だってイケメンに限る_2

イケメンは秘かにほくそ笑む


――あー、トーニョ、お邪魔してるよ。

アントーニョが自宅マンションに戻ると、悪友二人が酒盛りをしていた。


都内の某高級マンション。
起業してとんでもない利益が出たその年に、3人揃って隣同士に引っ越した。
それ以来、仕事でもプライベートでもつるむので、互いに互いの部屋の合いカギは持っている。

…が……

「酒盛りならなんで自分の部屋でやらへんねん」
と、ジャケットをソファに放り出しつつ口を尖らせたアントーニョの言う事はおかしくないと思う。

本人がいるならとにかく、今日はデートで不在の旨は伝えておいたはずだ。
何故お前ら家主がいないとわかっている家におんねん…と、それでも口で言うほど気にしてもいなければ気を悪くもしていない証拠に、黙ってアントーニョのワインをグラスに注いで渡すギルベルトの手からそれを受け取ると、アントーニョはフランシスが作ったつまみをテーブルの上の皿からつまみあげて口に放り込んだ。

「今日は別にええけどな、来週は勝手に親分の部屋に入るのも、プランターから勝手に野菜もいで行くのも禁止な。」
そう宣言をした後、モグモグと咀嚼しながら、ワインをあける。

まあある意味、普通なら当たり前の事なのだが、普段はそれを互いに許している程度には3人は気の置けない仲だ。

その言葉にいち早く反応したのは、3人の中で一番生真面目なギルベルトだ。

「わりい…。ルッツがな、今日初デートで…相手の子、料理が得意で手料理作りたいって言ってるらしくて、俺様の部屋貸してやってんだわ。
ここがまずかったら俺様フランの部屋行くけど…」
と、割合と真剣な顔で謝罪をする。

「あ~ギルちゃんそうしたければお兄さんの部屋使ってていいよ。
お兄さん、今日はトーニョのデートについて聞かないとだし?」
と、それとは対照的ににやにやとした表情を浮かべるのはフランシス。

「目的はそれかいな」
と、アントーニョはフランシスには呆れた顔をしてみせ、ギルベルトには
「ああ、別に今日はええねん。家まで送ってわかれてきたところやし。
居たらあかんのは来週な。
部屋に呼ぶことにしてん」
と、もういっぱい注ぐようにと、ワイングラスを差し出した。

「ええ?!!うそっ!!
お前部屋呼んじゃうの?!めっずらしいっ!!」

それに食いついたのはフランシスだ。
フランシスもアントーニョも、どちらも甲乙つけがたいほど恋人をとっかえひっかえして遊びまくっているのだが、双方ともすぐ別れる事もあって、自分のプライベートスペースには相手をいれない。

それが今日が初デートで二度目のデートでとは、驚くのももっともだ。

「ん~、手ごわいねん。あの子…」

言葉とは裏腹に随分と楽しそうに言うアントーニョ。

「へ~、お前が半日使って落とせないってこと?」
と、それにさらに興味をそそられたらしい。
フランシスは酒のグラスをおいて、ソファの隣に座るアントーニョとの距離を詰めて顔を覗き込んだ。

それを少し手で押しのけながら、アントーニョはクスクスと思い出し笑いをする。

「落とすどころか意識すらしてもらえへんねん。
親分、プリンに負けたの初めてやで?」
「プリンにって…どういう状況よ?」
「文字通りや。お茶してプリンが目の前に来たら、もう親分アウトオブ眼中や。
親分の方はあの子がおっきな目ぇキラキラさせて幸せそうにプリン頬張るのずぅっと見とったんやけどな」

そんな二人から少し距離を置いてウィスキーを舐めていたギルベルトは、どうも二人のそんなノリについていけず、ガリガリと頭を掻いた。

「そりゃあ…男だからじゃね?
トーニョ今まで男と付き合った事ねえんだろ?
女と勝手が違って当然だろ」

ギルベルトは互いに自慢しあうように恋人を見せあっていた悪友二人からそれぞれ話を聞いてきたが、フランシスは男の恋人の時もあったが、アントーニョはいつも女だった。

だから単純に経験値の問題だろうと思っていたのだが、フランシスの言葉に茫然とする事になる。

「いや、付き合った事ないだけで、トーニョ男落とした事ならいくらでもあるよ?
お兄さん、ナンパでこいつに負けた事あるもん。
短期戦なら相手が男女どちらだとしても最強のナンパ師よ?」

「えええっ?!!!!」
ギルベルトは口に含んだウィスキーを吹きだしかけて、慌てて飲み込んで盛大にむせた。

ゲホッゲホッと咳込むギルベルトに
「今度アーティ招くんやから、部屋汚さんといてな」
とアントーニョが投げつけて来たタオルで口元を拭くと、ギルベルトは信じられないモノをみるような目でアントーニョを見下ろした。

「マジかよ…付き合いたいわけでもねえのに、男落とすのか?」

ギルベルト的にはそもそもが付きあうイコール結婚を前提に真剣交際が当たり前という考え方なので、遊びで寝るというのは論外なのだが、それ以前の問題だ。
好きでもなくても男と寝れるというのが信じられない。

「あ~普段は男は相手にせえへんよ?抱くなら女の方が柔らかくて気持ちええし。
男相手にするのはたいてい、フランとどっちが先に落とせるかとか、競っとる時やな。」

「まあそう言う事。
でもトーニョが落とせないなんてねぇ。
ね、お兄さんも参戦していい?」

ライバルとしては俄然興味が沸いてきたのか、フランシスが目を輝かせる。

「あかん!」
と、しかしアントーニョはそれを即退けた。

――…どうしても言うんなら…闇夜に外歩けなくなるで?
人懐っこい垂れ目がちの目がすぅっと細くなり、冷たい殺気をはなったところで、フランシスは
「了解。お兄さんはお前のお手並みを観察するだけにしとく」
と、慌てて両手をあげる。

一番明るく人懐っこくあっけらかんとして見えるこの男が、実は一番短気で容赦ない性格をしているのは、悪友である自分達が一番よく知ってる。
逆鱗に触れたら本気で殺されるどころか、楽な死にかたをさせてもらえない…。

殺気で脇に嫌な汗をかき、一気に酔いがさめたフランシスだが、そうしてフランシスが完全に戦意を喪失したのをみてとったアントーニョは、逆に能天気な表情に戻ってにこやかに言い放った。

「ほんま親分が本気だしててもぜんっぜん相手にされへんのやで?
こんな楽しいのはひっさびさや。わくわくするわ。
こうなったら絶対に落としたい…っちゅうか、落としてみせるわ。
そのためには多少の犠牲は払わんとしゃあないやん?
“特別に思うとる”そうアピールするには、自分のテリトリーにいれんのが一番やろ?」

(そんな理由で自宅に招かれるなんて絶対に嫌だ…)
と、ギルベルトはため息をつきつつ、相手に秘かに同情する。

「あととりあえずな、まずあの子につきまとっとる女を追っ払ってやって点数稼がなあかんから、ここ数日は親分忙しいから放っておいたってな」

と、そんな悪友の様子に構わずアントーニョは上機嫌でそう言うと、手帳を出してスケジュールを確認し始めた。


イケメンだけど怖そう…そうよく言われるが、実は俺様が一番優しいんじゃね?と、ギルベルトは本気で思う。

本当に本当に本当に…世間の皆の目は節穴だ。
騙されんな、一番人が良さそうに見えるこいつが一番やべえ…

そんな残念なイケメンの心の声は誰の耳にも届く事無く、表面上は平和にハイテンションに、イケメン3人の深夜の酒盛りは続いて行くのだった。


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