のっと・フェイク!前編_5

お助け人登場


「あ~、ちょぃ遅くなっちまったな。」
両手に荷物を抱えてかつて知ったるスペイン宅のトマト畑を急ぐ男が一人。

家の前について指紋認証になっているキーに手をかざそうとした時、両手がふさがっていることに気づいて舌打ちすると、何故か扉が自然に開いた。

そして…目の前にはキラキラとした光。

「あ~、妖精さんか、ワリイな。助かるわ。あとでクッキー進呈するな。」
と、その光に向かってウィンクと共に声をかけると、ロマーノは中へと入っていった。

まずキッチンに向かって食材を冷蔵庫に放り込むと、ミルクとクッキーを用意してリビングの定位置に持っていく。

そこには朝スペインが用意しておいたモノが珍しくまだ残っていたので、ミルクだけ換えてクッキーは残りを自分の皿に移した。

「もしかしてこのクッキーはあんま好きじゃなかったのか?」
美食の国イタリアほどではないものの、スペインとて料理が苦手なわけではない。
なのに甘いモノが大好きな妖精達があまり食べてないのを不思議に思って一つ口に放り込むが、普通に美味しい。

「もしかして…ベッラ達、何か心配事でも?」
味に問題がないなら食べる気がわかない何かがあるのだろう。
ロマーノはそう聞いてみた。

大抵の者には姿も見えなければ声も聞こえない妖精さん達…。
ロマーノも最初はぼんやりとした光を微かに感じるだけだった。
それが何度もスペイン宅に通っている間にはっきりしたキラキラした光に見えてきて、最近では微かにだが声も感じ取れるようになってきた。

視界的には光にしか見えない相手だが、声を聞く限りは確実に女の子という時点で、イタリア男のロマーノにとっては親切にするのに値するベッラだ。

女性限定ではあるが、その見境のないレベルのこだわりのなさは、さすがにかのローマ帝国の孫といったところか。

イギリスがそう言うから…という理由で彼女達のためのミルクと茶菓子を用意するスペインとは、そのあたりで一線を画している。

そうやって心から彼女達を認め、労り、尽くしているから親密度があがり、ロマーノだけどんどん認識できる要素が多くなっていることには、さすがにスペインもロマーノも気付かないわけであるが…。

『ロマーノ…どうしましょう?』
『ロマーノ、助けてちょうだい』

クルクルとロマーノの周りを飛び回る光。
普段は女性にこんなに頼られ縋られる事がないだけに、とても良い気分だ。
このさい相手が人間でない事など問題ではない。
人間だろうと妖精だろうとベッラはベッラだ。

「もちろん!俺がベッラの頼みを断るわけないだろう?何でも言ってくれ」

黙っていれば整った顔で、イケメンスマイルで請け負うロマーノ。
普段からそういう自信に満ちた態度を取っていればさぞやモテるに違いない。
それを出来ないのが残念なイケメンたる所以なのだが…。

それでも妖精達にはモテモテである。

『嬉しい、ロマーノ』
『やっぱり優しいわ。』
『あなたがいてくれて良かった』

などなど大絶賛の中、午前中にあったことを聞く。

『…というわけでね…どうしてあの子が悲しむのかわからないのよ。』
『家族を望んでいた子だったから…喜んでもらえると思ったのよ?』
『あの子が悲しいと私達も悲しいわ…』

ベッラ達の心配と嘆きに、ロマーノは安心するように言い含める。

「えとな…たぶんイギリスはスペインのイギリス好き度を甘く見てるだけだと思うんだ。
普通起こらない事を起こしてしまった事で、スペインがイギリスを嫌うんじゃねえかって心配してる。」

『スペインはあの子を嫌いになるの?』
『あの子は家族を無くしてしまうの?』

「いや、そうじゃねえよ。スペインは絶対に喜ぶ。
だからスペインが帰ってきて、スペインが喜ぶ事がわかれば解決だ。」

『じゃあスペインを呼んでちょうだい』
『すぐ呼んで?』
『あの子が悲しむのを見てるのは悲しいわ…』

そう…本当はこんな説明をしてる間に即呼び戻せればいいのだが…

「えっとな…今スペインはすごく大事な仕事で、それをしないとスペイン自身が病気になってイギリスを守れなくなるかもしれねえんだ。
会議相手はうちの馬鹿弟と親しいやつだから、そっちから急いでもらえるように根回しするな?」

そう断ってロマーノは自分の携帯を取り出して弟に電話をかける。
一応…デリケートな問題なので、おそらく理由を言ったら黙っていられないであろう弟には、イギリスが体調不良なのでなるべくドイツに会議を早く切り上げて欲しいとだけ伝える。

『さすがロマーノ。』
『ええ、頼りになる子。』

そうしている間に妖精達は少し安心したのか、キャラキャラと笑いながら新たに用意されたミルクとお菓子に手を伸ばし始めた。

そんなベッラ達のつぶやきに、ロマーノは続いてベルの短縮を押しかけた指を止める。
うん…まあ、あれだ。別にベルに報告する必要はないよなっ。

妖精さん相手でもついつい見栄を張ってしまう悲しい男の性だったが、それが実はのちのち幸いしたのを、この時のロマーノは気付かない。

「ちょっとミルクティ淹れてイギリスの様子見てくるな?」
妖精さん達にそう言って颯爽とキッチンへ向かうロマーノ。

『いってらっしゃい』
『いってらっしゃい、あとでまたお話しましょう?』
『ロマーノ、ありがとう』

人間の彼女はいないのに妖精さんのアイドルになりかけているロマーノ…。
ある意味日本あたりになら羨ましがられそうなポジションである。



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