とりあえず2F組への報告をすませると、藤は松井に指示して食料を調べさせる。
幸い…食料の方は薫製やパン、チーズなど豊富にあり、松井にそれを各部屋の冷蔵庫へと移させた。
その上で藤が舞の部屋に戻ると、コウはバルコニーにいた。
「碓井君、全部言われた通りにしたよ。食料は各部屋の冷蔵庫で3F組は川本の部屋に集合。2F組にも舞の部屋で木戸が死んでた事は伝えた。」
自分も部屋の物に触れない様に気をつけて室内に入ると、藤はコウに声をかけた。
「ありがとうございます。助かりました。」
コウはその声に振り返った。
「いやいや、それはこっちの台詞だよ。君がいなくてあの馬鹿共かかえてこの事態が起きたらと思うと、私の方がゾッとする。」
藤は苦笑しつつコウに並ぶ。
「犯人は…舞…なのかな?」
豪雨の降りしきる外に目をやりながら、藤はつぶやいた。
それにコウは即答える。
「いえ、あり得ないでしょう。自室にひと呼びつけてその場で殺してそのまま死体放置で一晩死体と寝るなんて馬鹿まずいません。というか…普通嫌でしょう?死体と一緒の部屋に寝るのって」
「あ、それもそうだよね…」
藤は苦笑。
そしてすぐ笑みを止める。
「でもさ、そうすると密室じゃない?舞が起きるまでは鍵かかってたわけだし…バルコニーから逃げたにしてもここ3Fだしね。地面からだいたい6m?近くに飛び移れるような物もない。
バルコニーの手すりにロープとか結んで降りるにしても降りた後にはずせないから結んだままのロープが残ってないとおかしいし…梯子なんかここにはないし万が一外から持ち込んだにしてもそれならぬかるんだ地面になんらかの後がついてないとだしね。」
「二宮さんは…ここでは施錠する習慣ないみたいですね?」
「ああ、子供の頃からきてるからねぇ。子供の時って逆に鍵かけた状態で室内で何かあったら危ないから鍵かけちゃだめとか言われてたし。その頃の習慣かな。いまでもどうせかけないから舞が来た時はこの部屋の鍵はマスターと一緒にしてる。…って事で…もしかして私疑われてたり?」
「いえ…全員容疑者と言えば容疑者と思うべきですが…。すごくぶっちゃけると藤さんが犯人というのはありえないと思ってます。あなたが犯人ならこんなトリック使う必要ないし。」
何か考え込んでいるコウに藤はちょっと興味深げな視線を送る。
「トリック?」
「ええ。全然密室じゃないというか…今回の事で1Fのいたずらについてすごく納得できたんですが…犯人はわかっても動機がわかりません。」
「ちょ、犯人わかってるわけ?君っ!」
コウの言葉に驚く藤。
それにコウはあっさりうなづく。
「たぶん…犯人は犯行を隠すつもりも自分が逃げおおすつもりもないので。問題は…」
「問題は?」
「誰がジュリエットなのか、ということです…」
「はあ??」
突拍子もないコウの言葉にぽか~んとする藤。
「たぶん…それがわかれば犯人の目的もわかる気がするんですが…。」
「ジュリエット…ねえ…」
藤は首をひねった。
「ジュリエットと言って今思い浮かぶのはこのジュリエット部屋の主の舞と優波ちゃんくらい?」
藤の言葉にコウが嫌~な顔をした。
「不吉な事…言わないで下さい。今携帯持ってます?藤さん」
「ん?持ってるよ?何?」
藤は言って携帯をコウに手渡す。
「お借りしていいですか?」
「どうぞ?」
藤が答えるとコウは携帯をかける。
「もしもし。俺。なんかちょっと不安になってきたんだが…身の回り変わった事とかないよな?」
電話の向こうからは、最後に会ってから2日しかたっていないのに随分会ってない気がする最愛の彼女の声。
『いきなり何ですか?こちらは何にもないですよぉ』
と可愛らしい声で言って笑う。
「ん、ならいい。」
と、とりあえずホッとしたとたん、
「あ~!優波ちゃん?!かわってっ!!」
と、藤がコウから携帯を取り上げた。
「もしもし?久しぶりだね~、覚えてるかな?覚えててくれたんだ~!!いや、今実はうちの別荘に来ててね
碓井君。たまたま友人の弟君の友人で…。うん。今度高等部に遊びに行くよ。久しぶりに顔みたいし。
うん、話せてすごく嬉しかったよ、うん、じゃ、かわるね」
藤はまたコウに電話を戻す。
「ん、というわけなんだ。で、ちょっとしたいたずらで、誰がジュリエットを殺したんだ?ってメッセージカードと共にトマトジュースぶちまけた奴がいて…そんなとこまで波及するわけないんだけどむちゃくちゃ不安になったわけで…。」
『いくらなんでも…コウさん達の方のいたずらがこっちまでは来ませんよぉ。ましてや…お祖父様の家はうちと違って警護すごいですもん。怪しい人なんて絶対に入り込めません』
電話の向こうで苦笑する声。
「ああ、そうだよな…わかってる…そうなんだけどな…クルクル回るんだよ、悪い想像がっ。」
『第一…私がジュリエット演じたのってもう2年も前ですよぉ?
それでそんな殺されるなんて話になったらうちの学校みたいに毎年ロミオとジュリエットやってる学校なんて大変な事になっちゃいます。まあ…5年前にはジュリエットの変死事件あったみたいですけど…それも一人で学校入るの目撃されてるので他殺ではないですし…』
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!なんだそれは?!」
5年前のジュリエットの変死?何かひっかかる。
『えと…私当時まだ小等部でしたし藤さんいらっしゃるなら同じ学年のはずですから私より詳しいと思います』
もしかして…それか!
「サンキュー、姫っ!すごく助かった。」
コウは電話を切ると藤を振り返った。
「藤さん、聞きたい事があるんですが…もしかしたら嫌な事思い出させるかもしれません」
少し躊躇してそれでも切り出すコウに、藤は苦笑した。
「ん~まあ2年ぶりにお姫様と話させてもらったからね、多少の事は許してあげよう。なに?」
そんな藤にちょっとホッとしてコウは続ける。
「行きの車の中で5年前…藤さん達が中3の時に事故があってロミオとジュリエットが一時上演されなくなったっておっしゃってましたが…その事故ってジュリエット役の生徒が変死したって事で、その生徒って同じく行きの車で話してらしたいなくなった友人…ですか?」
「あ~…そのこと…か…」
少し俯き加減に苦笑する藤に、コウは
「すみません…」
と頭をさげる。
「いや、いいよ。その通り。私達は元々幼稚舎から4人ずっと一緒でね…彼女、桜って言うんだけど中3の時にね、毎年恒例のロミオとジュリエットのジュリエットに選ばれて…それを演じるはずだった流星祭を迎える前…9月の台風の日に屋上から転落して亡くなってる。
台風の強風で飛ばされて足を滑らせたのか自分で飛び降りたのかはわからないけど…でも一人で屋上に上がって行くのを何人もに目撃されてるから少なくとも他殺ではないよ。」
「…自殺…だったとしたら原因に心当たりは?」
「…変わった様子があったら一人でフラフラさせてたと思う?」
少し声にいらつきの見えて来た藤にコウは
「…ですね…失言です。すみません」
と、うつむいた。
それにまた藤が苦笑して首を横に振る。
「ごめん、八つ当たった。ホントのとこはわかんないんだよね。
私さ、自分で言うのもなんだけど出来るお子様だったわけよ。まあ今思えば井の中の蛙ってとこだけどね。
頭も良ければ運動神経も良くて、おまけに家金持ちだしさ。
でもなんつ~か…周りかしづいてくれちゃうから今にして思えば偉そうで怖そうな奴だったんだろうね、友達いなくてさ。みんなに遠巻きにされちゃうわけ。
ところがさ、年中の時に同じクラスになった桜はさ、これがまあ人懐っこいっつ~か…他が引く様なきっつい事言っても”ふぅちゃん、ふぅちゃん”って追いかけてくるんだわ。別に人間嫌いなわけでも友達欲しくないわけでもなかったからこれが嬉しくてさ、それからは私の方が桜に夢中。
で、舞は舞であの性格だから女ばかりの中だと浮きまくりなわけね。やっぱり当時友達いないところに桜が連れて来て…美佳はあの内気さと鈍くささで同じく友達が~ってとこに桜がってな感じでね、なんとなくいつも4人一緒だった。でもそんな感じなんで4人一緒っていっても桜だけは特別だったわけ、少なくとも私にはね。
いつだって気にかけてたし側にいたし…だから…桜が自殺なんて決意しちゃうほどの事があったのに自分は何も言ってもらえなかったんだって思いたくないし、桜が死ぬほど何か悩んでたのに自分が全然気付かなかったって思いたくないんだよね…たぶん。
だってさ、死ぬ前日一緒に帰っててさ、夜普通に翌々日に提出する宿題の話とかしてて…翌朝に亡くなってるわけだからさ…最後に話した時には何かすでにあって死にそうに傷ついてたのに気付かなかったって、ずっと一緒にいた相手なのにさ、ありえなくない?」
そこまで言うと、藤は黙ってうつむいた。
「なんか…身につまされすぎて泣けそうです…」
コウも同じくうつむく。
「あ…やっぱり同じタイプか…」
「…ですね…ていうか今の藤さんの言葉で何故自分が友人作れなかったのか今更わかった気がしました…」
二人でズ~ンと暗くなる。
「藤さん…」
「…ん?」
「他の二人には?」
「えっと…思い入れってやつ?」
「ええ。」
「そうだねぇ…」
藤は考え込んだ。
「舞には…実はあんまり。桜いなかったら絶対に近づいてなさそうでしょ?お互いに。」
「そんな感じはしますね…」
「うん、あれは完全になんとなく惰性な腐れ縁。
美佳は…半分使命感っつ~かな…。
放っておいたら孤立するだけじゃなくていじめられるタイプだったし…。
桜にも生前”ふぅちゃんは強いし何でもできるからみぃちゃん助けてあげてね”ってよく言われてたから。
桜死んであれくらいしか遺されたもんなかったからねぇ…。」
そこまで言って藤はポリポリと頭を掻いた。
「マジ、なんで昨日あったばかりの碓井君にこんな話してんだろうね、私。」
「姫つながり…だから。」
「あ~そうかもね。桜間にいれたら舞とでも普通に友人づきあいしてたくらいだしね。」
「あとは…同類だから?」
「ん、それもある。」
「たぶん…藤さんは結構遥さんと気が合ってる。裏表あっても基本的に友情にはあついタイプだから。」
「よく知ってるじゃん」
「ユートもそうなので」
「なるる」
「…というわけで…大丈夫ですね?」
コウが少し身を起こした。
「真相知ると二人との縁が切れるってことだね…君の考えだと」
藤も身を起こす。
「わかってる範囲で説明します。でもたぶん俺だと内情知らなさすぎて結論まで辿り着かない。だからそこから藤さんの情報を加味して考えて下さい。」
「了解っ」
「一気に行きます」
コウは宣言して小さく息を吐いた。
0 件のコメント :
コメントを投稿