ローテーブルを挟んで正面から左右に1人がけのソファ。
右側にフランシス、左側にアントーニョが座っている。
2人はもう先にトークを始めていてた。
「オーラ!親分やでっ」
「ボンジュー、お兄さんだよ♪今日もよろしくねっ」
にこやかにカメラに向かって微笑む2人。
このあたりは毎回変わらない。
この番組はギルベルトとアーサーが撮影中には全てフリーに動くのと同様、トークも入れなければいけない話題だけは渡されていて、あとは素だ。
今回はフランシスとアントーニョは質問受け付けが終わってめぼしいものをピックアップし終わったタイミング、3日前に台本…というか指示書を渡されている。
ギルベルトの場合、この番組ではいつも台本を受け取ってすぐ構成や自分の動きについての検討に入っていって、当日にはその台本は書きこみで真っ赤になっているし、フランシスは一応目を通しておおよその流れを考える。
が、アントーニョはたいていは読まない。
必要な事があればフランシスが言うとの前提で全く読まない。
フランシスもそれがわかっているから絶対にアントーニョがと指定してあるモノ以外は自分が言うように心がけている。
そして今日はギルとアーサーがスタジオに来る事、さらに本日のお題だけは伝える事という指示。
その後は読者から来たいくつか質問が指示書に並んでいた。
だがカメラが回って挨拶のあとに開口一番。
アントーニョが言った。
「今日は楽しみやんなぁ。親分の可愛え子猫ちゃんがスタジオ来るんやでっ」
アントーニョの暴走の尻拭いは長い付き合いの中で不本意ながら慣れた。
しかしこれには突発事項に対応するのも早いし上手い…はずのフランシスが一瞬、ほんの一瞬だけだが固まった。
いや、お前普段伝えないといけない情報なんて伝えた事なかったよね?と心の中で突っ込み…しかしすぐ我に返る。
自分が思い描いていた進行と大幅に狂ったが、上手い返しをしなければ……
「お前ねぇ……自分のとか言ったらギルちゃんキレるよ?
この番組のタイトル考えようね?“ギルとアーティの”…だからね?
お兄さんお前の発言で一瞬お前とギルちゃんがガチの戦闘に入ったら、弁済するの嫌なレベルの機材をどうやって避難させようかとか考えちゃったよ?」
と、自分で自分の硬直のリカバリをする。
そこで
「あー?せやかて自分も前回アーティの尻撫でたいとか言うとったやん。
あれ聞かれたらバトルやで?」
とそれを受けるアントーニョ。
それに対してフランシスは表面的には
「や~め~て~~!!!
あれは可愛い子に対する挨拶みたいなものだからっ!!」
と慌てたフリをした。
今日は質問は多めに用意されていて、放映1時間に対して撮影丸一日。
答えた中で実際放送で流すのは一部だけなのだが、このあたりのやりとりは導入部なのでおそらく全部流される。
台本や指示書、互いにそれにどう対応しているなどの舞台裏は美しくないので明かしたくないというのはフランシスのポリシーなので、ともすればそれを匂わせるような自分の失態を完全にリカバリできた事にフランシスは内心ホッとした。
全てがフリーで素を歌っているこの番組だが、実はスタジオ組はフランシスが、外部組はギルベルトが、おかしな方向に行かないように空気を作っているのである。
そういう意味では外部組がスタジオ合流する今回は、ギルベルトがフォロー役としてもう一人加わるのでだいぶん気が楽な気がした。
おそらくアーサーはギルベルトが困るレベルで暴走はしないだろうし。
問題は……アーサーが目の前に来る事でおそらくテンションが上がって暴走率倍になりそうなアントーニョくらいだろう。
まあでも冒頭部さえなんとかなって質問に入れば、あとは番組の方で不適切だったりするものはカットしてくれるので、ほんの少しの我慢である。
そんな事を考えながら、フランシスは指示書にある通り今回は『読者から来た質問にギルとアーティが答える』というお題である事を説明し、主役の2人を待った。
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