魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_値踏み

こうしてトリックも連れて行くと言う事でスペインの同意も取って、まずは自己紹介。
スペインよりはボロを出さずに卒なくこなすだろうと言う事で、ギルベルトが一歩前へと踏み出した。

「俺はギルベルト。
黒髪の男がアントーニョで、あっちのお姫さんはアリスだ。
俺は旅の剣士で、たまたま伸した悪党が連れていたのがアリス。
城から出た事のない箱入りのお姫さんで、いきなり悪党に拉致されてその悪党が逃げちまったせいで、自分の家がわからなくなっちまったんで、俺はお姫さんを連れてお姫さんの家を探して絶賛さすらい中だ。
その後とある街の宿でちょっと目を放した隙にまたお姫さんが攫われて、その時に助けてくれたのがアントーニョとフランシス。
で、俺らはどこという目的もないままだから、ついでに奴らに同行してるってわけだ」
なるべく淡々とそう告げるプロイセンだが、それに対する男トリックの言葉に内心肝を冷やす。

「旦那ぁ~、お人が悪い…っつ~か、俺試されてますね?」
にやりと浮かべる笑み。
その言葉に背筋がひやりとしながらも、説明役が表情の出にくい自分で良かったとプロイセンは思った。

「人が悪い?」
と、素知らぬふりで眉を少し寄せて見ると、トリックはいかにも怪しそうな顔にさらに怪しい笑みを張りつけた。

そしてトリックは二人に視線を向けたまま、
「旦那ともう一人の黒髪の旦那は…勇者候補ですよね?フランシスの旦那と同類だ。
オーラでわかりまさぁ」
と言う。

これは…どのパターンだ?
と、その時点でプロイセンはイギリスの話していたパターンに当てはめ始めた。

しかしさらに目を眇めて言う
「女の方は…ちょっともう少し近寄ってみねえとなんとも…」
という言葉でパターン3のオーラでわかる…は消去だと思う。

オーラでわかるならスペインの事はわかるのにすぐ隣にいるイギリスについてわからないのはおかしい。
というか、神から聞いているならプロイセンといる時点で女装したイギリスとわかるか…。
と言う事で…おそらくパターン1の他の国の誰かから参加している国の特徴を聞いている…に間違いないだろう。

もちろんそれに気づいていると相手に知らせるのは得策ではない。
予定通り可能な限りイギリスがイギリスであると知られないように、逆に相手の後ろにいる国についての情報を引き出さねば……

(そうなると…だ……どう反応するのが正しい…?)
プロイセンは瞬時に計算をして、トリックの腕を掴んで部屋のすみに引きずって行く。

そしてガン!と壁に相手を押し付け、上から少し威圧するように見下ろすと低い声で言った。
「…女…とか気安く言ってんじゃねえ…
俺らに対してならとにかく、お姫さんに何かしやがったらてめえの命はないと思え」

と、その様子に
「なんなん?なんかあったん?」
と、スペインとアリスも近寄ってくる。

そこでちらりとアリス…イギリスに視線を向けるトリックにスペインは何かを感じたのかサッと自分が間に割って入ってアリスを背に隠した。

そして
「なんや、アリスになんかふざけた真似しよったら、どたま叩き割るでっ!」
と気色ばむ。

それでトリックは慌てたように、フランスの後ろに駆け込んだ。

「す、すいやせんっ。フランシスの旦那からヒーラーで誘拐されてきたんだってきいてやしたんで。
ヒーラーってことはイルスの神子ってことですし、最近あちこちでイルスの神子や神父が誘拐されたり殺されたりしてるらしいんで、それかと思いやして…。」
「へ?そうなのか?」
「へぃ。ちょうど勇者候補が現れ始めた頃だと思いやす。」

「殺す…やてっ」
スペインの表情が険しくなった。
そこでそれまで黙っていたフランスが口を挟む。

「あー確かに…。
なにしろ剣と魔法の世界っていっても、治癒魔法の使い手は少ないしね。
お兄さん達が街で資金稼ぎをしている間に会った治癒魔法の使い手だって、唯一街の教会の神父様だけだったじゃない?
便利だから教えてもらえないかって頼んでみたけど、この世界の女神様、イルス様の敬虔な信者で、しかもしかるべき身元の人間じゃないと教えられないって言われたしね。
同じ目的なのかもね…」

とりあえずイギリスに関してはアリスとしての設定を信じてもらえてるらしい。
トリック自身の情報をどこまで信じて良いのかはわからないが、気になるのは……

「それもあるけどよ、勇者候補、つまり俺らがここに飛ばされた頃からってのが嫌じゃねえ?」
プロイセンの言葉にスペインがさらに顔をしかめた。
「国の誰かがやっとるって事か。」
「ああ、自分だけヒーラー連れて、他の奴にヒーラーがつかねえように…。」

そんな事を2人で話している間、イギリスはひどく心細そうな様子で青くなって震えている。
まさに自分が狙われている事に怯えるか弱い少女そのものだ。

それがイギリスだと知っているプロイセンですら惑わされそうなその演技。
他が騙されないわけがない。
大丈夫、神から情報を得てるわけじゃないなら、絶対にバレない…と、思う。

現にスペインは気遣わしげに
「大丈夫やで。
親分強いんや。絶対に危ない奴らになんかお姫ちゃんに指一本ふれさせへん。
守ったるから安心し」
と、にこりと守るべき身内に浮かべる優しい笑みを向けているし、フランスも
「大丈夫。相手が俺達と同じ別世界から来た奴だとしたら、お兄さん達にはわかるからね。
最悪魔王退治を譲ればアリスちゃんの安全くらいは確保してもらえると思うから」
と、微笑む。

そこでプロイセンは最終的に
「とりあえず…お姫さんの安全のためにも情報持ってるそいつを同行させるのは仕方ねえから認めるけどな。
そいつを完全に信用できるかは別問題だから、お姫さんには近づかせるなよ」
と、アリスを抱き寄せてそう宣言して、ことをおさめた。




とりあえず当初の予定通り、プロイセン、イギリス、スペインでツイン、そしてフランスとトリックでツインで泊まって、次の街までの旅支度を整える。

支度…と言っても小さな村なので、今までの道中で狩ったボッコから剥いだ毛皮や牙と塩や砂糖などの調味料との物々交換がメインで、お姫様はなるべく休ませてやりたいとの心遣いから、それにはイギリスと護衛役のプロイセンを残しての3人で向かった。


一方でプロイセンはリビングで、今日で4日になるこの宿での滞在ですっかり解いてしまった旅の荷物をまたまとめ直していた。
ある程度まとめ終わって一休みにとお茶をいれて、イギリスにも…と、それを持って寝室へ。

「イギリス、入るぞ~」
と、一応声をかけて室内に入ると、イギリスはベッドの上で膝を抱えて震えている。

へ?と、慌てて駆け寄って、小テーブルにトレイを置くと、プロイセンは
「おい、どうした?」
と細い肩に手を置いて、声をかけた。

それにゆっくりあげられる顔。
その頬が濡れている事にひどく驚く。

「なあ、どうしたんだよ?
どこか痛いか?
それとも何かあったのか?」

今までの心細げな態度は全て演技だと思っていた。
だが今2人きりで演じる必要がなくても、ひどく頼りなく見える。

もしかして…今までのも演技だけではなかったのか?
混乱しながらもイギリスの横に座ってその肩を抱き寄せると、細い手が小さくプロイセンの身体を引き離そうとする。

「…必要ない時に…優しくなんて……するなよ」
小さく小さく呟かれるその言葉に、なんだかたまらない気分になった。

「…自分で…自分の身守れねえなんてことになったの…初めてだ…。
俺…今お前が俺の事見捨てようと思ったら…殺されそうになっても何もできない…」
俯いて小さな手を見下ろす小さな顔。

不安じゃねえわけねえだろ…何見てたんだ、俺様……
プロイセンは今更ながら思った。
考えてみれば誘拐された時だって、相手は普通の人間で…それでもなすすべもなく連れて行かれていたのだ。
あの時にスペイン達が通りがからなかったら…と、何故思わなかった。
おそらく若返っただけではない。
イギリスはヒーラーというジョブを選んだ時点で筋力も体力も人並み以下になっているのだろう。
国として多少一般の人間よりも強い肉体を保持していたので、本当に無力な子どもだった経験などないイギリスが、その時どれほど不安だったのか。
そんな事をかけらも考えず、当然メンタルのフォローもせずにいた自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
小ささ、か弱さを確かに肌で感じていたのに、全く考えていなかったのだ。


「見捨てねえよ…。
言っただろ?俺様が全部フォローして守るって」
と、抵抗を押し込めて抱きしめれば、しばらく小さな抵抗があったが、やがて圧倒的な筋力差に諦めて大人しくなった。

「…俺がいなくても…スペインかフランスの条件が整えば魔王の間には入れる…」
そんな言葉にもショックを受ける。
信じられていない事ではない。
信じる習慣のないイギリスの不安を感じとってやれていなかった自分の鈍さにだ。

「ちげえよ!」
そしてプロイセンは自覚した。

「俺様がお前を守るのは魔王の間に入るための条件だからじゃねえ!
俺様がお前を守りたいからだ。
頑張ってめいっぱい強がってても、ぽっきり折れちまいそうなお前を守りたいからだ。
俺様の側で安心してくつろいで欲しい。
大丈夫だって…俺様が居れば大丈夫なんだって思って欲しい。
お前は迷惑かもしれねえけど…俺様はこの世界にいる間も、元の世界に戻ってからも、お前の側にいてお前を守りてえ。
…っつ~か、守るぞっ。
お前が嫌だって言っても俺様は絶対にお前を守るからなっ!」
覚悟しろよっ!と、腕の中を見下ろせば、ぽか~んと呆けるイギリス。

「おま…それ…いったい……」
涙がまだ消えない大きな目のびっくり眼は心底可愛いな…と、プロイセンは思う。
ああ、もうわかった。自覚した。
フランスが言っていた事は正しい。
さすがに愛の国だ。
自分はたぶん随分前からイギリスを好きだったのだ。

「絶対に馬鹿な行動にも出ないつもりだから安心して欲しいんだけどな…
俺様、お前の事好きだ。
恋愛的な意味で。
お前に同じ気持ちを持てとは言わない。
でも俺様の気持ちは本当だから、そこは疑わねえで欲しいし、俺様はずっと病院と軍国しかしてこなかったから、気の利いた事とかできねえし、好きな相手に対しての愛情表現なんて馬鹿見てえに守り続けるくらいしかできねえけどな、それが俺様だから。
好きな相手なら守りてえ。だから守らせてくれ」

ころんと丸いメロンキャンディのような大きな目がさらに大きく見開かれた。
零れ落ちちまいそうだ…と、少し心配になる。
真っ赤になる白い顔。
ぱくぱくと開閉する小さな唇。

「びっくりさせてごめんな?
もちろんお前が同じ気持ち持ってくれれば嬉しいけどな、でもとりあえずお前を守れればそれで良いから…」

そう言って再びぎゅっとその普段よりも細く小さくなった身体を抱きしめる。
しかし今度は抵抗が返ってくる事はなかった。


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