捕獲作戦 - 進行_5

策略


多くの保守的な人間がそうであるように、プライベートに限って言うと、良くも悪くもイギリスは不意打ちに弱いと思う。

だから何か我を通したい時はサプライズを持ってくるといい。
もちろんそれを不快感や警戒心を煽るようなものにしないことは気をつけなければならないし、それには相手の好みや嗜好を熟知した上で、綿密に下調べをしなければならないが…。

イギリスの好みの方は、悔しいが腐れ縁として長く時を共にしているフランスを少しつつけば、いかに自分がイギリスの事を知っているかという自慢と共に勝手に話してくれる。

あとはその情報を元にそうと伝えず日本に知りたい情報について聞いてみたり、自分で調べたり…もちろん机上の理論だけでは間違いもあるので、自分で足を運ぶことも重要だ。

皆に大雑把な性格と思われている…そして敢えてそう思わせているスペインは、実は必要とあれば周到にもなれる性格なのだ。
むしろどうでもいい事はとことん手を抜く主義なので、その分細かいところは細かい。

こうして綿密に計画を立てたおかげで、邪魔者二人に妨害されることもなく、イギリスにも楽しんでもらえたようだ。

もちろん楽しんでもらうだけでなく、当初の目的も達成した。

途中で逃げられないように敢えて裸の風呂の中。
自分の想いを伝えると共に、さりげなく他の深く関わりのあったあたりを落としておく。
イギリス個人に好意を持っているのはあくまで自分だけなのだ…そう思わせる事も重要だ。

そしてさらに重要なのは、そこで即答を求めないこと。
押しすぎると警戒して逃げられる。

伝えるだけ伝えたらあとはさらっと話題を変えて、また楽しませる。
こんなやりとりで、この1日でイギリスはかなり自分に心を開いてきたように思えた。

無防備に笑顔を見せる回数が断然増えたし、拗ねたような表情をするのも馴染んできた証拠だ。

あともうひと押し…。

これから宿に戻れば、邪魔者二人が待ち構えている。
それをクリアするのが1番の難関だ。



「なあ…イギリス。」
夕方になって宿に戻る途中、スペインは車の通りが少なくなった山道でいったん車を止めて、助手席のイギリスを振り返った。

コクンと首をかしげる様子が可愛らしい。
昨日までならこんな状況でこんな無防備な姿を見せることはなかったと思えば、その反応だけでも今日は正解だったのがわかる。

頬に手を伸ばしても全く警戒する様子がないことに、スペインは秘かな喜びを覚えた。

「疲れへんかった?大丈夫か?」
ぷにぷにっと軽く頬を触りながら聞いても拒絶する素振りはない。

ただ少し赤くなって
「お前、おおげさなんだよ。」
と、拗ねたようにうつむく。

その態度が不快感ではなく照れ隠しからくるものであることは、長らく素直でない子分を持っているスペインはよくわかっている。

「やって、心配なんやもん。しゃあないわ。」
と苦笑しつつ、頬を触っていた手を頭に移動させてそのまま撫でた。


「今日はこれから宿戻るんやけど…」
スペインは本題に入ることにする。

今後をクリアするためにこのやりとりは重要だ。
頭の中でシミュレーションしながら、スペインは注意深く言葉を紡いだ。

「ほんまはまた部屋で食いたいねんけど、これ以上こもってるとどこぞのアホが押しかけてきそうやから、今日は広間で皆と食う事になるけどな…しんどくなったら親分に言うんやで?
一応ずっと一緒におるつもりやけど、万が一アホどもに絡まれたり嫌な事言われたりしたら、ほんますぐ親分とこ来るんやで?」
「…ったく…どんだけ過保護なんだよっ。」
「過保護かて放置して自分に具合悪くなられたり傷ついたりされるよりはええわ。
忘れんといてな。誰が自分の事要らんとか邪魔やとか言うても、親分にとっては大事な大事な人間なんやから、要らん人間なんやなんて思わんといてな。」

それがイギリス同様に素直になれない好意からくるものだなどとは教えてやらない。
気恥ずかしいから虐めるなどという今時子どもでもやらないような真似をするほうが悪い。
せいぜい自分の親密度UPのために利用させてもらう。

「…恥ずかしいヤツ…」
と、口では言いながらもイギリスはスペインの言葉を気持ちを否定しない。
確実にスペインに心を許しかけている。

ああ、本当に後少しだ…。

こうして念のためもう一度、イギリスの頭の中に他が彼を傷つける事、自分だけがイギリスを愛していることをさりげなくインプットして、スペインは再び宿へと車を走らせた。


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