のっと・フェイク!後編_6

ベビー騒動


「ねえっ!アリスは絶対に俺の事好きなんだと思わないかいっ?
やっぱりこのままアメリカに連れて帰ろうかと思うんだけどっ!」

「あほぅっ!アリスは誰にでも愛想ええ子なんやっ!自分にだけとちゃうわっ!」

腕の中で機嫌よくニコニコ笑っている赤ん坊にキラキラとした目を向けたまま言うアメリカの後頭部をスペインがどついて、ついでにミルクの時間だからと赤ん坊を取り上げる。

「え~っ!でもローザは俺見て泣くんだぞっ!」
「それが普通の反応やっ、どあほっ!」

と、ロマーノの手の中でミルクを飲んでいる双子の片割れ、ローザにちらりと目を向けて不満げに言うアメリカにスペインはにべもなくそう返すと、アリスをイギリスの手に戻して哺乳瓶を持ってきた。

そこで
「あ、アリスには俺がやるんだぞっ!」
と伸ばしてくるアメリカの手を、スペインはペシリと叩く。

「授乳とオムツ替えはセットなんやっ!オムツ替えるとこまでやれん奴にはやらせんっ」
うちの子はオモチャちゃうでっ!ときっぱり宣言した。

「…彼はやるのかい?」
ぷぅっと膨れてロマーノを指差すアメリカに、当のロマーノが
「当たり前だろっ。親が忙しい時に誰がこいつらの面倒見てると思ってんだ」
と、答える。

そう、両親共に国だと何かと忙しい。
普段は二人とも忙しい時は誰かしらが喜んで面倒を見に来るが、油断をするとそのまま連れて帰りかねないので、その時は必ずロマーノがついている。

「そもそも…“あの”スコットランドですら、手にウンチべったりついてもめげずにオムツ替えるんだぞ?」

と、イギリスの気難しい長兄の悪戦苦闘振りを思い出しながらそう言うロマーノに、スペインもその場面を思い出して苦笑した。


アリスとローザ、そう名づけられた双子は容姿こそソックリだが性格がまるで違う。

ローザは人見知りだ。
両親と、生まれた時からずっと側にいたロマーノ以外の人間が抱こうとすると火がついたように泣く。

なのに血のなせる業なのだろうか?
そんな彼女が普段側にいる人間以外で唯一泣かない相手、それがスコットランドである。

世界のお兄さんと言ってはばからず老若男女に愛想の良いフランスでも、優しげで威圧感などかけらもないイタリアでも、そう、あの日本にですら大泣きをする始末なのに、決して子どもに好かれるような優しげな風貌ではないスコットランドが初めて不器用に危なっかしい手つきで抱っこした時ですら、おとなしく機嫌よく抱かれていた。

他には懐かず自分にだけ懐く可愛らしい姪っ子に、女の子の身内を熱望していたスコットランドはメロメロだ。

手にべっとりウンチをつけられようと、卸したての高級スーツにベロ~っとミルクを吐き出されようと全く気にすることなく、しょっちゅう訪ねてきては抱え込んでいる。
その溺愛っぷりに、スペインもイギリスもスコットランドに対する認識が180度変わってしまったくらいだ。

“俺のローザ”と公言してはばからず、嫁には絶対にやらんと宣言する。
自腹でスペイン宅中の窓を防弾ガラスに換え、壁を補強するなど、防犯設備の強化までやってのけた。
その上で家の敷地の周りに魔方陣を張って結界を施し、ほとんどの者には見えないが妖精さんの護衛まで配置しているらしい。
伯父馬鹿ここに極まれりと言った感じである。

ローザ自身が泣くと言うのもあるが、スコットランド怖さに誰もローザには手を出せない。
性懲りの無い性分のフランスですら二度目のチャレンジ中に訪ねてきたスコットランドにキレられて家中の酒を呪いでヴィネガーに変えられて以来、ローザには近づいていない。

こんな状態なので、残ったアリスは各国取り合い状態である。

それでなくてもアリスは誰にでも愛想が良くニコニコしていて、構われるのが大好きだ。
抱っこ大好きっこで、ベビーベッドに戻されると大泣きをする。

まあ…目を見張るほど可愛らしいこの世で唯一の国の子ども達を他の国々が放っておく事など滅多になく、眠っている時以外…いや、下手をすると眠っている時ですら誰かしらが抱っこしていたりするのだが…。

永遠の幼児嫁を諦めていないオランダはもとより、自分を子ども扱いしないミニチュア少女版イギリスに夢を託すアメリカ、イギリスの一番の理解者でその子どもの一番の理解者を自負する愛の国フランス…。

『レディはやっぱり芸術に造詣が深くないとですよ。私自らピアノを教えて差し上げますから、3歳くらいになったらこちらにお寄越しなさい』とオーストリアが言えば、カナダは『スペインさんは良い方ですが、レディの教育係としては不向きな気がしますよね』と、ことあるごとに子どもの教育係をアピールし、子どもと女の子が大好きなイタリアも兄にかこつけてことあるごとに訪ねてくる。

もちろん他の各国も赤ん坊目当てにしばしばスペイン宅を訪れた。

そんな中にベラルーシまで混じっていたのは本当に驚きで、さらに彼女が赤ん坊に目もくれず、いきなりイギリスの腕を取った時には驚いたスペインが慌てて間に入った。

「なんなん?!アーティーに何すんねんっ!!」
とイギリスを背中に隠すスペインとイギリスを交互に見上げたベラルーシは無表情なまま
「どちらが原因なんだ?」
と尋ねる。

「どっちって?」
「子どもが出来た原因だ」
「そりゃ…まああれや、親分がムラムラっときて…」
と、当たり前に始めたスペインは真っ赤になったイギリスに後ろからけり倒された。

「…こいつのほうに特殊要素があるのか?」
と、床に盛大に倒れこむスペインに眉一つ動かさず、今度はイギリスに目を向けるベラルーシ。
「特殊要素って…?」
と尋ねるイギリスに、さらっと
「兄さんが子どもを可愛いと言ったんだ。だから兄さんの子どもが産みたい。
そうすれば兄さんと結婚できる。」
と当たり前に答えるベラルーシにイギリスは納得すると共に頭を抱えた。

「あ~…うちの妖精さんの力だから…。うちの国の具現化である俺限定だと思うんだが…」
と、一応思うところを答えてみると、ベラルーシはひらりと身を翻した。

そして
「ベラルーシ?」
と声をかけるイギリスに
「冬将軍を脅してみればいいんだな?」
と、物騒なことを言いつつ少女はまっすぐ帰っていく。

呆然とその後姿を見送りながら、冬将軍…ごめん…と、本当にやるであろう兄命の少女の事を考えて、イギリスは他国の精霊に心の中でわびたのだった。

どうしたら子どもが出来るか…はこの他にもひどく怖い顔をしたスウェーデンにも聞かれて、思わず泣きそうになってフィンランドに謝られたり、イタリアにせっつかれたドイツが真っ赤な顔をして聞きにきたりもして、同じ答えを返したが、結局その後他国に子どもが生まれたという話を聞かないところを見ると、ダメだったのだろう。

スペインとイギリスの間ですら、それ以来子どもを授かることはなく、この子ども達は特別な奇跡の子どもなのだろうということで、世界の国々は納得せざるを得なかった。

こうして本当にひょんな事から偽装結婚をすることになった二人は、世界で一番幸せな国一家として世界から羨まれる家族となったのだった。


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