「お姫様どう?眠れたみたい?」
と棒でたき火を掻き混ぜて言うフランスに
「ああ、やっと寝た」
と返すと、プロイセンも焚火の前に座りこむ。
「…スペイン?」
と、そこで無言でテントに視線を向けてるスペインに気づいて声をかけると、スペインは小さく息を吐き出して、焚火を囲む悪友の方へと向き直り、そしていきなり
「守ってやりたいなぁ……」
と、抱えた膝に顔をうずめた。
「はぁ?」
と、その唐突さにフランスとプロイセンから困惑の声が漏れる。
すると、スペインはもう一度
「…守ってやりたい」
と、さきほどの言葉を繰り返した。
そこからはしばし皆沈黙。
パチパチと焚火が燃える音だけが響く。
そんな中でやはり膝に顔をうずめたまま、スペインが口を開いた。
「親分…現実戻ったら国やからなぁ……好きな子おっても思い切り守ってやれへんし…
かなり無理して守ったった思うても、長い時を経ればそれで相手の子傷つけるだけやったって事もあるし……もういっそのことこっちで普通に好きな子作って守って生きれるなら、それもええかなぁって思うとるんやけど……」
「…スペイン…お前……………酔ってる?」
と聞いたフランスにはすかさず火のついた薪を投げつけるスペイン。
悲鳴をあげて避けるフランス。
そんな中で、このスペインの独白は自分達の目的に関してどういう方向に影響するのかを考え始め、一応友人に対してあまりに利己的な発想では…と思い返してプロイセンは落ち込んだ。
そこでフォローを入れてみる。
「いや、でもお兄様だったら確かにちょっと甘やかしすぎだったかもしれねえけど、一応イタリアの半身として独立して頑張ってるしな?
お前には感謝もしてんじゃね?」
と言うと、フランスが
「違う違う、プーちゃん知らなかったっけ?
ロマーノは家族。
こいつの好きな子は別の子よ」
と、ヒラヒラと手を振りながら苦笑した。
もちろんそれにも火のついた薪が飛ぶ。
それを今度は楽々避けながら、でも…と、フランスは意味ありげな視線をプロイセンに送って来た。
「プーちゃんも…同じ子の事好き…なのかな?」
「は?俺様??」
いきなり振られてプロイセンは驚いてフランスを…次いでスペインを見た。
自分が好きな相手と言えば…
「ヴェストはダメだぞ!」
「要らんわ」
「イタリアちゃん?…確かに可愛いけどあれはヴェストのだからな」
「いや…イタちゃんは可愛えしロマと並ぶと楽園やけど…あの子は楽園要員や」
と、実にスペインらしい謎な表現で否定されてプロイセンは悩む。
本当に心当たりがない。
するとフランスが無自覚なの?とため息をつく。
「あのさ、お兄さん、お前らには散々泣かされたんですけど?
お前を列強で包囲してみれば、あの子はお前の唯一の味方として参戦しちゃうし?
ワーテルローでは合流しないようにって先にお前を叩いておいたのに、気合いと根性であの子助けに来ちゃうし?
お前の援軍がなければお兄さんあの戦い絶対に勝ってたんだけどなぁ…
さきの大戦でも最後まであの子にだけは侵略攻撃せずに、講和ですませようとしてたしね」
…と、そこまで言われればプロイセンも誰の事を言われているのかはさすがに理解した。
「それは…国政だろ?
俺様がどうのじゃなくて…」
と、今あまりイギリスとの関係性の深さを追及されるのは下策ということでやんわり否定してみるが、フランスは何故か執拗に追及する。
「ここに飛ばされる前の会議もそうじゃない?
あれはもう完全に坊ちゃんの事かばってるでしょ」
「お~ま~え~は~~!!!!」
正直、戦略は得意だが色事には疎いし、何故フランスがそこまで食い下がるのかわからないが、続けさせておくのはよろしくない…とプロイセンはあえてフランスの言葉を若干大きな声で遮った。
「マジ何が言いたいのかわかんねえけど、あれはお前が悪いだろ?
欧州としてはイギリスが言ってる事は正しい反応だし、お前がまぜっかえさなきゃ会議はUSAと欧州の利益追求のやりとりで終わるのに、お前のせいで会議が踊って、可哀想にヴェストが毎回毎回毎回胃薬持参で会議臨むんだぞ?!
プライベートで喧嘩すんのもからかうのも自由だが、あれは立派な業務妨害だ!
いいかっ?!お前とアメリカは二言目には自由自由ってうるさく言うけどなっ?
自由ってのは他人の自由と権利を著しく侵害しない限り自由と言えるのであって、それを踏みにじって自己都合や娯楽のために暴言吐きまくるてめえらのは、単なるガキの我儘だっ!!
どうしてもならプライベートでお友達相手にやれっ!
俺の可愛いヴェストを巻き込むなっ!!!」
「あー…その点についてはプーちゃんが正しいわぁ。
ていうか…さっきからプーちゃんにタゲ移そうとしてるみたいやけど…プーちゃんやなくて自分やろ?あの子狙うてるの」
と、そこでスペインが顔をあげた。
そして、非常に剣呑な空気を撒き散らしながら
「…漁夫の利…が自分の手ぇやんなぁ?」
と笑顔で言うが目が笑っていない。
プロイセンはここでようやくフランスが執拗に自分とイギリスとの関係について言及してきた理由を悟った。
いや…悟ったからと言って気持ち良く解決…とはならないのだが……。
ハッキリ言って急激に空気が険悪になって居心地が非常に悪い。
「何言ってるの?お兄さんの坊ちゃんに対するそれは親愛よ?」
「嘘つけ」
「あーー、もうストップっ!!!そういう争いしてる場合じゃねえだろっ!
それこそそんなの現実に戻れてから考えれば良いだろうがっ!」
それよか今は魔王関係が先だっ!話聞けっ!」
と、強引に持って行こうとするが、スペインはじと~っとフランスに視線を向け
「親分はええけど?
フランスは魔王倒したあとやったらもう取り返しのつかへん願いとかするつもりちゃう?」
と、さらに喧嘩を売りに行く。
あ~…と普通なら頭を抱えるところだが、そのスペインの言葉は今のプロイセンにとっては返って好都合だ。
話をそこに持って行くことにした。
「それなんだけどな、お前ら俺らをここに送りこんだ神の事信じてるか?」
と、始めると、そこは揉めていても古参国家達だ。
とりあえず先ほどの事は置いておいて、今聞かれていることはどうやら重要らしいと耳をかたむけた。
「…どう言う意味?」
「信用できひんてこと?」
と口を揃えて聞いてくる2人に、プロイセンは、世界を水没しようとしているような相手で人類にとっては友好的ではないのではないかということ、何かを願ってもわざと曲解されておかしな方向性で叶えられるのではないかと言う事、だから自国に有利にと思って大きな願い事をするのは危険だと思う事…そんな最初にイギリスと話し合っていた時に出た話をして見せた。
「……まあ…一理あるよね…」
と、言ったのはフランスだ。
用心深さという意味ではスペインよりずっと用心深い。
一方でスペインは考え込んだままだ。
即断即決なこの男にしては反応が悪い。
「…スペイン?」
と声をかけてみると、小さく息を吐き出し、
「…まあ、ええわ。
細かい事はあとで考える。
最低限、向こうの世界の事で他に影響するレベルの事は願わんようにする。
それでええんやろ?
で?そんな提案をするプーちゃんは魔王倒したら何願うつもりなん?」
と、自分の側はそれ以上話す気はないとばかりにプロイセンに振ってくる。
プロイセンの側としてはそれは渡りに船だ。
極々当たり前のように言う。
「ん…俺様は元々この話聞いた時に今話したみてえな理由で迂闊な事頼めねえなぁって思ってたし、別に世界の水没止められればいいって考えてたんだけどな。
今は…」
「今は?」
「お姫さんが無事自分の家に帰れるように…だな。
どのタイミングで元の世界に戻るのかわかんねえけど、魔王倒して即だったら送ってってやれねえし。
外に出た事もねえから自分の実家分からねえって状態だから、一応俺に万が一の事があったら最初の街の宿屋の親父を頼るようには言ってあんだけど、心配でな……
他に変な願いを言わせないために絶対に自分が魔王倒すって思ってたから、まあそんな感じに考えてた」
「あかんやんっ!下手すればお姫さん魔王の城のど真ん中で1人やで?!」
「ああ、だから設定した場所に戻れるアイテム、“雲の道”を最初の街に設定して持たせてるから。
あそこではお姫さんは歓迎されてたし、宿屋の親父も良い奴だからな。
運が良ければ泊まり客からお姫さんの実家の手掛かりくらい得られるかもしれねえし?」
「そんなん……」
「…しかたねえだろ?例え俺様がお姫さんの家が分かるまでって思って先に探しても、いつ見つかるかわかんねえし、その間に誰かが魔王倒して強制送還されちまうかもだし……」
「まあねぇ…。そういう事なら余計に俺達で魔王倒したいよね。色々準備できるように…」
「だろ?」
と、これである程度の根回しはできただろうか…。
まああとはおいおい…そう判断して、プロイセンはごろりと横になり、
「じゃ、そういうことで言うべき事は言ったし、考えておいてくれ。
火の番はあとで変わるから眠くなったら起こせよ」
と、告げると目を瞑った。
――…あほぉ…寝れへんくなったわ……
と、ぽつりと零すスペインの呟く声は、ぱちぱちとはじける火の中に消えていく。
「…じゃ、お兄さんもお先。
眠くなったらどちらか起こしなさいな」
と、フランスも横たわったところで、たき火が燃える音だけしか聞こえない静寂が、森の中に訪れた。
魔王の城はまだ遠い。
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