!」
真っ青になって駆け込んできたアントーニョのその一言で、書類をパラパラめくっていたギルベルトは弾かれたように立ち上がった。

「隣へ運べっ!!」
言って白衣を羽織ると手を消毒する。

「…来ちまったか…?」
せわしなく治療の準備をしながらギルベルトは舌打ちした。
色々調べて採取したデータを見比べ、少し考えこむ。

「薬で少し落ち着いたけど、早々にオペした方がいいな、こりゃ。
もうちっと体力つくの待ちたかったとこだけどな…仕方ねえ。」

資料から顔を上げて最終的にそう言うギルベルトの言葉にアントーニョは青い顔のまま一瞬言葉を失った。

「んな顔すんな。大丈夫、名医の俺様がオペすんだぜ?大船に乗ったつもりでいろよ。」
ケセセっといつもの特徴的な笑い声で笑うギルベルトに、アントーニョは

「絶対に沈まんといてな…。この子は俺の人生の最後の天使やねん。」
と、唇を噛み締め、ベッドの上のアーサーに視線を落とす。

こんな風に酸素吸入器をつけて、点滴を打って…などというのは本当にこれで最後にしたい。

この手術が無事終わってアーサーの体力が少し戻ったら休暇を取って二人でサンルイに行くのだ。

高原の綺麗な空気はきっとアーサーを元気にしてくれる。

アントーニョは嫌な考えを振り切るように、美しい高原植物に囲まれて笑うアーサーの姿を思い浮かべた。



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