ネバーランドの悪魔2章_2

天使を探す悪魔


(今日は久々に北に行くか…)
ロヴィーノはトマトで汚れた手を洗い、炊事のためにつけていた黒いエプロンを外す。
そして最近は久しく行っていなかった北の国の国境周りに行こうと決意した。

普段はぞんざいな口調でぞんざいな扱いはするものの、ロヴィーノだって一応魔王には感謝しているのだ。
その魔王は魔王のくせにたまに悪夢にうなされる。
悪夢の内容はいつも一緒だ。
うなされながら大事な子どもの名前を呼んで泣いているからすぐわかる。

子どもが亡くなったのは冬らしく、毎年寒くなり始めると、悪夢を見る頻度が増え始めるのだ。
普段ヘラヘラしているくせに、その時だけは死にそうな顔で……始めの頃こそ慰められないかと思っては見たものの、感情というものはそう簡単なものではない。

せっかく養い子が慰めようとしているのだから慰められてやらないといけないという義務感をアントーニョに引き起こすだけで、お互い気を使って終わるだけだと言うことに気づくのにそう時間はかからなかった。

結局自分ではダメなのだ…という失望感。

アントーニョのためでもあるが、それを思い知らされるのはロヴィーノ的にも非常に精神衛生上宜しくないのだ。

だから寒くなり始めると、思い出したように大事な子どもを探しに北の国の国境巡りに行く頻度が増える。


「…っ…さっみぃな…」
ロヴィーノは寒いのは苦手だ。
気が滅入る。

それでも北の国境近くに来ると、その日は兄弟だろうか…子どもが二人国境の結界の前で何か話していた。

自分達と違って全体的に白い兄弟だな…と思った。
兄の方は綺麗な銀髪で、血のように紅い眼をしている。
そしてしっかりと握った弟の手を引っ張っているところをみると、彼の方は不吉な国境から離れたいのだろう。

しかし弟の方はそんな兄を気にすること無く何やらその場にとどまってしゃべっている。
驚くほど大きな目の遠目に見ても可愛らしい子どもだ。

ああ、アントーニョが好きそうだな…と、ロヴィーノは思った。
最近は見まわるだけで連れ帰ってはいないが、久々に子どもを連れ帰って育ててみるのも元気のないアントーニョの気晴らしになっていいかもしれない…

そう考えると、ロヴィーノは姿を消して二人に近づいていった。
兄の方は魔力の感知能力に優れているのだろう…視界に入らなくても気配を感じるらしい。

逆に視界に入らない魔力の気配に警戒して、急いでそこを離れようとしている…が、弟の方は外の景色に見とれていてなかなか動かない。

しかし度重なる兄の催促にようやく動き始めた。

……と思ったらクルリと振り向いて、

「ねえ、ギル。あの人だあれ?」
と首をかしげた。

見破られている?!
ロヴィーノはぎょっとした。

子どもの目はしっかりとロヴィーノのいる位置に向けられているため、適当に言っているわけでもなさそうだ。

見破られているなら仕方ない…と、ロヴィーノが姿を現すと、兄の方もロヴィーノの姿を認めて、警戒をあらわに弟を背に隠した。



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