帝王様と私
「あ~っ!もうっ!クソヒゲっ!!てめえのせいだっ!!」
閉店後の某レストラン内。
その店のイケメンオーナーと愛しの麗しの帝王様。
いつも上二人のしわ寄せを食う3人兄弟の末っ子の従兄弟から聞いて、かなりお酒をお召しの帝王様の回収に来たわけなんだけど…楽しそうに元同級生に八つ当たりしている帝王様に今声をかければ、不興を被ることは必須。
空気が読める女としてはイライラを押し隠してそれを眺めていることにする。
帝王様って絶対にホモなんだと思う。
だってずっと小さい頃から、こんなに美人なあたしがいても、ちんちくりんな弟の方を構うんだもの。
例えそれがデコピンでもいいの。
本当に嬉しそうなその顔を少しくらいはあたしに向けてくれればいいのに…あたしなら逃げたりしないのに。
あたしに向けるのは他人に向けるのと同じような感情のこもらない笑顔と侮蔑。
本当に腹が立つけど諦めきれない初恋の君。
『あなたが幸せならあたしも幸せ』
そんなこと言えるほど殊勝な女じゃないから、正直うちの愚弟が帝王様よりあたしの同級生を選んだ時には心の中で万歳三唱。
これで少しはこちらに向くかしら?なんて期待してみたのに、神様は意地悪。
こんな美女よりそんなヒゲ男がいいのね。
ああっ!もう腹が立つっ!!
あたしは立ってボトルで注文したワインを帝王様の前に置く。
「お兄さま、よろしければこれをどうぞ?
本当に流血は困るけど、これをヒゲの頭からかければ、雰囲気だけは味わえてよ?」
ニコリと言うあたし。
愛しの君はそれに一瞬ポカンと呆けたあと、
「お~、お前にしては気が効くなっ!」
と、初めてあたしに向ける満面の笑み。
前言撤回。
やっぱりあたし『あなたが幸せならあたしも幸せ』みたい。
その嬉しそうな顔を見るためなら、欲しかった香水諦めて注文した赤ワインの1本くらい惜しくない。
本当に楽しそうにヒゲ男の襟首を掴んで頭から真っ赤なワインをかけて子どもみたいにはしゃぐあなたのために、明日から何をしようかしら?
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