魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_モノローグ

「どこだ、ここ?」

がらんとした空間。
上も下も右も左も真っ白だ。
おかしい。
自分は先ほどまで会議の会場にいたはずだ。




今回は自国ドイツでの会議だった事もあり、自分も弟の補佐で出席していた世界会議。

確かいつもの通りアメリカが突拍子もない事を言いだして、イギリスがそれに反対。
フランスが『お兄さんはイギリスの言う事にはんた~い』とか、もう無意味な事をぬかした時点で、色々な意味でプロイセンはキレた。

そして立ち上がって冷やかに言い渡す。

『よろしい。貴殿の言い分はわかった。
貴殿はユナイテッドステイツの言い分通りUSAの利益のみを追求した案に賛同してEUおよび欧州全土を経済的窮地に陥らせたいと、そういうことを主張しているわけだな?フランス共和国』

毎度毎度繰り返される流れだが、欧州の利益のために自分が矢面に立っているのに後ろから撃たれるような真似をされ続けるイギリスも可哀想なら、無意味な混ぜ返しで進まない会議のために毎回胃薬常備で会議に臨む弟のドイツも可哀想過ぎだ。

本来は亡国で第一線を引退、補佐として入っている身で口を挟むまい、当事者で解決させねばと思って我慢してきたが、あまりに毎回繰り返されるこれに、さすがにプロイセンの忍耐も限界を告げる。

『フランス共和国は欧州の利益を共に追求する一端として正常な判断ができなくなったか、もしくは内部から欧州経済を破綻させたいらしいぞ?
これは、次回の欧州会議で全EUおよび欧州の国々と共に協議せざるを得ない案件だ。
議題の中に組み込んでおけよ?ドイツ』

そう言ってプロイセンはクルリ…と手の中の万年筆を回して、さらさらっと手書きでその旨をメモ書きすると、隣の弟にそのメモをピッと飛ばす。

ドイツは兄が自分をいつもの呼称『ヴェスト』ではなくわざわざ『ドイツ』と呼んだ事で、空気を読んだらしい。

『わかった、手配しよう、プロイセン』と、自分の方も亡国ではあるが兄を表す国名でその言葉とメモを受け取った。

もちろん空気を読んだのはドイツだけではない。

この東西ドイツ兄弟のやりとりを見て、これはすでに“いつもの”会議ではなくなり、それなりの態度で臨まないとまずい立場になる…そんな事に気づいて居住いを正す国が何国か…。

自国には関係のない議題だから…と、こっそりスマホを弄っていた日本はそっとそれをポケットにしまい、イタリアは歌うのをやめて姿勢を正す。

おそらくここからは兄が仕切るのだろうと、ドイツはこっそり兄が事細かに取っていた議事録を引き寄せて自分の前に。

元々常に会議を躍らせることなく、むしろ進める方向で臨んで矢面に立ち続けていたイギリスは、このプロイセンの介入に心底ホッとした顔をした。


しかし当事者のフランスは、相手がプライベートでは親しい悪友という事もあって、その深刻さを見誤る。

『ちょ、ちょっと待ってよ、プーちゃん、そんな大げさなっ!
こんなのいつものことでしょ…』

現役を退いてかなり経ち、最近はすっかり丸くなっておどけた様子しか見せないプロイセンの軍国時代を思わせるストイックで厳しい顔に会議室中がシン…とする。

そんな中で慌ててそう言うフランスを、プロイセンはギロリと睨みつけた。

『ここは…エレメンタリースクールだったのかな、共和国?
いや、小学生でももう少し規律があるか…では、共和国はここが幼稚園か動物園だと勘違いしていると言う事か
よもや、EUを担う国の国体が、ここが理性ある大人が議論をする会議の場であると知った上で、幼稚な戯言で会議を混乱させて楽しんでいる…なんて事はないだろうからな?
それを意図的に行っているとすれば、武力でこそないが、世界が建設的な方向に向かうのを阻止しようとするテロにも等しい行為だ
よもやEUの中心的な国が世界に対して率先してテロ行為を行うとは考えられんからな』

その声音にも言葉にも一片の情も入る余地もない。
厳しい表情のままそう言われて、すくみあがるフランス。

そこで次にプロイセンがチラリとそちらに視線を向けると、かつて彼にひどく厳しくしごかれた事がトラウマになっているアメリカがビクゥ!と飛び上がった。

「あ、あのさ、互いに120%の欲求をしてから、少しずつ譲歩して、最終的に妥協点を見つけるというのは、普通のやりかたじゃないかい?」

焦っても怯えてもそこは世界の超大国。

次に自分に矛先が向くのだろうと察して、フランスのように有無を言わさず叩きつけられ踏みにじられる前に…と、事態の打開を試みるのはさすがである。

しかしその視線は宙に泳ぎ、たらり…たらりと、額からは滝の汗が流れ落ちている。


こうしてありえないほど長く感じる一瞬が過ぎ、

「もっともだな。
ということは…もちろん欧州の側が飲める範囲には譲歩するということで、そのラインについては資料を用意して頂いているのだろうな。
それを提出、もしくは説明をして頂きたい」

との言葉がプロイセンの口から出た瞬間、アメリカのみならず会議室中の国が、ほぉーっと安堵の息を吐き出した。


まあ一番大きなため息は当然ながら当事者のアメリカからで、
「そういうことで、USAとしては…だね、最低ラインは…」
と、割合と建設的なラインで話を再開する。



こうして再度流れ出した時間に誰もがホッとしたその時である。
いきなりぴか~っと室内が光に包まれた。

そしてまぶしさにつぶった目を開けてみれば、真っ白な何もない部屋にいる…というわけだ。


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