屋内駐車場に車をいれると、荷物を運び出しながら藤は苦笑した。
外はすごい豪雨だ。
「藤様、いらっしゃいませ。」
その藤に深々とお辞儀をする初老の男性。
当たり前に藤の手から荷物を取ろうとするのを藤は制して、チラリと後ろを伺った。
「私はいいから、女性のお客様の荷物を頼む。」
「…お預かり致します。」
「別荘の管理人の松井だよ。料理も掃除も身の回りの事は全部やってくれるからなんでも言ってね。」
うながされるまま荷物を預けるアオイと遥ににっこりと言う藤。
「ダイニングは1F。食事はそこで。ダイニングの奥のキッチンからはワイン蔵に行ける。鍵は開けておくから、飲みたきゃ勝手に取っていいよ。…といっても高校生3人組以外ね。君らは部屋の冷蔵庫にジュース各種いれてあるし、ポットとお茶各種のティーバッグも備え付けておいたから。ジュースの類いは足りなきゃキッチンのでかい冷蔵庫から勝手に取って。
アオイちゃんと悠人君、遥、碓井君、別所の私室は2Fね。
私も2Fに自室あるから、何かあったら内線で。
んで、舞達は3F。階はねぇ…悪いね、舞達は古い知り合いだからここも何回か来てて、舞が3Fのジュリエット部屋がお気に入りだからさ…。そのかわり2Fには鍵付き露天風呂あるから、良かったら入って」
自分の荷物もカートに放り投げて淡々と説明する藤にアオイが
「ジュリエット部屋?」
と首を傾げた。
それに藤は苦笑しつつうなづく。
「そそ。3Fに1室だけ白いバルコニー付きの部屋があるんよ。他の部屋は普通の窓なんだけどね。
部屋もちょっとだけ広いかな。まあほら、舞は浸るの好きだからさ、よくバルコニーに出て月観ながら浸ってたし、まあなんというか…私らの学校では流星祭のあれもあったから、それにちなんで冗談でね、ジュリエット気分かよって事でつけたわけ。」
藤の話にユートと別所は爆笑、遥とコウは苦笑した。
そのまま落ち着いたベージュの絨毯が敷き詰められた廊下を通って階段で2Fへ。
部屋に落ち着くとユートは荷解きをする。
部屋自体は10畳くらいでクローゼットとベッド、応接セットがある。
緊張する…。
もう何で緊張してるのか、自分でもわからないわけだが…。
旅行のオッケーはもらったが…そもそもアオイがそれ以上の事まで考えているかが謎である。
”していい?”って聞くのも間抜けな気がするし、どう進めればいいのだろうか…。
付き合い始めて間もない自分達と違って、もうつき合って4ヶ月になるコウにちょっと聞いてみようかなどという考えもふと頭をよぎったが、さすがに…剣道の試合だけじゃなくて未経験のチェスまでやる事になって今頃猛勉強中の相手にそれを聞けるほど無神経にもなりきれない。
というか、今そんな事で悩んでいていい時期でもないんじゃないだろうか…。
ため息を繰り返してると、夕食を告げる内線がなる。
それにまたため息で答えると、ユートはアオイの部屋によってダイニングへと降りて行った。
(このメンバーで食べんのかよ、ホント…)
ユートがアオイと共にダイニングに入ると、もうみんな席についている。
一つの大きなテーブルにずらりと並ぶ参加者達。
『めちゃくちゃ消化に悪そうな夕食だよね…』
アオイも同じ事を思ったのだろう、コソっとユートに耳打ちする。
「ねえ、一部部外者がいたりするのかしら?高校生?」
舞がニコリとコウに…ついで、ユート、アオイに目を向ける。
「ああ、遥の弟君と…その彼女さんと…親友君かな?親友君は今回酔狂で参戦してくれるらしいよ?」
「ふ~ん…」
ジ~っとコウを凝視する舞。
視線に気付いたコウが逆に視線を向けると、舞はニッコリと微笑む。
「今回はなんだか周りが盛り上がっちゃって…巻き込まれちゃったのかしら。ごめんなさいねっ」
(こっちも…化けてるし…)
とため息をつくユート。
「お名前伺っていいかしら?私は二宮舞です♪聖星女子大の2年生です」
何も知らなかったら確かに可愛い部類には入るかも知れないが…正体知ってるとそのにこやかさが怖い、と、ユートは思った。
「碓井頼光、海陽高校2年です。」
コウの言葉に舞がちょっと目を見開く。
「頼光君て言うんですか。私の事は気軽に舞って呼んで下さいね♪これからもよろしく~。すごいんですねっ。今回剣道でいらしたんですよね?秀才な上に武芸できるなんて素敵ですねぇ♪」
にこやかな舞の賞讃にコウは冷ややかな目をむけた。
「大変失礼ですが…親しくする気のない相手に気軽に下の名前を呼ばれるのは好きではないので。さらに付け加えるなら親しくする気のない相手を気軽に下の名前で呼ぶ習慣もありませんので二宮さんと呼ばせて頂きます」
一瞬シン…とする室内。
次の瞬間、ぷ~っと吹き出す別所と藤。
「…ひ…ひどい…」
と涙ぐむ舞。
「お前舞になんてことをっ!」
と、かけよってきてコウの肩に手をかけた舞の側の男子大学生を、コウは立ち上がって軽くその場で投げ飛ばした。
「一応…剣道だけじゃなくて空手と柔道も有段者なので…。敵対行動にはそれなりの対応をさせて頂きます」
そのまま軽くジャケットの襟を正すと、コウは静かに言って、そのまま席につく。
『かな~り怒ってるよね?コウ』
またアオイがコソコソっとつぶやくのに、うんうんとうなづくユート。
「かっけ~な!天才高校生っ!」
シン…とする舞の側とは対照的に明るく言う別所。
「まあ…やめとけ、舞。媚び売るだけ無駄だよっ。私のジュリエットの現在の彼氏だから」
「え?」
「覚えてるでしょ?私がロミオやった時のジュリエット。」
「あ…あの…優波ちゃん?すっごく可愛い子だったよね。藤すご~く大事に大事に護衛してた…」
藤の言葉に応えたのは美佳だ。
「うんうん。あの可愛いお姫様の彼氏なんだよ、碓井君。」
「そうなんだ~」
にこやかな二人と対照的に、舞の表情がちょっと強ばった。
「まさか…碓井君は藤が呼んで来た…とかじゃないわよね?」
引きつった笑顔で言う舞に、藤は苦笑した。
「いやいや、私は卒業以来彼女と会ってないからね。本当に偶然だって。」
「ホントに?」
「本当だってっ。たまたま遥の弟の悠人君の親友がお姫様の彼氏だっただけっ。私も行きの車の中で知ってびっくりしたんだ」
「…まあ…そういう事にしておきましょう…」
まだ疑わしそうな目で、それでも舞は引き下がった。
「それで?食事の後にチェスの試合の予定だったけど…そちらはどうするのかしら?見たところチェス要員らしき方がいるようには見えないんですけど…。弟君かその彼女さんなのかしら?」
まだ少し不機嫌な表情で、舞はユートとアオイの顔を交互に見る。
「いえ…俺じゃなくて碓井が。ま、いきなり裏切り者が出た時点で別の人間呼んでも良かったんですけど、この程度の相手なら他の人間呼ぶまでもないかって事で。車の中で藤さんからチェスのルール教わって碓井がやることにしました。」
普段は言いなりになってるだけの弟の思わぬ強気発言に当の遥も驚いているが、言われた舞も一瞬唖然とした。
「まさか…今日ルール知った程度の人間で木戸君に勝てるつもりでいるの?彼…聞いてるかもしれないけど、一応教授も含めた城上大のチェスチャンピオンなんだけど?」
苦笑する舞に、ユートはクスリと笑みを漏らす。
「まあ…色気だけでしか人材かき集められないわけじゃないので、うちは。その程度のハンデあっての勝負でも余裕ですよ。」
「お前、舞に何失礼な事言ってんだよっ!ふざけんなっ!!」
立ち上がりかける舞側の男に、ユートはシレっと
「え?俺は二宮さんの名前なんてひとっことも出してませんけど?お兄さん達は自分で二宮さんに色気だけでかき集められたって思ってたんですか~。そうですか。」
と返して、相手を黙らせる。
『あんたって…実は黒いのね…』
『姉貴には負けるけど…』
と、これは姉弟間でこっそり交わされた会話。
そして
『コウ、俺大見栄切っちゃったよ…これで負けたらマジ笑えないからっホント頼むっ!』
『お前なぁ…弱気になるくらいなら最初から言うなよ…』
と、これは同じくコッソリと交わされた親友同士の会話。
「ま、まあ実際やってみればいいさ。木戸は手強いぜ」
我に返って言う男に、コウは
「ん~、まず負けませんが、一応…後戻りできないようにしておきます」
と言って、ちょっと失礼、と、携帯を取り出した。
そしてどこかへかける。
「もしもし、俺。うん、今例の場所。でな、実はチェス勝負もやる事になって…例のやつ頼む。…さんきゅ」
謎の電話を終えて自分を注目する面々にコウはきっぱり。
「これでもう死んでも負けられなくなりました」
と、謎の言葉。
「どこにかけたの?」
という遥の問いにも
「今は秘密です。勝負が終わったら教えます」
と言いきる。
「じゃ、まあ時間もあれだし食事にしよう」
と、そこで藤が呼び鈴を鳴らした。
そして運ばれる食事。
全員に給仕し終わると、使用人、松井は何かを藤に耳打ちした。
少し顔色を変える藤。
そして全部話を聞き終えると、あらためて松井を下がらせて、みんなを振り返った。
「えっと食事前にちょっと聞いて欲しい。実は今連絡がはいったんだが、ここに来るまでの道が土砂崩れにあって通れなくなってるらしい。雨がやめばすぐ修復もさせるし、たぶん明後日帰る頃までには通れるようになると思うから無問題なんだけど、今日、明日はちょっと下に降りれないからそのつもりでね。
まあ…食料や雑貨とか必要な物はここに充分あるから不自由はないけど、頭来てここにいたくないから帰る~とかはできないからね」
藤は最後は少し冗談めかして言う。
それに舞をのぞく全員が苦笑した。
そして食事。
「とりあえず他はサークル内で顔見知りだけど悠人君達は知らないだろうから紹介しておこうか。」
と、その合間に藤が言った。
「端から…テニス担当の山岸、で、その隣の舞はわかるね?
その隣のさっき碓井君に投げ飛ばされたのが剣道担当川本、で、その隣がチェス担当木戸、で、さらに隣が矢木美佳、これは私達の友人ね。
で、遥の側は別所と遥はいいとして、その隣が佐々木葵ちゃん。遥の弟の悠人君の彼女さんだから、女子高生可愛いのはわかるが、手出したら殺すよ。
で、遥の弟の悠人君にその親友の碓井君。こっちはテニスが別所でチェスと剣道は碓井君。いじょっ」
淡々と説明をすると、藤はまた食事を続ける。
「あの…ね、違ってたらごめんね。さっき正面だからちょっと聞こえちゃったんだけど…碓井君が電話してたのって優波ちゃん?」
シン…とした重い空気に耐えかねたのか、美佳がオズオズと口を開いた。
どちらも気が強そうな舞と藤に囲まれて、唯一気が弱そうな普通の女の子っぽい美佳に、さすがにコウもきつい言葉をかけにくかったらしい。
「ええ。そうです」
と普通に答える。
「ああ、やっぱり。なんだか懐かしい声だった気がしたから」
当たった事が嬉しかったのか答えが返って来た事が嬉しかったのか、美佳は胸の前で両手を重ねて微笑んだ。
本当に…この二人と一緒にいるのが不思議な気がする人材である。
「丁度今の碓井君達みたいに高校生だったのね、私達。高3の1学期の終わり頃にね、藤がロミオに選ばれた時ね、私もジュリエットの乳母の役だったから一緒に顔合わせしたのよ。ほんわかした雰囲気の可愛い子だったわ優波ちゃん。容姿だけじゃなくて声も仕草も雰囲気も性格もまるで天使みたいに可愛かったの。本当に天使になっちゃった友達にすごく似た雰囲気で…」
「美佳っ!うるさいっ!」
うっとりと視線を宙にさまよわせるように語る美佳の言葉を、普段はあくまで女の子らしい態度を崩さない舞がきつい口調でさえぎった。
「舞?」
不思議そうな目を向ける山岸と川本に気付いて舞はあわてて
「ご、ごめんなさい。お食事中にするお話じゃない気がしたの…。」
と、ごまかす。
不思議そうな顔をする二人。
一方美佳は怒鳴りつけられてショボンとうなだれた。
「矢木さん、」
そんな美佳に珍しくコウの方から話しかける。
「は、はいっ」
声をかけられた事に驚いたらしい。美佳はびっくりしたように顔をあげた。
「あとで…チェスの試合が終わった後ででもお話を聞かせて下さい。
俺は中学時代とかの彼女の事は全く知らないので」
少し笑みを浮かべるコウに、美佳は嬉しそうに
「はいっ!ぜひっ!」
とうなづいた。
そして食後…全員場所をリビングへ移す。
「とりあえず…手を教えたりとかできないように、全員それぞれ自分の側の選手の右側面2mに待機ね。
藤は碓井君にチェス教えた関係もあるから遥の側で」
チェス板を挟んで対面のソファにコウと木戸が座ると、舞が仕切る。
それに藤は苦笑して
「はいはい。まあ天才に私が教えられるような手はもうないけどね」
と、それでもその指示に従った。
もちろんユートやアオイもそれに従う。
「んで?チェスクロックはどっちに置く?」
木戸が舞にお伺いを立てると、コウは即
「そちらの利き手側で結構。俺は両利きなので」
と、答えた。
「んじゃお言葉に甘えて…俺から向かって右側に」
と、木戸が二つの時計を並べて勝負が始まった。
双方最初の十数手は淡々と打って行く。
15手ほど打った所でそれまで淡々と打っていたコウの手が止まった。
『なんか…苦戦してるの?』
その様子にアオイがコソコソとユートに尋ねるが、ユートとてわかるはずもない。
『あ~多分だけどね、ある程度自分の考えてる定石に配置し終わって、相手がどう攻めてくるかとか、どう攻めて来たらどう返すかとかを予測しつつ考えてるんだと思うよ。別に苦戦してるとかじゃなくて、むしろすごく冷静に打ってる』
そのアオイの質問にはそう藤が答えてきた。
そうこうしているうちにコウの手が動く。
そこからは木戸も若干ペースが落ちて来たが、その次の手からはコウの方はまた淡々と打って行く。
『なんか…相手の方が顔色悪くなってきてない?』
またしばらくしてアオイが話しかけてくる。
『ああ、たぶん碓井君が迷いなく淡々と打つんで木戸が自分のペース保てなくなって焦ってるっぽいね』
それにもしごく冷静に藤が答えた。
そしてさらにしばらくして、木戸がナイトを動かした瞬間
「これで3手先でそちらがどう打ってもチェックメイトですね。最後までやってもいいけどどうします?」
と板を眺めていたコウが静かに言って顔をあげた。
「…えっ?!!」
その言葉に真っ青になって板を凝視する木戸。
「説明…必要ならしますが?」
コウは組んだ膝の上に肘をついて木戸に目をやる。
無言で青くなる木戸。
コウはそれを見て木戸が動かせる限りのパターンを淡々と説明し始めた。
「もう…いい。確かに負けだ…」
掠れた声で言う木戸に
「信念なき勝利はありえません。」
とだけ言うと、コウは立ち上がった。
「おお~~~!!!!」
歓声を上げる別所とユート。
「かっけ~なっ!マジかっけ~よっ、天才高校生!!」
「コウ、サンキュ~!助かったよ、マジでっ!!」
コウをもみくちゃにする二人に、大きく安堵の息を吐く遥とアオイ。
藤はそんな一同をみながらクスクス笑ってる。
「さすがだねぇ、海陽トップ」
「誰につくか何をするか、迷いで心が揺れてる人間に、進むべき道がはっきり見えている人間が負ける事はまずありませんから。遥さんと二宮さんの間でフラフラ揺れてる時点で勝てません、彼は。」
「言うねぇっ」
コウと藤がそんなやりとりをしてると、
「ちょっと待ったっ!」
と、川本が叫んだ。
「さっきチェス覚えたばかりの奴に城上大チャンピオンがあっさり負けるっておかしくないかっ?
なんかしたんだろっ?!」
その言葉に藤が両手の平を上に向けて、軽く肩をすくめた。
「おいおい…みんな舞の指示通りの配置で観戦してたっしょ?第一…それこそ木戸に勝てる様な策授けられるやつこの中にいるわけ?」
「電話だっ!さっきそいつがしてた電話っ!あれに何か仕掛けあるんだろっ?!」
川本のさらなる言葉に今度はコウが大きく息を吐き出した。
「履歴…みればわかりますが…あれは彼女への電話」
と、携帯の通信履歴を出してみせる。
姫…となっている履歴…。
「彼女が…姫…なのか?チェスのプロとかか?」
いぶかしげに言う川本にコウはまた小さく息を吐き出した。
「頭脳ゲームの類いは全然ですよ、彼女は。ただ俺に取っては唯一無二の絶対者なだけです。
さっきの電話は…単に彼女に『勝たなければ針千本』て言ってもらっただけで…」
「……それで負けたら?」
「当然っ飲みますよ?だから絶対に負けられない。」
「飲んだら死なないか?」
「当然死にます。命くらい当然かけてます。俺にとっては彼女が全てで彼女のいう事は絶対だから、彼女に死ねと言われたら死ぬし、彼女に絶対に勝てと言われたら俺は絶対に勝てるんです。ゆえに勝てないと困る勝負事にはその言葉を言ってもらう事にしてます。」
しごく真面目な顔で言いきるコウに、天才となんとかは…という言葉が脳裏をクルクル回る一同。
『碓井君てさ…もしかして…すっごい変わり者?』
思わずつぶやく遥に
『今頃気付いた?』
とユート。
そんな中でただ一人美佳だけがクスクスと笑いをもらした。
「なんかいいね、そういうの。優波ちゃん、すごく大事にしてもらってるんだ、良かった」
本当に自分の事のように嬉しそうに言う美佳にコウも少し笑みを浮かべる。
「じゃ、とりあえず納得してもらえたようなので…先ほどの続きをお願い出来ますか?」
コウの申し出に美佳はにっこりうなづいて、
「じゃ、ダイニングででも話そっか」
とコウをダイニングへ促した。
そしてダイニングへ。
二人が座ると松井が紅茶を入れてくれる。
それをすすりつつ、美佳は話し始めた。
「最初ね、中等部の制服着た優波ちゃん見た時にね、なんだか私タイムスリップしたのかと思っちゃったの。
可愛くて優しくてフワフワしてて天使みたいで…丁度ね、当時の優波ちゃんと同じ年で亡くなった私が大好きだった親友と雰囲気がすごく似てたのね。
私はこんな風に地味で冴えない子なんだけど、そんなすごく可愛い彼女と親友なのが何より自慢だったの。
だから優波ちゃん見た時は本当に嬉しくて…最初はちょっと悲しかった乳母の役をやるのがとっても嬉しくなった。彼女の側にいるとその親友が戻って来たみたいで本当に幸せな気分になれたのよ…」
その後美佳は練習風景やフロウのジュリエット、そして護衛と称して学園祭が終わるまでいつも練習後自宅までフロウを送り届ける藤と一緒に自分もついていった時のことなど、それはそれは楽しそうに語った。
(中学時代の姫かぁ…)
単にユートに対する義理で来たコウだったが、そこで思いがけずフロウの中学時代の話をきけて、すごく得をした気分になって、美佳に礼を言うと部屋に戻った。
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