捕獲作戦 - 完了_2

敗北


フランスは動けなかった。
フランスがまだ動くと思い、自分よりはうまく話を進めるだろうと、珍しく空気を読んで黙っていたアメリカがフランスに駆け寄って

「フランスッ!君あんなこと言われてなに黙って見送ってるんだいっ?!
確かにスペインはなんかおかしかったけどっ!!」
と怒りをぶつける。

そんなアメリカにフランスは小さく首を横に振った。

「俺が動けなかったのはそれだけじゃないよ、アメリカ…」
「それ?なにがそれなんだいっ?!」
イライラというアメリカに、フランスは顔色を青くしたまま
「お前…気づかなかったのか?」
と、アメリカに目線を合わせた。

「だから何にだいっ?!はっきり言ってくれないとわからないんだぞっ!
これだから欧州のおっさん達は嫌なんだっ!!」
癇癪を起こすアメリカにフランスは心の底からため息をつく。

もしかしたら…1000年以上もの間その本質を隠し続けていたのかもしれない得体の知れない相手と対峙するのに、共闘するのは考えなしのお子様とはあまりに分が悪い…。

「イギリスが…あのイギリスが無条件にスペインを受け入れてたんだ…」
苦いものを口にするように、フランスはその言葉を舌に乗せた。

「は?わかんないんだぞ?イギリスがおとなしくスペインについていってたってことかい?単にそれだけ疲れてたんだろ?」

アメリカの言葉にフランスは心底絶望した。
共闘どころか下手すればお荷物を抱えて戦うことになるのか…。

「あのねぇ、坊ちゃんの性格はお前も知ってるでしょ?
あいつは自分の弱みを見せるのをすごく危険視する男なの。
だから、調子悪い時はいつもにもまして信用の置けない奴は近づかせないんだよ。
逆に言えばね、調子が悪い今、坊ちゃんが1000年以上一番近くにいた俺よりも、溺愛してたお前よりもスペインを選んだって事はだね、俺らよりスペインに心を許してるってことなの。
わかる?スペインはたった一日で俺達が数百年単位で築いた関係以上のモノを築いちゃったってことなんだよ」

は~っと肩を落とすフランス。自分で説明してても落ち込んでくる。
1000年以上の間、誰よりも側にいた。
そして…虫は徹底的に排除したはずだった。

新大陸の子どもを発見した時も持ち前の勘の良さでいつか強力なライバルになるとわかったからこそ、イギリスから引き離すために自分の側に引き込もうとして失敗。

それでも諦めずに嫌な顔をされながらも足しげく通い、無邪気な親愛が恋情に変化したばかりで、しかしまだ大人の知恵などつかない年齢のアメリカに、一人前の男としてみてもらいたいなら、と、独立を促した。

そう…独立をさせるために自国を傾けかけて、あまつさえ脈々と続く王国という形式さえ革命という形で失わせることになっても支援し続けたのだ。

そこまで捨て身で排除した虫に構っていたら、よもや全く予想だにしなかった奴に掻っ攫われるとは…愛の国のアンテナも落ちたものだ。

「そんなの…認めないんだぞっ!」
ただただ動揺している子どもを見て、フランスは泣きたくなる。

もし相手がこの不遜な子どもなら、取られても取り返すチャンスなど十分あった。

しかし1000年もの間、愛の国である自分に微塵も疑いを抱かせないどころか、何があってもありえないくらいの事を思うくらいに完璧に隠し通した理性と手腕の持ち主では、こちらが付け入る隙など与えないだろう。

完敗だ…と思うものの、そこで諦められるようなら1000年以上も外堀を埋めることに費やしてはいない。

焦らして焦らして渇望しきっている時の方がより優位に進められる…唯一本気の恋愛なだけにそんな欲を出したのが間違いだったのだ。
始めから惜しげなく与えていれば、意外にあっさり手に入ったかもしれなかったのに、もう全てが遅い…。

全ての恋愛において成功者だった愛の国は…唯一一番失敗したくない恋愛で取り返しの付かない失敗をしたこと悟り、途方にくれた。




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