魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_怪しい新参者

フランシスが戻ったのは丁度3日目の夕方だった。

村に戻って1件しかない宿屋に泊まっている一組しかいない泊まり客を見つけるのは当然難しいことではありえない。
それでもこんな携帯もない時代に無事にまた合流できるというのはラッキーなことだ。
だが…恐ろしい事にそんな幸運も時として歓迎されるとは限らない。


「お兄さん戻ったよ~!!」
と、2階の客室にいた3人を1階に呼びだしてもらってにこやかに仲間に向かって手を広げるフランスの頭にむかって飛んできた蹴りは正確無比で強力で、クン!と後ろからフランの腕を掴んで引っ張るモノがなくてまともに食らっていれば、丈夫な国体と言えど危なかっただろう。


チッ…と避けられた事に舌打ちするスペインに
「何?!なんなのっ?!お兄さん何かした?!!」
と涙目なフランス。

避けられた事で二発目の蹴りの準備に足を踏み出すスペイン。
ぽかん…と、口に手をあてて硬直するアリス。
その横でグイッとスペインの腕を掴んで攻撃を止めながら、プロイセンの視線はフランスの後方へ向けられていた。

「…フラン、そいつは?」

その制止は必ずしもフランスのためのものではなかったらしい。
先に状況確認を…という意思表示と理解して、スペインも攻撃をやめる。
そして同じくフランスの後方に目を向けた。


見た目はいかにもシーフといった感じの皮鎧の小男。
腰のベルトには大小の短刀の他にもなにやら色々な袋をさげている。
さきほどスペインの攻撃を見切ってフランスを避けさせた反射神経もたいしたものだ。
男はへらりと笑みを貼りつけているが、目が笑っていない。
あちらはあちらでこちらをさぐっているようだ。

「あ~、こいつはね、トリックって言うの。
お兄さんが罠に飛ばされて木にひっかかってたところを助けてくれたのよ。
見ての通りシーフだから戦闘は確かに得意じゃないけど、野営にも詳しいし、世情にも詳しいし、道々すごくお役立ちだしね。
なんかお兄さんが魔王を倒す伝説の勇者候補の一人だってオーラでわかって助けてくれたんだってっ!
でね、魔王城に向かうんでしょって事になって、本人ね、魔王城の財宝が欲しいから付いてきたいって言ってるし、俺ら財宝なんて要らないじゃない?
だから連れて行っても良いかな~なんて?」

にこにこ言うフランスの言葉に、スペインですら、はぁ~…と、ため息をつく。

…あいつ…やっぱアホやな……
と、プロイセンに持たれるようにその肩に手を置いて小声で呟くスペイン。

…露骨に怪しそうだよな……しかもさっきのフランをかばった時の反射とか…たぶん戦闘も得意じゃねえどころかかなりの手練れだしな……
と、それにやはり小声で返すプロイセン。

これはお断り案件だ…と、両者の暗黙の了解が出来て、さあではプロイセンがお断りを…と思っていたら、そこでいきなり、

「まあ…心強いですね。罠にかかって飛ばされた時には大丈夫かと心配していたんですが…こんなに頼れる方と出会うなんて、これも神のお導きですね」
と、両手を胸の前で組んでにっこり微笑むアリス。

うあああ~~~!!!!お姫さん、それはないっ!!!!
と、その時は珍しくスペインとプロイセン、2人同じ事を思って慌てるモノの後の祭り。

「でしょでしょ?!お兄さんもやっぱりお兄さんて神様に愛されてるなぁ~って思ってっ!」
と、盛り上がるフランス。

「お~ひ~め~さんっ!ちょっとこっちっ!!!」
と、そこでスペインとアイコンタクトで意志を確認し合い、プロイセンがアリスの腕を取って部屋の隅へと連れて行く。

そこで壁際にアリス。
それを覆うようにアリスの両側に手をついて万が一でも唇が読めないようにする。

「…お姫さん…あれな…」
と、開いたプロイセンの唇を、アリス…もといイギリスはそっと人差指でつついた。
「…分かってる…罠だな」
と言う目は深窓の令嬢のそれではない。
策略で覇権に上り詰めた油断のならない老大国に目だ。

…ああ…忘れてた…こいつイギリスだっけ…
と、そこでプロイセンは小さく息を吐き出す。

「…んで?なんでその怪しい奴を仲間に?」
と聞くと、
「仲間…じゃなくて、同行者な?」
と、にっこり訂正された。

「あーはいはい、同行者ね、同行者。
でもわざわざ怪しい奴を同行させる理由は?」
とさらに聞くと、イギリスは伏し目がちにクスリと笑って言う。

「伝説の勇者…ってあたりだな。
そいつはフランスを国だと見破った。
ってことはだ、3つの可能性があるよな。
一つ目は他の国の誰かから参加している国の特徴を聞いている。
二つ目は…俺ら全員の情報が神の側から漏れている。
三つ目は本人の言うとおり本当にオーラが出てて、一部の勘の良い奴にはこの世界の住人とは違う何かがあるとわかる」

「なるほどな…。どの可能性が高い?」

「それを確かめるために話してみた方がいい。
もし髭がお前らの事について言及してなくて、お前らもそうだって断定できなければオーラなんて見えてねえって事で1か2。
神側からの情報なら結構詳細を聞いてる可能性高いから、どちらかと言えば1か。

その後、髭やスペインに言ったのと同様に、俺は単なるお前に助けられたこっちの世界の住人だという紹介をして、それでばれないようなら1確定だ。
オーラ見えないし、“イギリスが若返って女装してプロイセンと同行している”という神だけが知っている事実を知らねえって事だからな。

逆に俺の正体までバレるようなら、2か3だ。女装したイギリスってとこまでバレるなら2か。
俺が国だってとこまでバレないなら、気づいてないフリで逆にこちらから色々探ってみて、出来るなら裏にいる奴を燻しだす。
で、俺が国だってとこまでバレるなら、スペインとフランスには以前言っといた通り、アリスを誘拐した奴らの策略って事にして、殺っちまおう」

「…了解。でも本当に……」
「…ん?」
「…お前が敵じゃなくて良かったぜ。
戦略には自信あるんだけどな…そのあたりの心理戦に関しては諜報大国に敵う気がしねえ」
ため息交じりにそう言うと、それまで爛々としていた目が、しょぼんと悲しげな色になる。

「…イギリス?」
「…まあ…嫌われても仕方ねえけど…な」
と、とたんに泣きそうになる小さな頭をクシャっと撫でて
「何言ってんだよ。諜報のお前と戦略の俺様で世界最強のタッグ!最高じゃねえか」
と、言ってやると、
「…ばかぁ……」
と、涙目で見あげるのが可愛すぎて、のたうちまわりそうになった。

――ギャップ萌え…と、よく元弟子の東の島国が言っていたのを強烈に理解した瞬間である。


こうしてスペインの所に2人で戻る。
「で?説明して説得したん?」
とプロイセンに声をかけてくるスペインに、ふんわりした笑顔で大きく頷くアリス。

「ええっ!親切にもフランシスさんを助けて下さったのですもの。
悪い方ではありませんわ。
ギルベルトさんも分かって下さいました」
と言われて、
「あかんやん…説得されてもうたんか…。ギルちゃんのヘタレ…」
と、スペインはガックリと肩を落とした。


「まあ…お姫さんは俺とお前で守るって事で…。
部屋はあいつとフランで、俺らこのまま3人な」
と、それでもそのプロイセンの言葉に気を取り直す。

「まあしゃあないな。
ほな、そういうことで…」

こうしてとりあえずは同行者が1人プラス。
5人で魔王の城を目指す事にあいなった。





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