温泉旅行殺人事件アンアサ 中編_3

フランが身代金と引き換えに無事に戻った…そして新たな身代金の要求。
まあ…それでギルベルトも無事戻るんだろうな…と、アントーニョは布団の中でぼ~っと思った。
そして、ホントに…ギルちゃん”凶”やったな、と内心苦笑いを浮かべる。
せっかくの泊まりだというのにホントについてない。
まあ…ギルベルトはスペック高い割に妙に運がないのはいつもの事なのだが…

毎年この時期には花火があがって、娯楽の少ない田舎だけに、この日だけは近隣の住民達もこっそり花火見物のために敷地内に入って来てしまうのも恒例で、今までは実害もなかったので黙認されていたというのは、あとで従業員から聞いた。
おそらく今年はその中に不埒な輩がいて、この高級旅館に泊まっていると丸わかりの浴衣を着た高校生を見て犯行に及んだというところだろう。

離れの方には母屋を通らなければ行けないし、母屋を通るにはフロントの前を横切る必要がある。
フロントに人がいない時には母屋から離れのあるエリアに行くドアは閉められていて、各離れの鍵と一緒に渡されるカードキーがないとドアは開かない。
ゆえに外庭に部外者が入って来ても離れの方には入れないため心配ないということだ。
ちなみにカードキーは各離れ1枚で、4人の場合はそれぞれアーサーとギルベルトが持っている。
だから露天へ続く外庭と離れのある内庭では安全度が全く違うのだ。
その辺を考慮して待ち合わせを内庭にすれば良かったのか…。
待つのがアーサーならそんな気遣いもしたかもしれないが、よもやギルベルトが誘拐されるなどとは思ってもみなかったから、仕方ないと言えば仕方ない気もするが…。

…と考えているうちに眠りかけたが、その時内線がなる。
アントーニョはアーサーを起こさないようにソッと布団を抜け出して電話を取った。

『あ、アントーニョ君かい?わかるかな?氷川です』
相変わらず穏やかな声。
『今身代金と交換に人質の子が返されたって旅館の人に聞いてね、おめでとうだけ言いたくて…』
わざわざそれでかけてくれたのか、とは思うものの、手放しでは喜べない状況なわけで…。
「一応…フランだけなんですわ。犯人が二人同時に連れて来れへんかったらしくて…というかもう一人分身代金が欲しかったのか…」
アントーニョの言葉に雅之が電話の向こうで
『どういうことかな?』
と不思議そうな声できく。
「あ~実は…」
アントーニョは事の顛末を雅之に説明した。

『なるほど…そういうわけだったのか。』
「はい。だからまだ完全に終わったわけやないんですわ」
『でも…まあ身代金を渡せば無事に戻って来る事はわかったんだ、もうすぐだね』
「たぶん今日中にはなんとかなるんやないかと期待してるんですけど。俺らはええけど、あーちゃんまいってもうてるし」
『あ~。彼女は今日は大変だったね。でもすごいよね、大の男でも大変なような要求だったんだろう?』
「あ~、あ~ちゃんああ見えてめっちゃ運動神経はええんですわ。メンタル弱々やけど。俺らん中でいっちゃんそのあたりあかんのはフランやなぁ…。優男やさかい。」
『ああ、なんだか蝶の浴衣着てた彼ね』
話しているうちに少し目が冴えて来て、それからしばし雑談。
『じゃあ疲れてるところに悪かったね。ゆっくり休んでね』
「はい、おおきに」
電話を切ってアントーニョはチラリと時計を確認した。
3時半…少し寝ておくか…。
寝転んでからはもう早い。布団に戻ってアーサーを抱え込むと、温かい体温が気持ちよくて即眠りに落ちる。


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