恋愛論-続お兄さんは頭を打った事にしました_3

とあるその後の世界会議の光景


世界会議の開催国…日本の元に来たのは1本のとある要請の電話だった。

とても『善処します』とは言えない迫力で…しかも『いつものKYっぷりはどうしたんですか?あれ演技だったんですか?そうですかっ。これからはAKYと認識しておきますねっ』と言いたくなるような、魅力的な条件付きで…。

これで冬コミは大丈夫ですねっ…と、趣味人の自分が浮かれる反面、これから世界会議で起こる事を思えば、公的な人間としての自分はため息しかでない。

しかしまあ…幸いにして要請があったのは1件で…それは主催国の権限の範疇で収まることではあるので、まあ良しとしよう。

日本はそう割り切ると、黙々と会場の手配を始めたのだった。



こうして迎えた世界会議当日…。
まず会場入りしたドイツが、ぐるりと席次表を見回して首をかしげた。

「今日は…随分と変わった席順なんだな。何か問題でも?」
いつもと違う席順=通常の席順では何か支障が出るような問題が起こったのだろう…。
そんな認識で少し眉を寄せるドイツに、よもや冬コミのために良心を売りましたなどと、本当の事は言えない。

「ええ、問題が起きないように…と申しますか…」
と、歯切れ悪く口ごもる日本に、
「確かにな。考えてみればフランスとイギリスが隣席など、揉める種を作っているようなものか…。
何故いつもそうしていたのだろうな…。もっと早くこうすれば良かったのだな。
さすが日本。英断だ。」
と、ドイツは感心したように頷く。

「あはは…そう…ですよね。」
日本は引きつった笑顔を浮かべながら、ドイツにそう応じたが、

(ああ…でもこれで一悶着ありますよね…)
と、ついついため息が溢れる。

そんな中各国が続々と会議室入りをして、やはりドイツと同じ事を聞いてくるが、幸いな事にそれにはドイツが答えてくれて、誰もが日本に追求することはない。
唯一…当事者である男を除いては…。

「ちょ、日本、これは何?!」
普段の余裕の表情など宇宙の彼方に飛んでいった様子でかけよってくるのは、いつもの席から一転、ドイツとロシアの間の席に放り込まれたフランスだ。

ササっと日本がドイツの後ろに隠れると、ドイツがやはり他と同様に
「イギリスとお前が隣同士だと煩くていつも会議に支障が出るだろう。よって今回は席を離してみた。」
といかつい顔でフランスを見下ろした。

「なに?ドイツの指示なの?もしかして…ぷーちゃんとかの差金だったり?」
「は?何故兄さんが出てくるんだ?」
「じゃ、どうしてこういうことに……」
「オッサン、邪魔なんだぞっ。いいじゃないかっ、静かになって」
詰め寄るフランスをひょいと押しのけて、いつものように日本の隣の席についたアメリカは、ドイツにトントンと肩を叩かれた。

「お前の席は今日はあちらだ。」
と、指差されたのは、ロシアとスイスの間の席だ。

「Oh!ありえないんだぞっ!なんでこんな席順になってるんだいっ?!」
災難が自分の身にふりかかったとみるや、態度を翻す超大国。

「じゃ、私まだ支度がありますので…ここはドイツさんお願いしますね。」
と日本はコソコソっとその場を後にした。

そして…誰にも合わないようにこっそりと準備室に退室しようとしていると、
「オーラー、日本ちゃん」
と、会議室に不似合いな明るい笑顔で手を降ってくる人物が。

ああ、やめて下さい。爺はネタは欲しいけど揉めたくはないんです。
あなたのお相手はハンガリーさんにお任せしてますからっ

という日本の内心の声もガン無視で会議室に響き渡るでかい声に、日本は思わず耳を塞いで駈け出した。
フランスとアメリカの痛い視線も無視だ。
準備室にこもって、ハンガリーの席に仕掛けさせてもらっているカメラとマイクで好きなだけ見物する。
そう、これが席を融通する条件だったのだ。


「あ~、主催やし忙しいんやなぁ。」
スペインはそんな日本の態度を気にすること無く、肩を抱いたままのイギリスのために椅子を引く。

「お前…会議場ではやめろよっ。」
さきほどから肩の手を外そうと躍起になっているイギリスに、
「ええやん。親分な、全世界にイギリスは親分のやで~って言うておきたいんやけど…」
と、座ってなおがっしりと肩を抱いたまま言う。

「馬鹿かっ!」
「イギリス~、ひとに馬鹿言うたらあかんで~。
それにちゃんと言うておかな、それ知らん奴が手ぇ出そうとしたら、親分そいつの事消さなあかんくなるやん。」
「消すってなんだよ、消すって…」
「え~?文字どおりやで?国って死んだら跡形なく消えるんやで?」
「だから~~~!!なんでそうなるんだっ!!!」
「せやから言うとるやん…親分の可愛い可愛いイギリスに手出されたら嫌やから…」
「俺に手出そうなんていう物好きはお前だけだから……」
イギリスは真っ赤になってうつむくと、モゴモゴと口ごもる。

そんなやりとりを隣室でしっかり堪能する日本。

うつむいて照れるイギリスさん…可愛いです。萌えです。
というか…スペインさん、実はヤンデレ入ってますね。
ああなんて美味ししい展開。ごちそう様です。

日本は誰がいるわけでもないのに画面に向かって手を合わせた。

ハンガリーも隣ですましたまま物凄い勢いで何かを描いている。

ああ、米英、仏英ときて、次代は西英ですねっ!
と、日本は画面を凝視してうなづきながらも、やはりタブレットのペンを忙しく動かした。

別のカメラを覗いてみると、フランスとアメリカがいちゃつくスペインをすごい目で凝視している。

「ヴェ~、スペイン兄ちゃん、この前のさ、気に入ってもらえたみたいだね♪」
と、スペインの隣ではイタリアがニコニコとイギリスの手首のあたりに目をやった。
「あ、イタちゃんおおきにな~。このカフスめっちゃええわ~。指輪とかやったらつけてもらえへんから。」
ニコニコと応じるスペインのその袖口にもイギリスとお揃いのカフス。

「良かったら他のスーツにも合わせて用意するよ?」

さすが商売上手でゲイツ…日本はそれを見て、自分も何か売り込むものを検討しようと決意する。
おそらくイタリアの事だ。
きっと他の国…主に某超大国とか某超大国とか某超大国とかにも数倍の値段で売り込みに行っていそうだ…。

こうして開始までの時間をやり過ごし、そろそろ開始時刻になる頃に日本は会議室に駆け込んだ。

そして会議最初の議題へと移ろうとしたところで、スタっとスペインが手を上げた。
「スペインさん?」

「あんな~、親分みんなに報告しとかなアカンことがあるんやっ。大事な事やでっ。」
嫌~な予感がしてスルー出来ないかと視線を泳がせる日本だが、そこは常に会議が進行しない時は議長代理とばかり仕切るドイツが。
「そうなのかっ。それでは発言を許可する。ただし事前報告がない議題なので手短になっ」
と許可してしまう。

うあぁああ~と日本は普段ならありがたいこのフォローを心底恨んだ。

「おおきに~」
と、許可が降りたところで、にこやかに立ち上がるスペイン。

「…お前…このところ俺にかまけてばかりいるのかと思ってたけど、ちゃんと仕事もしてたんだな…」
隣でスペインを見上げてボソボソっとつぶやくイギリス。

(今スペインさんが何を言い出すつもりかなんて爺にすらわかりますよっ。
ああ…あなた本当にどうしてこういう時だけ鈍感なんでしょう…。
そんなイギリスさんも可愛いんですが…今回だけはお願いします。その人止めて下さい…)

日本は心のなかでそう祈ってイギリスに視線を送ってはみるが、スペインに注目しているイギリスは当然気付かない。

「みんな~、よお聞いたってな~」
まるで子ども番組の体操のお兄さんのように爽やかな笑顔でスペインは宣言した。

「親分な~イギリスとつきあっとるんやっ。
せやから、間違ってもイギリスに手ださんといてなぁ。
親分の可愛い可愛いイギリスに手だそうなんてされたら、親分レコンキスタか海で暴れまわっとったくらいの時代の気分に戻って殴り殺しに行かなあかんくなるからな♪
それともあれか~。どこぞの呪いみたいに生きたまま心臓つかみ出すいうのもええなぁ。」

シン…とする。
笑顔が爽やかなのに言っている事の血生臭さすぎて誰もツッコミをいれられない。
かの超大国ですら固まっている。

いや、彼は世界のヒーローだ。
しばらく硬直したあとに、それでも果敢にも口を開いた。
「あ…あの…」
「ん~?何?」

顔全体に笑みを浮かべていたスペインが、口元は笑みの形のままギラリと目だけ開く。
「何かな?アメリカ合衆国。…な~ん~や~?」

ヒィッなどという声を世界のヒーローがあげたのは気のせいだろう。

「な、なんでもないんだぞっ!報告が終わりなら会議を始めようじゃないかっ!」
半泣きになりながら震えている…のも気のせいだろう。


「お、お前っ!何こんな場所で恥ずかしい事言ってるんだっ!ばかぁ!!」
そこで別の意味で涙目になりながら真っ赤になって叫ぶイギリス。

(突っ込むところはそこなんですかっ?!さすがイギリスさんっ!!)
と、日本の心の声。

「やって~。イギリスにちょっかいかけられたら親分ホンマ相手のドタマかち割りたくなるんやもんっ」
と、ポスポスとイギリスに叩かれて、アイタタっと笑いながら言うスペイン。

「ばかぁ!俺にちょっかいかけるような物好きお前だけなんだから、わざわざ恥ずかしい事いってんじゃねえっ!呪うぞっ!」

「え~?もう親分イギリスなしじゃ生きられへんもん。呪われてるようなものやんっ。
まあこんな呪いなら大歓迎やけどなっ」

冷や汗をかいていいのか、砂糖を吐けばいいのか、もう日本にもよくわからない…。

ただ、今年の冬コミはヤン甘オカルト本で決定ですね…と、ハンガリーと二人、スマホでこっそりプロットを練り始めたのだった。



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