その頃の北米兄弟
「アメリカ、もういい加減に諦めなよ。」
カナダの自宅に来てもう3日目。
大雑把でたくましいようでいて、実はメンタル面では意外に打たれ弱い兄弟が半泣きで愚痴をこぼすのにいい加減うんざりしたカナダは、それでも追い出すことはせず、半分スルーしつつも半分はちゃんと聞いてやっている。
「ありえないんだぞっ。よりによってスペインとの子どもなんてっ!
あのイギリスがっ…スペインの子ども生むなんてっ!
俺の子どもならとにかく……」
男同士で…しかも国に子どもが出来るなど、ありえない奇跡だ。
それが自分との間に起こった事だったら、どんなに良かっただろう…。
そう、自分との間にこそ起きて欲しかったその出来事が、よりによって自分から最愛のイギリスを奪ったスペインとの間に起きているなどということを認められるわけはない。
赤ん坊を腕に抱くイギリス…それはどんな聖母像より優しげで愛おしくなる光景だろう。
自分たちだって小さい頃にはあの優しい手に抱かれて、幸せに育ったのだ。
せめて父親などなく、聖母マリアのように処女受胎という事なら、許容出来た。
いや、許容どころか、子どもの父親として一緒に子どもを育てたっていい。
イギリスの子どもなら自分の血を引いていなくても愛せる自信がある。
しかし子どもを抱くイギリスの傍らには当たり前に、あのいつもいつも自分を目の敵にして膝カックンをかましてくる、にっくきスペインが寄り添っているのだ。
見たくない、認めたくないというのは当たり前だろう。
「イギリスがあのスペインのミニチュアを抱いている姿なんて想像もしたくないんだぞっ!!」
子どもには甘いイギリスだ。
ましてや渇望していた家族である可愛い自分の子どもと、差し出された手を振りきって独立した元育て子にすぎない自分のどちらを優先するかなど、火をみるより明らかだ。
そして…イギリスに抱っこされた、あの小憎らしい男のミニチュア版が、勝ち誇った顔を自分に向ける図を想像してアメリカは歯噛みをした。
「ねえ、兄弟…」
そんなアメリカにカナダは苦笑した。
「君忘れてないかい?」
「何をだい?」
グスグスと鼻を鳴らしながらアメリカは不機嫌にカナダを振り返った。
「イギリスさんのお腹の子ってさ、スペインさんの子でもあるかもしれないけど、イギリスさんの血肉を分けた子だからね?
イギリスさんにそっくりな小さなイギリスさんの可能性もあるんだよ?
ていうか…その可能性の方が高い気するんだけど…」
衝撃が走った。
そうだった!!!
どういう経緯で出来たのか、正確なところはわからない。
スペインの子と言われているが、通常男同士では出来ないはずの子どもだ。
スペインの血のみ色濃く受け継いでいる可能性より、イギリスの血のみ受け継いでいる可能性の方が遥かに高いじゃないかっ!!!
「こうしちゃいられないっ!!ごめんっ、帰るよっ!!!」
そうだっ!もしイギリスそのまんまの子だとしたら……子ども時代のアメリカの記憶を持たない、アメリカを子ども扱いしないイギリスじゃないかっ!!!
こうしてはいられないっ!!
子どもを育てるのに整った環境を用意しなければっ!!
子どもは自分の手元で育てるのだっ!!!
ジャケットを羽織るのももどかしげに、ドアを盛大に蹴破って帰って行った兄弟を見送って、カナダは、あれえ?と苦い笑いを浮かべた。
「なんか…僕つついちゃいけないモノをつついちゃったかな?
スペインさん、イギリスさん、すみません」
まあ…ヨーロッパの保護者陣が守ってくれるでしょうけど…と、思いつつも、カナダは仕方なしに一応対アメリカ対策に英連邦に出動待機を命じるメールを回し始めた。
こうして…それからスペイン宅にはちょくちょくアメリカからメールが届き始める。
『子どもをのびのびと育てられる環境はこの通り整っているんだぞっ!』
という一言と共に、広い子供部屋らしき部屋の写真付きで……。
それは届くたび、こめかみに青筋を立てたスペインにことごとく消されることになるのだが……。
こうして世界の国々が待っている子どもが生まれるまであと少し……
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