オンライン殺人事件その後_05

何を見たい?


夢落ち設定…って事ですぐ目が覚めて終わるはず…と思った私が甘かった。
終わんないよ、これ。
なんと今回はネットゲームの時にはなかった時間の流れがあるらしい。
ミッション1を終えてお城で報告をした頃には夕方になっていた。
たぶんこのままだと夜になるんだろうな。

幸い…お城のお抱えの兵扱いになっている私達は、どうやら城下町の宿屋には無料で泊まれるらしい。
野宿はせずにすみそうだ。
それでもまあ…どこまで夢が続くのか、終わりが全く見えないわけで…。

「シャレにならんぞ、これ…」
おそらくやはりその点はタカをくくっていたのだろう、コウも額に手をあてて大きく息を吐き出す。
そんな深刻な顔のコウとは対照的にフロウちゃんは楽しそうだ。
「ね、夜はお城に花火があがるそうですよ♪みんなで見に行きましょうね(^-^」
と、これまたネットゲーム時代にはなかったイベントの情報をどこからか仕入れて来て、ピョンピョン飛び跳ねている。
その様子に難しい顔をしていたコウが、表情を和ました。
「どんな時でも姫は本当に姫だな。いつでも楽しそうで羨ましいな。」
コウの言葉にフロウちゃんはニコォっと可愛らしい笑みを浮かべて、クルリと振り返る。
「だって…せっかくみんなが一緒にまた遊べるなんて素敵な夢みてるんですもの。今を楽しまなくっちゃ♪」
ふわりふわりと揺れながら、軽やかに歩を進める。
「それもそうだなっ」
その様子にコウが微笑んだ。
なんだか幸せそうだ。
コウはそのまま少し歩を速めてフロウちゃんに並ぶと、腕を差し出す。
フロウちゃんは当たり前にその腕につかまった。

その時…
「じゃ、そういう事でっ」
また唐突にユートが口を開いた。
そのまま私の腕をつかむ。
「俺ら消えるねっ、ごゆっくり」
言ってコウ達に反論の間を与えず、走り出した。
え?ちょっ…ちょっと…??
ユートは私の手を握ったまま走り続け、街外れの丘までくるとようやく止まった。
しばらくは二人ともゼ~ゼ~と息を切らしている。

「ごめんね、ちょっと疲れた?」
先に息が整ってきたのはユートだった。
私の様子を伺う様に、膝に手をやってまだゼーゼーしている私の顔を覗き込む。
息が整わず返事のできない私にちょっと微笑みかけると、ユートは自分の赤いマントを脱いで下に敷いて
「座って」
と私をうながした。
当たり前だけど…装備って脱げるんだ~なんて変な事に感心しながら、遠慮なく座らせてもらう私。
そこで悪いからとか言っても、口調は柔らかいくせに意外に頑固な所のあるユートが譲らないのはなんとなく想像つくから。
それなら無駄な抵抗しない方がいいと、いい加減私も学習した。
私が座るとユートも私の隣、草の上に腰を下ろす。

「ここさ、特等席」
少し遠くに見下ろせるお城を指差してユートが言った。
確かに…ここなら花火もよく見えそうだ。
「コウ達も…連れて来てあげれば良かったのに」
別に4人いたら狭いとかいうスペースでもないので言うと、ユートは肩をすくめる。
「コウは…花火見る気ないし、姫がいると俺が見れないから」
はあ?
夢の中のユートは本当に意味不明な発言のオンパレードだ。
「たぶん…コウも俺と同じだと思うけど?」
謎………

「全く意味わかんないって顔してるよね、アオイ」
まあ、顔に出てたんだろうな、ユートがクスっと笑いを漏らす。
「姫もさ、一人でいれば見るのは花火と…コウなんだけどさ、アオイいるとアオイの方向いて話すから
コウから顔見えなくなるじゃん」
「はあ…?」
ますます謎なわけですが……
「つまりさ、コウが見たいのは花火じゃなくて、花火を見て楽しんでる姫の顔なわけ。」
あ~なるほどっ。
確かに…あれだけの美少女の楽しそうな笑顔なら花火以上に見てて楽しいだろうな。
さらに言うなら、溺愛中(?)な彼女の顔なわけだからなおさらだよね。
思わず納得する私に、ユートは何故か複雑な視線を向けた。
「……?」
私が目で問いかけると、は~っと大きく肩を落とす。
「やっぱさ…リアルよりは若干俺の願望入ってるから察しはいいかなとは思うんだけど、結局アオイはアオイなんだよな…」
またまた謎の発言。
「ま、所詮俺の夢だからいっか…。」
うつむいてボソボソっとつぶやいたあと、再度顔をあげて私の顔を覗き込んだ。

「さて、ここで問題です。さっき俺はコウも俺と同じって言ったんだけど、そこから答えを導くと、だ、俺は何をしたくてここに来てるんでしょう?」
はあ?……え??ええ???
カ~っと顔が熱くなってくる。たぶん…てか絶対に真っ赤になってるよ、私。
「いい加減…わかった?俺もね、別に花火なんて見えないでもぜんっぜん構わないんだけど、とりあえずさ、花火楽しむアオイの顔を堪能したかったわけよ。」
「な…なんでえぇっ??!!!」
ユート絶対におかしいっ!
フロウちゃんみたいな美少女ならとにかく、私の顔なんて見ても絶対に楽しくないってっ!
半分パニックでワタワタという私に、ユートは
「そこで…なんで?って聞いちゃうのか、マジで」
と、がっくりとうつむいた。
あ…なんか怒ってる…のかな?
「もうさ…アオイも俺に関しては姫並みの鈍さ?…あ…でも、そか、これって俺の夢なわけだから…
俺の認識してるアオイが天然記念物なわけで…でもリアルもそうだよな……」
ブツブツとつぶやくユート。
なんか随分な事言われてる気が……
「もう…いいや…どうせ夢だし……」
なんかだんだんユートが壊れていく。

「あのさ、」
また復活して顔を上げるユート。
「アオイの俺に対する認識ってさ、もう馬鹿みたいにお人好しな男って感じ?」
突然核心をつかれて言葉につまる私の様子を肯定と受け取ったのか、ユートはため息をついた。
「あのさ~、俺だって別に誰彼構わず命がけで助けちゃったりしないわけ。誰彼構わずそんな事してたら今頃生きてないっしょ?コウが姫にしてた質問、俺もアオイに投げかけてみたいんだけど…アオイはさ、俺が男で自分が女だって自覚してる?」
し…してなくはない…けどさ……
動揺してると真剣なユートの顔が近づいてくる。
細く見えて意外にシッカリしているユートの手が、頬に触れた。
ドンドン距離が縮まって、唇が触れるまであと数ミリ……

………

いきなりユートが離れて笑い出した。
な…なに???
花火があがるボ~ン!ボ~ンて音が響く中、笑い続けるユート。
どうして良いかわからず私は呆然とそのユートを見つめる。
やがて…ふと笑うのをやめたユートは
「…なっさけねえ…俺って…」
と、小さくつぶやいた。
「……ユート?」
「こんな所でさ、自分に都合の良い夢の中で自分に取って都合の良いアオイ相手に色々言っててもしかたないよな?」
な?って言われても……そもそもこれは私の夢の中なわけで…
「リアルでちゃんと言わないとぜんっぜん意味無い。ま、それで玉砕しても、だ。」
何か噛み締めるようにまた独白。
しばらくそのまま俯いてブツブツと独り言をつぶやいていたけど、やがて何か吹っ切れたように顔を上げて言った。
「よしっ!はやいとこ目を覚まそう!」
はあ…唐突だなぁ……
なんというか…ユートは私の事をフロウちゃん並みって言ったけど、今のユートの唐突さの方がフロウちゃん並みだよ……。
わけがわからずポカ~ンとしている私に
「んじゃ、花火鑑賞再開っ」
と、ニカっと笑うと、ユートは一人すっきりした顔で眼前の花火に目をやった。



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