フェイク!7章_5

自宅にて


「アーティー、疲れた?大丈夫か?」

結局なんとか誤解を解いて、せっかく来たのだからと皆でイタリア兄弟の作った美味しい食事を食べて、それからそれぞれ自宅へと帰った。

イギリスの場合、自宅というのは若干おかしい気もするが、2ヶ月もの間ほとんどこちらで暮らしていたためか、スペインの自宅に戻ると帰ってきたという気がしてホッとする。

「なんか…激しいよな、ラテン一家は。」
ソファに並んで腰をかけながら、くたりと頭をスペインの肩に預けてイギリスがため息をつくと、あいつらは今更変わらんからアーティーの方が慣れたって?と、スペインが笑った。

「あ~、そうや、料理の事なんやけどな…」
スペインが急に思い出したように口を開いた。

「イタちゃんから聞いたんやけど、アーティーは料理作りたいん?
それとも俺だけが作るのが心苦しいだけなん?」

ゆったりと頭をなでられて、なんだか色々どうでも良くなってきた気がするが、一応
「ん~、俺なんにもしてないな~と思って…」
と答えると、スペインの手がピタリと止まった。

「あのな、親分な、昨日アーティーがおらへん間、めしトマトやってん。」

唐突な言葉にイギリスがなんと答えていいかわからないで黙っていると、まだ途中だったらしい。
スペインは少し間をおいて続ける。

「ロマが独立してイタちゃんとこ行ってもうた時もしばらくそんな感じやってんけどな、自分だけやと何もやる気がおきへんのや。
どんな美味い料理作ったかて美味しゅうないし、つまらんし…。
畑でトマト取ってかじっとっても、親分の作ったトマト美味そうに食うとったアーティーの顔が浮かんで泣けてくんねん。
このままアーティーが戻ってきいひんかったらどないしよとか思って、昨日はシェスタもできひんかった。
せやからアーティーがどうしても言うなら料理教えたるけど、出来れば親分、自分が色々してやってアーティーが嬉しそうにしとるとこ見とりたいなぁ思うんやけど…。」

そういったあと、スペインはイギリスを抱き寄せて、イギリスの肩にこつんと額を押し当てた。

そして少しくぐもった声で

「なあ…ずっと一緒にいたって?」
と小さな小さな声でつぶやいた。

「…100年たっても?」
「うん」
「俺…たぶん可愛げなんてないぞ?」
「アーティーは十分可愛えよ。」
「料理も…たぶん今更できるようになんかならねえし…」
「望むところや。親分毎日腕によりをかけて作ったる。」

「…お前…物好きだな…」
ここで素直に嬉しいと言って見せればいいのに、そんな言葉が口をついて出てしまう自分にイギリスは嫌気がさすが、スペインはそんな言葉にもええん?と嬉しそうに笑った。

「親分な~、アーティーがして欲しいいう事叶えたって、美味しいもん食わしたって、可愛がったるのがめっちゃ楽しいんや。
嬉しそうにしとるアーティー見るのがめっちゃ楽しいわ。」

ああ…たぶんスペインが幸せだと思っている100倍は自分が幸せを感じていると伝えられたらどんなに良いか…と、イギリスは思った。

そして…たまにはがんばってみようと口を開く。

「スペイン…俺も…」
「ん~?」
「家族が出来てすごく嬉しい。みんなでわいわいにぎやかなのっていいよな」

………。

ああ…うん。まあ……ええか。
とりあえず一歩前進という事にしとこ。

スペインは密かにがっくりと肩を落とした。

次は偽装じゃなく愛する伴侶というところまで……持ってけたらええんやけど……はぁ……厳しいわぁ~さすが一筋縄じゃいかんわ~。

これでエンダーかと思った分かなりガックリ感があるわけだが…とりあえず期限100年が無期限になったわけだし、絶対に本当の伴侶の座をゲットしてみせたるっ!!
「そやな。ずっと二人一緒にいような~。
それこそオランダやないけど、できるならいつか子どもとかおったら楽しいかもしれんな」

内心のガッカリ感を根性で抑えて、スペインはさりげなく次への希望につなげようと言葉をつなぐ。

そう…いつか偽装が本物アツアツ夫婦になったるっ!ラテンの情熱舐めたらあかんでっ!
心の中で決意もあらたに、スペインは次の計画を練るのであった。
 


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