アーサーと魔法のランプⅪ-コンキスタドールと愛の国3

「自分、アーティーと何話しとったん?」
と、そこへタイミング良くチョコレートポットとカップ、チュロスを乗せたトレイを持ったスペインが戻ってきた。

少し警戒するような…焦りを押し隠しているような、そんな表情に、あの子のこれからを全部手にいれたくせに…と、フランスは少し面白くない気分になる。

あの時滅んでしまえばよかったのにとかは思わないが、共倒れの道から救ってやったのだから少しくらい感謝して、あの子の愛情を分けてくれればいいものを、絶対に一片も他には分け与えないで抱え込む気満々でいるであろう男に、不条理とは思うものの苛立ちが抑えきれない。

「ひ・み・つ♪」
さきほどイギリスにしたのとは別の意味でパチンとウィンクをしてやると、スペインはギリっと歯ぎしりをして、チョコレートポットに手をかけた。

「それ…お兄さんに投げつけたら坊ちゃん泣くよ?」
クスリと笑うと、スペインは忌々しげに舌打ちする。

「自分…角取れてただの変態になったみたいに思われとるけど、本質的な部分はあの頃と全然変われへんわ。むっちゃ嫌な性格しとるな。」

「あら、それはお互い様でしょ?お前もたまに帝国様の牙と爪が見え隠れしてるよ?
他に出すのは良いけど…それで坊ちゃんを傷つけたりしないでね?」

「せえへんわっ。
ようやく親分の手元に戻って来たんやから、これからは1000年分ドロッドロに甘やかしたるんや」

スペインの言葉に、あ~やっぱりか…と、フランスは小さく首を横に振る。

それでも最後に揺さぶりを…と、
「うん、でもさ、まだ完全に心つかめてはいないみたいだよね。」
と、言った言葉は、結局自分に更なるダメージを与えてくることになる。

「なん?」
「知ってた?魔法を解くのには相思相愛の相手とキスすればいいって。
でも坊ちゃん女の子のままって事は…」
「あ~それな。」
フランスの言葉を遮るように、しかし動揺のかけらも見せずにスペインは肩をすくめた。

「それプラス、本人が男に戻りたいって思わなあかんねん。
親分は確かに新大陸の若造みたいな奴もおるからちゃっちゃと男に戻って欲しいんやけどな、アーティがあのままがええって言うんや。
親分が心配で目ぇ放されへんようになるからって…。」

そんな事せんでも抱え込んで離さへん気満々やねんけど…と嬉しそうに言うスペインに、フランスはがっくりと肩を落としてしゃがみこんだ。

愛を与えたくて仕方ない重すぎる愛情を持った男スペインと、愛が欲しくて堪らない重すぎる愛情を持ったイギリス…。
うん…ローマ爺はたぶん適当に選んでいるようで実は適当に選んでいたわけではなかったんだよね…と、それでもそのきっかけを作ったローマ帝国を少し恨みたい気分になった。

それこそあんなランプのせいでこんな騒動が起こってこんな結果になったわけだし…だいたい愛されたい=女にってあのジジイ自分論理すぎじゃないか?と、思ったところでハッとした。

「ねえ、スペイン、」
「なん?」
「坊ちゃんてさ、今女の子になっちゃってるわけじゃない?それってさ、国の?」
「…意味わからんねんけど?」
「いや、人間の女の子みたいに子ども出来たりしないのかな~って」
「…自分アホちゃう?」
「……?」
「俺らが人間の女の子と寝たかて子どもなんてできひんやん。」
「あ~…うん、そうですよね…。国が相手な時点で出来ないか…。」
「そもそも魔法が100年継続いうことは、国なんちゃう?そうやないと死んでまうやん」
「…うん……そうですよね。そうでした。お兄さん、色々ショックのあまり現実逃避しちゃったよ……で?お前ちゃんと避妊してる?」
「してへんけど?」
「出来ちゃったら…とか考えなかったわけね…」
「考えてへんかったけど、出来たら出来たでええんちゃう?
アーティーに似た子ならめっちゃかわええし。」
「うん…そしたらお兄さんに頂戴?」
「いやや~。」
「いいじゃん。今坊ちゃんがこうして無事なのはあの時期お兄さんが保護してたからよ?」
「それはそれ、これはこれや。」
「あ、そこは認めるわけね?」
「…まあ、不本意やけどな。」
「なんで二人して同じ事言うかな~。
ま、いいや。でもさ、アメリカの坊やとかに嫁にやるくらいなら、家も近いしお兄さんの方が良くない?」
「…比べる相手が間違っとるやん。まあ…大きゅうなったら候補にくらいはいれといたる。」
「候補かぁ…うん、第一候補でよろしくっ!」
「ということで、スコットなんとかするの宜しゅうな。」
「なにそれ~?!」

フランスが叫んだあたりで、二人の尻にいつのまにいたのか、イギリスの蹴りが飛ぶ。

「…たたっ。アーティーひどいわ~。」
と、やはり男の頃に比べると可愛い威力のそれに腰をさすりながら苦笑するスペインに

「遅いっ!すぐ食べたいって言っただろっ!!」
と、腰に両手を当ててぷく~っと膨れて見上げてくるのが可愛い。

「ああ、堪忍な~。こんな髭相手にしとる場合じゃなかったなぁ。
親分が悪かったわ。」
と、とたんにデレ~っと頬を緩ませるスペインに、イギリスはぷいっと
「そんなにフランスとしゃべってんのが好きなら、フランスといればいいだろっ!」
と、反転する。

「アーティー、堪忍!ごめんな~!!
あんな髭どうでもええねんけど、スコット説得させとくように言うとったんよ。
揉めたままじゃアーティーも嫌やろ思うて。
ほら、とびきりのチュロス作ってきたから一緒に食お?」

後ろから小さな身体をぎゅむぎゅむ抱きしめてそう言うと、スペインはクルっと顔だけフランスを振り返り、
「というわけやから、カルロスに陸に寄る用言うて降りて、あとの事よろしゅうな」
と、片手でトレイを持ってイギリスを抱きしめたまま、部屋へと戻っていく。

ぷ~ちゃんじゃあるまいし、曲がりなりにも愛の国のはずのお兄さんが一人楽しすぎるなんてね…

小さくため息をつきながら、フランスはスペインの部下を探しに操縦室へと向かったのだった。



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