前夜
「いよいよやんな……」
イギリスが大きなお腹を抱えて入院したのは帝王切開をすると決っている日の前日だ。
国であるとか男であるとか色々極秘なので、国が用意した特別な施設で、関係者以外立ち入り禁止ということもあり、静かなものである。
各国色々騒動になっているので、場所はスペインとイギリスの他はロマーノとカナダしか知らない。
「なんか…コソコソと悪い事してるみたいだな……」
今までが賑やかすぎたせいもあるのだろうか…。
静かすぎることに少しナーバスになるイギリス。
「ん~、でも他に知らせると親分のとこに赤ちゃん戻してもらえへん気するやん。
最初くらいは親子水入らずで過ごしたい思うんやけど…。
他いたら生まれた瞬間取り合いやで~。
ウルサイやろしアーティーかてゆっくり休まれへんよ。」
ここ数カ月の大騒ぎ思い出してみ?と、スペインに言われて、イギリスは、ああ、そうだったな、と、そこで思い出して苦笑した。
「来てええ言うたら皆喜んで来ると思うけど…知らせたい?」
と、さらにスペインが畳み掛けると、イギリスは小さく首を横に振った。
「ずっと腹ん中いたから出ちまったら少し寂しいだろうな…」
お腹をなでるイギリスの手にそっと自分の手を重ねるスペイン。
「親分はずっとアーティーのお腹越しの接触やったからな~。早く直接抱っことかしたりたいわ。」
可愛いやろなぁと嬉しそうにお腹に目をやるスペインに、イギリスも少しナーバスさが薄れ、楽しい気分になってくる。
誰に望まれなくても少なくとも両親が望んでいる。
それだけで十分ではないか…。
親子であの暖かいスペインの家でひっそり暮らそう。
実兄がスタイに刺繍をしてくれなくなったなら、自分がすればいいのだ。
刺繍なら得意だ。
それをつけた赤ん坊にミルクを与えるのはスペインだ。
料理全般得意だし、子どもにも慣れている。
スペインはイギリス似の子どもが良いと言ったが、スペインに似たほうが他人に好かれる子どもになる気がするな…などとイギリスも生まれたあとに思いをはせた。
「男かな…女かな…」
スコットランドとオランダは女の子希望で…ハンガリーは男が良いと言っていた。
日本は男の子ならハリポタ、女の子なら不思議の国のアリスのコスプレがいいですっ!と、微妙にずれた返事をよこし、アメリカは男でも女でもイギリス似なら良いとスペインと同じ事を言っていた。(これを言うと双方怒るのだが…)
「男やったら一緒にサッカーできるし女の子やったら可愛え服着せられるやんな。」
どっちも楽しそうや、と、笑うスペインは本当に嬉しそうで、イギリスもなんだか楽しくなってきた。
「子どももアーティーも無事ならほんま性別なんてどっちでもかまへんわ。
いっつも他人様んとこの子見てめっちゃ可愛えなぁて思うとったけど、自分が親になれる日が来るなんて夢にも思ってへんかった。
ましてやアーティーと俺の血引いた子なんて、ほんま幸せすぎて夢見たいや…」
ピクニックに水族館に遊園地…と、家族で行ってみたかったという場所を指折り数えるスペインの楽しそうな声に、なんだか安心すると共に眠気が襲ってくる。
そのままウトウトと眠りについたイギリスがその日見た夢は、子どもを挟んでシェスタをするスペインと自分の幸せな時間の夢だった。
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