一緒に暮らして1年半ほど。
いつもギルベルトは大人で穏やかで優しい。
アーサーは人見知りだが、ギルベルトはそんな感じだし、何より恋人…――自分からそう言うのはおこがましいが、ギルベルトが好きだ、恋人になってくれと言って来て、アーサーがそれに頷いたのでそう言えるのだろう――なので、だいぶ慣れたし、それほど気を使う事もなくなってきた。
だが、そのギルベルトが気を使わない相手、悪友だとしても、ギルベルトが平気だから自分も緊張しないかと言うとそれはない。
しかもそのギルベルトが随分厳しい表情をしているのだ。
緊張しないはずがない。
だからたとえ
「お~ら!や~っと会えたやんな、子猫ちゃん」
「ぼんじゅ~。気軽にね、坊ちゃん」
と、それぞれテレビの向こうで見続けていたのと寸分たがわぬキラキラしくも親しみに満ちた笑みを向けられても、アーサーはギルベルトの後ろに張り付いて
「よろしくお願いします」
と言うのみである。
「あれ?緊張されてる?」
というフランにどう言って良いか悩むアーサー。
ぎゅっとギルの服の裾を掴めば、そんなアーサーの困惑を察して
「あー、変態とペドだから気をつけろって言っておいたからな」
とギルベルトがドヤ顔で笑う。
「ひっど~!おにいさん変態じゃないもんっ!」
「フランが変態言うのはガチやけど、親分はちゃうで~。
ちょっと子どもが好きなだけやん」
「好きなだけじゃなくて、好きすぎるペドでしょ、トーニョはっ。
お前が舐めまわしそうな目で見てるから坊ちゃん緊張して…ひぃっ!!!」
いきなり画面を赤いモノが横切った。
それは避けたフランの後ろにあるセットの壁へめり込んで少し潰れて中身が出ている。
「ちょ…何アレ?!トマトじゃないのっ?!!
おかしいよね?!なんでトマトが壁にめり込むのっ?!!」
「大げさなこと言うて。
壁言うたってコンクリやなくてベニヤやん」
「ベニヤ板でも普通はめりこまないよっ!」
「まあそんなんどうでもええわ」
「どうでもいいのっ?!」
「ええんちゃう?
もう、自分が人聞きの悪い事ばっか言うから、親分が誤解されたらどないすんねん」
「いや…誤解じゃなくて……」
「な~ん?」
笑顔で懐から2個目のトマトを取り出すトーニョにフランがふるふると首を横に振った。
「…なんでも…ないです。うん、お前は可愛い子見ても舐めまわしたりしないしね…」
そう言うと、アントーニョはきょとんとする。
「何言うとるん?ちょっと舐めるくらいええやん。減るもんじゃないし」
「ふざけるな~~!!減るわっ!!!」
と、その2人のやりとりに割って入るギルベルト。
これが今人気のアイドルグループの会話である。
まあ…バラエティが多くこういうやりとりもAKUYOU!の人気のひとつなのだが…
「とにかく…俺様がこっちに座って、アルトはフラン側。
トーニョは大人しくしてろっ。フランは何か余計な手を出しやがったらあとで舞台裏なっ」
と、ギルベルトはカメラから正面にある長椅子のトーニョ側に自分が座り、アーサーをフラン側に座らせる。
「なんや、ギルちゃん席変わってぇな。自分がフラン側でええやん」
「黙れ、危険人物っ」
「親分危険人物ちゃうわっ。嫉妬深い男は嫌われんで」
と、剣呑な雰囲気に困ったような顔のアーサー。
「あ~、あっちは気にしないで大丈夫。いつものやりとりだから」
と、そこは空気を読んだフランがそう言ってなだめようとアーサーの肩に手を伸ばそうとした時……シュッ!!!と今度は赤い物体と茶色の物体が飛んできた。
そして…避けたフランの後ろの壁にはさらにトマトとジャガイモがオブジェのようにめり込む。
「フラン…何してくれてんだ?あとで本当に舞台裏な?」
と端正な顔にぞっとするように冷ややかな黒い笑みを浮かべてギルベルトが
「自分何ちゃっかり漁夫の利ねらってんねんっ!!あとで1人トマティーナ付き合うか?!!」
と燃え上がる太陽のような熱い怒りを背負ったトーニョがそれぞれ言うのに、フランはいやぁあ~~と首を横に振る。
「お兄さん、なだめようとしただけじゃないっ!先進まないしっ!!」
と叫ぶも高まる殺気。
そこで困ったようにそれまで黙っていたアーサーが、ギルの手を取って自分の肩に回した上で自分は少しギルの方に寄って懐に。
そして……
――バリアー。これでガードってことで?
コテンと小首をかしげてギルを見あげる。
ゴトン!!とすさまじい音がした…。
トーニョがテーブルに頭をぶつけた音が……
ギルは空いている片手で顔を覆い天井を仰いでいる。
「…先に進めないで良いのか?」
そんな2人の様子に不思議そうにこの場の進行役のフランシスに声をかければ、やっぱり片手で顔を覆って俯きながら、フランシスは
「うん…ちょっと待って。ちょっと待ってね?
ギルちゃんとトーニョが復帰するまで」
と見悶えながらそう答えた。
そして…10分後………
「ということで、今度こそ始めますっ!
2人とも邪魔しない事っ!」
とフランシスが宣言して質問が始まった。
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