舞達はすごい勢いでもめているので、いったん部屋に戻ろうと2Fへの階段を上がるが、そこで遥が一言
「ね、これから女3人で露天入らない?」
「お~、いいねぇ」
とそれに藤が答えた時点でそれは決定事項となった。
(この女…恩を仇で返すのかよ…)
がっくり肩を落とすユート。
「やあねぇ、そんな露骨にがっかりしないでもお風呂入ったらちゃんとアオイちゃんは返すわよっ」
その弟の様子に遥はケラケラと笑った。
真っ赤になるアオイとユート。
そして女3人それぞれ着替えを持って露天風呂に集合。
ユートは寂しく一人内風呂へ。
「すっごい雨ねぇ…これホントやむのかしら?」
一応露天と言っても雨避け程度の屋根はついている。
女3人風呂につかりながら、おしゃべりに興じていた。
「まあ…この人数でも2週間分くらいはなんとかなる食材はあるから。退屈なだけでさ。」
藤は言って大きく伸びをする。
「中学くらいまでは長期滞在も楽しかったんだけどなぁ…よく4人で遊びにきてさ…」
「藤と美佳と舞と…あと一人?」
「うん、中3で死んじゃった子がいてね。事故死なんだか自殺なんだかいまだわかんないんだ、これが。
うちの学校ってさ屋上に大きなマリア像があるんよ。でさ、その子そのマリア像が好きでねぇ。
よく見に行ったり抱きついたりしてたんだわ。
で、確か台風の日だったかな。学校休みだったんだけど、何故かそのマリア像見になのか学校行っててさ、屋上から落ちて死んじゃったんよ…。
事務員さんとかシスターとかが彼女が一人で屋上行くのはみかけてて…だから他殺とかではないらしくて、台風の強い風でバランス崩して落ちたのか飛び降りたのかは結局わからず終いだった…。
まあそれ以来屋上のフェンスは思い切り高くなったんだけどね。」
「え~?でもさ、普通休みにわざわざマリア像見に学校ってあり得なくない?覚悟の自殺じゃないの?」
と、遥はまあしごくもっともな意見を述べるが、藤はそれに対して少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「なんつ~かね…常識で計れないような子だったから…。理屈じゃなくて感覚で生きてるっていうのかな。
とにかくフワフワしてて…もっとちゃんと捕まえておいてやれば良かったってしばらく後悔したな…」
藤は言って遠くを見つめる。
「美佳なんかも仲良くてさ、もう桜死んだ時は号泣。あ、その子のことね、桜。
しばらく魂抜けたみたいだったなぁ…。天使みたいな子だったから天使になっちゃったんだ、なんてね、よくボ~っと空眺めて過ごしてたよ。美佳。
でさ、桜死んで3年たって、自分ら高3でロミオとジュリエット復活して、配役決定してジュリエットに会いに行ったらさ、そのジュリエットの子ってさ、顔かたちがっていうんじゃなくて、そのやんごとな~いふわふわした雰囲気が桜にそっくりな子だったりしたわけよ。年もちょうど桜が死んだ中3でさっ」
当時を思い出したのか、少し藤の顔に笑みが戻る。
「あ~、碓井君の彼女ね?」
「そそ。一条優波ちゃん。もう私と美佳は帰り道大騒ぎでさ。それから毎日おっかけ。
まあ…似すぎててなんか人通りが少ない時間に一人にして事故られるのが怖かったって言うのもあったんだけどね。稽古の帰りは必ず二人で送って行ってた。
学祭終わってもさ、美佳はそのまま追いかけたがってたんだけど、上級生二人が囲んじゃったら同学年の友達が近寄って来なくなって可哀想じゃん?んで、半ば無理矢理引きはがしたわけ。
でもまあ…あんま意味無いっていうか…あのタイプの子って周りが抱え込みたくなるぽいね。
碓井君とかもそうっぽいし。」
藤の言葉にアオイはちょっと悩んで、それから顔を上げた。
「えと…でもフロウちゃんは全然それが苦じゃないっぽいです。
というか…彼がどういおうと飽くまで我が道行っちゃうから…ふわふわと楽しそうに遊ぶフロウちゃんの後を彼の方が一生懸命ついて行って護衛してる…みたいな感じですね」
「ああ、そうなんだ。いいな、そういうの楽しそうだな。」
藤は言ってアオイに笑顔を向ける。
「今度さ、彼女に会ったら藤が会いたいって言ってたって伝えておいてっ。うちの学校短大は高等部までの敷地内にあるんだけど4大だけ遠いからさ、ぜんっぜん会える機会がなくて。」
「はい、伝えておきますっ」
アオイの言葉に礼を言うと、藤は
「んじゃ、そろそろ上がるかっ。悠人君イライラしてるかもだしねっ」
といたずらっぽく笑った。
露天風呂を出ると、アオイはいったん自室に戻る。
(やっぱり…お泊まりという事はそう言う事…だよね…)
自室で一人で悶々とするアオイ。
一応…自分的にはそれなりに可愛いと思う下着を持って来ている。
ということは…まあ自分でもその覚悟があって来ているわけで…。
意を決して着替え、歯を磨き…
(こういう時ってお化粧とかどうするんだろう??)
などと言う事でしばし悩む。
さすがにユートの姉の遥に聞くのは恥ずかしい…が、藤あたりならざっくばらんに教えてくれたかも…と今更のように思った。
というか…そもそもユート自身はどうなんだろう?そういう気…あるんだろうか?そっちも問題だ。
着替えて準備万端になったものの自分からいきなり何でもないのに部屋に行くのも…と思っていると、以心伝心のように内線がなる。
『あ、アオイ。風呂あがってたんだ。こっちこない?』
ユートの言葉に緊張しつつも
「うん、じゃあお邪魔するねっ」
と言ってアオイは内線を切った。
その頃ユートの部屋では…思いっきり緊張しつつもなんとかアオイを部屋に誘って了承されてそこでヘタッてるユートの姿が…。
風呂には入った。歯も磨いた。避妊具もオッケー。そして彼女を部屋に誘って…彼女がくるわけで…
「ユート、私。入ってもいい?」
やがてドアがノックされる。
「どうぞ」
緊張が最高潮に達した。ドアが開く。そして現れる愛しの彼女。
「おじゃましま~す」
ソロリと室内に入ってくるアオイ。その場に硬直。顔がひきつってる。
なんだか様子が…
「きゃああああ~~~っっ!!!!!!」
いきなりの悲鳴に呆然とするユート。
な、なんなんだっ??
と思う間もなくかけつけてきた遥が
「悠人何したのよっっ!!!!」
と投げつけてきたスリッパがクリーンヒット。
同じくかけつけた藤に抱きつくアオイ。
「ちょ、俺まだ何もっ!!」
「言い訳っするなぁ~~!!!!」
と、さらに飛んでくる蹴りは、頭にヒットする直前にかろうじて自分をかばってくれるコウの腕で止められる。
「先に話を。」
というコウの言葉でようやく我に返った遥。
そこでようやく自分がパジャマ姿だった事に気付いたらしい。
慌てる遥にコウは自分のカーディガンを提供した。
「あ、ありがとっ、ごめんね、碓井君。」
真っ赤になる遥に、いえ、と、返した後、コウは今度はアオイを振り返った。
「で?今の悲鳴はなんなんだ?アオイ」
その声に藤に抱きついていたアオイも平静さを取り戻して、それでも恐る恐る部屋の奥の窓を指差す。
そこでコウも窓を振り返るが、変わった様子はない気がする。
「窓が…なんだって?」
「ゆ…幽霊がっ…」
「幽霊?」
コウは窓に駆け寄って外を見るが変わった様子はない。
念のためと窓を開けて上下も確認するがこれと言って何もない気がする。
「何も…ないぞ?」
「嘘っ!さっき窓の外に浮いてたんだもん、人みたいなのがっ」
その言葉にコウは再度窓の外に目をやる。
幽霊というのはないにしても、泥棒という線もある。
…が、近くに飛び移れるような木もなければ、雨で濡れた土には、特に足跡がついている様子もない。
「やっぱり何もないんだが…」
コウの言葉に恐る恐る窓際によるアオイ。
自身の目で確認してようやく納得したらしい。
「まあ…疲れてんのかもね」
と藤が、
「…色々あったしな、ゆっくり休みな」
と別所が
「あんまり強引に迫らないのよ、悠人」
と遥が
「まあまた何かみつかったら今度は内線で呼べ」
と、コウがそれぞれ部屋に帰って行く。
そして残される二人。
「…ごめんね、ユート。ホントに見えた気がしたんだけど…スリッパ…痛かった?」
本当に申し訳なさそうにため息をつくアオイ。
「いや、平気。いつものことだし、姉貴が暴力に訴えるのも。
アオイもちょっと疲れてるのかもね。木戸の事で緊張の連続だったし…。
ごめんね、ゴタゴタして。」
今…一番きまずいのはアオイだろうし、彼女が滅入りやすいのはユートもよく知ってるため、落ち込まれる前にフォローを入れておく。
備え付けのポットでティーバッグの紅茶をいれて、アオイに渡し、自分はベッドに腰を降ろすとアオイの気持ちをほぐさせようと
「露天でさ、女3人どんな話してたの?姉貴変な事とかいわなかった?」
と、軽い感じで話題をふった。
「あ~それなんだけどねっ」
アオイはあっさりのせられて、藤の話とかを話し始める。
「戻ったらフロウちゃんに電話ででも言ってあげようと思って♪」
なんとか元気になってきたアオイだが、まあ今日は止めておいた方がいいかもしれない。
明日もあることだし、どうせなら明日は二人で露天からでもいいなぁ…などと思いつつ、二人の夜は結局雑談でふけていった。
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