ネバーランドの子ども達
今日はネバーランドの子ども達が神山の家に遊びに来ている。
いつもは魔王とロヴィーノの二人だけの家もこの日ばかりは賑やかだ。
ネバーランドでは赤ん坊がトマトから生まれるため、子どもが間違って取らないように赤ん坊が生まれる以外のトマトはない。
だから皆ロヴィーノが神山から持っていくトマトを楽しみにしているのだが、今日はそのトマトがなっているところを見て大はしゃぎだ。
「ね、こんなにトマトがなってるってことは、もうすぐここは赤ちゃんだらけになるの?」
興味深げに聞いてくる子どもに、
「あ~、ここのトマトには赤ちゃんは出来ひんねん。みんなのとこのトマトとは別モンやで」
と、魔王が説明する。
「ふ~ん、じゃあ魔王様のとこには赤ちゃん来ないの?可哀想だね。あたしがお嫁さんになってあげよっか?」
おませな女の子はそう言って足元に抱きつくが、
「ば~か、魔王様には悪魔様がいるんだよっ!誰がお前なんかっ!」
と男の子がそれを突き飛ばす。
「なによっ!ばかぁ!」
と喧嘩になりかけたところで、ロヴィーノが男の子の首根っこを掴んだ。
「こら、女の子に乱暴すんなっ!そもそも魔王は別に大事な奴いんだよっ!そいつをずっと探してるんだ。」
そう言って女の子から離れたところに男の子を離すと、おませな女の子は今度はロヴィーノを見上げた。
「その子が来たら悪魔様はどうすんの?三人じゃ赤ちゃんできないよね?」
「…お前…どんだけ赤ちゃん好きなんだよ」
と、は~っと息を吐き出すロヴィーノ。
「どうもせえへんよ~。その子が見つかったら親分は別に赤ちゃんは要らんねん。」
「そうなの?寂しくない?」
と、飽くまでこだわる女の子に、魔王は苦笑した。
「人間とちゃうからな~。ちょっと自分らと感覚が違うのかもしれへんな。
それよりみんなでお父ちゃんお母ちゃんにおみやげに好きなだけトマトもいで行き。」
と、その話を打ち切るようにそう言うと、子供だけにあっさりと興味の対象が移ったようだ。
わ~い♪と各々もらった袋の中にいっぱいのトマトをもいでいく。
それを遠目で見ながらロヴィーノはふと考えた。
今までずっと魔王の大事な子どもを探してやろうと思っていたのだが、その先を考えたことがなかった。
もしその子どもがみつかったとして…そうしたら自分はどうするのだろう?
それこそ…魔王は子どもの一人でもつくって家族で幸せに暮らすかもしれない。
そうしたらそこに自分の居場所はあるのだろうか……
「やっぱ子どもは可愛ええけど、しんどいな~。ロヴィも疲れたやろ。後片付けは親分がするさかい、先に休み。」
トマトをもいで、オヤツを食べて子ども達が帰ったあとは、さすがにすごい惨状だ。
散らかし放題散らかった部屋を片付けながらそう言う魔王に対し、ロヴィーノの返事はない。
「ロヴィ?大丈夫か?」
顔の前で手を振る魔王の顔を見上げて、ロヴィーノは
「なあ…」
と口を開いた。
「なん?」
「お前さ…あの子どもが生まれるトマトってさ…元々はやっぱりその大事な奴との子どもが欲しくて作ったのか?」
ロヴィの問いに魔王は一瞬目を丸くして、次の瞬間吹き出した。
「なんなん、それ?」
「…っせえよっ!笑うなっ!!」
吹き出す魔王にロヴィーノはクッションをぶつける。
それを手で防ぎながら、魔王は言った。
「あんなぁ…なんか勘違いしてへん?
親分があの子亡くした時、あの子まだ10歳やそこらやで?
文字通り、あの子の方がまだ子どもや。」
そういえば…子どもの年など気にしたことがなかったな、と、ロヴィーノは今更ながら思う。
「じゃあ…いきなりぶっつけであんな魔法考え出せたのか?」
今魔王が強大な魔力を持つのはもちろん、魔法技術がすごいのは、それだけ長く生きていて研究しているからだと思う。
人をいきなりトマトで作るなど、いくらなんでもチートな能力すぎる。
そう思っていると、魔王はふと視線を落とした。
「ん~。最初はな、あの子をもう一度作れへんかなぁって思うて研究始めてん。
せやけど、結局俺が魔力暴走させた時にあの子の遺体も消してもうたから…出来ひんかった。
ただな、今思えばいくらあの子に似せて作ったからって、それはあの子ではないやん?
それじゃあ意味がないんや…。
あの子の姿形しとってもあの子自身やないと意味がない…そう気づいてしまってからは、しばらく使わへんかったんやけどな。」
ああ…いいなぁ……口には絶対に出せないが、ロヴィーノは思った。
自分にはいなくなってもそんな風に思ってくれる相手はいない。
北の国の親戚はロヴィーノがいなくなったことで、きっと清々しているだろう。
魔王も…今は一人だからロヴィーノがいる場所を与えてくれているが、大事な子どもが見つかったら邪魔に思われるのだろうか…。
そんな事を思ってると、魔王が当たり前に言った。
「あの子が万が一見つかったら…優しゅうしてやってな?
兄ちゃんいっぱいおったけど、腹違いやったから随分疎まれとってな、家族に恵まれへん子やったから、暖かい家族で囲んでやりたいんや。
めっちゃ可愛え子やから、ロヴィも絶対に好きになるで。」
「な、何言ってんだよっ。俺なんかいても邪魔だろっ?!」
少し泣きそうになりながら言うと、魔王は、なんで?と心底不思議そうに首をかしげた。
「ロヴィとアーティと3人で暮らせたら楽園やん。」
社交辞令を言うような男ではない。本気でそう思っている事にロヴィーノはひどく安堵した。
「楽園とか…魔王と悪魔のいる楽園かよっ!」
涙が溢れかけるのをごまかしながらそう言うと、魔王は、そうやなぁ…と少し考え込んだ。
「アーティは天使みたいな子やから…天使も魔王も悪魔も仲良う暮らしてるってのは…やっぱり楽園ちゃう?」
と、しごく真面目な顔でそう言うと、また片付けの手を動かし始めた。
みんな仲良しなら楽園なんて、そもそも魔王の考えることじゃないよな…と、思いながらも、でもやっぱりそういうのもいいよな、と、少し笑って、ロヴィーノは自分も部屋の後片付けを始めたのだった。
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