母屋の、昨日事情聴取に使われていた部屋に連れて行かれると、捜査責任者らしい男が立ち上がってお辞儀をする。
「いえ、身代金要求があったそうですね」
勧められて椅子に座るとそう言うコウに、和田はうなづいて自分も椅子に腰をかける。
「はい。一条優波さんの親御さんから身代金の管理を含む全てを碓井さんに一任するというご連絡をいただいてます。優波さんの婚約者で…碓井警視総監のご子息だそうですね。」
婚約者というのは…正式に何かをしているわけではないのでそう言っていいのかどうかわからないが、少なくとも本人達を含む周りの認識としては間違ってはいないのだろう。
それにしても…
「父の事まで言ってましたか…」
コウが苦笑すると、和田は、いえ、とその点については否定した。
「それはこちらで調べさせて頂きました。それだけではありませんよ?夏の高校生連続殺人事件の犯人を取り押さえたり、つい先日の箱根で起こった殺人事件の犯人を確保して事件を解決なさったとか、色々逸話を持っていらっしゃいますね。」
と、こちらもにこりと笑みを漏らす。
「何故か昨年から妙に色々に巻き込まれてます…。まあ…過去の事はもういいんですが…できれば現在の状況を伺いたいです。」
コウの言葉に和田は
「そうですね」
と、うなづいた。
「実は今ここにいらして頂いたのは一条さんの親御さんから色々を一任されているというの確認するためというのもあったのですが、もう一つ、8時過ぎに犯人からあった電話で、身代金の受け渡す人間として碓井さんを名指しで指名されたからなんです。それでちょっと問題がありまして…
まず、こちら、旅館の方で用意された新しいプリペイド式の携帯電話です。」
そう言って和田はコウに電話を差し出す。
「こちらで犯人から指示を直接碓井さんにするとの事なんです。一応…犯人の指示で旅館内の広大な庭や周囲の山には警察を配置するなとの事で、上から人命優先の指示が出てますので基本的には従います。それでも可能な限り警護はしたいとは思いますがなにぶん広大な範囲ですし、この田舎で同時に殺人の方の捜査も行っているので周辺の県警に応援は頼んでおりますが、それでも人員的に行き届かない面もでて多少の危険は伴う可能性がなきにしもあらずなんですが…」
「別に俺の身に関しては自分の身は自分でなんとかできるので、ご心配には及びません。やらせて頂きます」
和田の言葉を最後まで聞く事もなく、コウは携帯を受け取った。
「実は…それだけではないんです。」
和田は言って立ち上がりかけるコウを見上げた。
「犯人は…身代金を受け取った時点で一人、碓井さんが自力で時間内に宿についた時点で一人人質を解放すると言ってるんです。つまり…」
「あ~…妨害があるかも…ということですね?それも了解です。」
コウはとりあえず了承する。
まあ…指名されたのが自分で良かった…それが素直な感想だ。
意地でも…成功させてみせる。
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