ネバーランドの悪魔1章_3

ネバーランドの父


「おい、作るはしから食うなっ!それは子どもらにやるんだからっ!!」

その日はトマトを収穫がてら、干しておいた干しトマトを回収した。
そして料理が得意なロヴィーノはその干しトマトを入れたクッキーを大量に焼いている。
ネバーランドの子どもたちへのおみやげだ。

「あっこも随分人増えたなぁ…これじゃ足りへんか~。じゃ、親分も生地練るわ~」
と、魔王様も自ら粉だらけになってクッキー生地を練り始める。


ネバーランドとは…この神山の周りを取り巻く土地に出来た国の名だ。
国…といっても、まだ規模はせいぜい数百人だから、村か町といった感じだろうか…。


ロヴィーノが時を止めたのは13歳の年。
魔王の元へ来て3年後のことだ。

理由はしごく単純で、魔王が大人が苦手だったから。
大事な子を見殺しにした人間を思い出してトラウマに苛まれるからである。

もちろんロヴィーノ自身の最初の野望も忘れてはいない。
魔法を勉強してダメな親分を助けてやるのだ。

元々魔力が高すぎて周りから敬遠されていたこともあって、ロヴィーノが真面目に勉強に取り組み始めれば、上達は早い。
10年もたつ頃には自分の半径5mくらいなら、結界を張れるようになった。
これで当然外の世界にも出ていける。

もちろんそれはこの神山を後にするという事ではない。
魔王の大事な子どもがいないかを確認するためである。

闇雲に探しても仕方ない。
しかしその子どもが魔王との約束を覚えているならば、魔王が元南の国の王子のアントーニョだと気づいたならば、北の国と外との結界に来るのではないだろうか…。
そう思ってロヴィーノは時折北の国に行って結界の周りを見まわり、結界のあたりを一人でウロウロしている子どもを見ると神山に連れて帰った。

魔王は最初は怒って連れ戻してきたものの、ロヴィーノと同様、危険だと言われている外との結界に一人でくるような子どもは何かしら事情を抱えている場合も多い。
そういう子どもを元に戻してもまた結界の周りをウロウロしていたりする。

結果…魔王も諦めてロヴィーノの時と同じく、一人立ちできるまでという限定で子どもたちを引き取って育て始めたのだが、子どもは当然大きくなる。
そうなると魔王はダメだった。
子どもたちには見せないように努力はしているものの、ひどくストレスを感じたり、悪夢にうなされたりすることが増えた。

かと言って一度北の国に疎んじられてそこを出た子供たちは北の国には戻りたがらなかった。
結果…魔王が神山の周りに結界を張って町を造り、そこに住まわせることにした。

最初は連れてきたのが男の子ばかりだったから、当然そこで終わるところだが、死んでいくばかりで生まれない町も寂しい…。
そう言われて魔王は考えた。
クローンを作っても仕方ないので、子どもが欲しい二人に特別なトマトの苗をやる。
二人が大事に育てると、そこには大きな大きなトマトが一つだけなり、その中には二人の特徴を受け継いだ赤ん坊が一人いるという仕組みだ。

「なんでトマトなんだよっ!」
と、呆れるロヴィーノに魔王様はあっさりと
「やって…親分トマト好きやねんもん。好きなモンから生まれた方が愛着わくやん」
と言い放つ。

こうしてトマトから生まれた子は男の子だったり女の子だったり。
異性の場合は普通に子どもが生まれるし、同性の場合は魔王様にトマトの苗をもらう。

なんともおかしなおかしな国の住人達はそれでも平和に楽しく暮らしていたし、子供たちは時折訪れる悪魔様が持ってきてくれるおみやげのお菓子を楽しみにしている。

そしてたまには悪魔様に連れられて魔王様の住む神山の上の家まで遊びに行ったりすらするのだ。

ここでは皆がロヴィーノを悪魔様と言うが、誰一人ロヴィーノを嫌ったりはしない。
そして一方で親しみを込めてネバーランドの父とも呼んで、農作業や料理の話に花を咲かせる。

子供たちは魔王様が大好きで、大人になれば自分の子どもに子供時代に遊びに行った魔王様の家や遊んでもらった魔王様の話をして聞かせる。

なんともなんともおかしな国なのだ。



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