フェイク!7章_3

「悪い。ここ任せていいか?仕事してくるから。」
返事を待たずに立ち上がる。

取り柄と言えば唯一の取り得か…。
仕事は出来るほうだ。

しかし夫婦生活を続けていく上で…特にスペインのような可愛らしいタイプが好みの人間が、それを重視するとは思えない。

もういっそ子ども好きらしいスペインのために子どもの一人でも造ってやるか…と、それも取り得と言えるだろう、魔法頼みな事を考えてみるが、ふと我に返って思う。

それで?別のモノで釣ってどうする?
子どもは優しいスペインに懐いて、スペインは子どもだけ引き取って終わりじゃないか…。

自分自身でないモノで相手の歓心を得ようとしても、結局モノだけ受け取って終わるなんて事は、どう好意を示していいかわからず幼い頃に贈り物攻めにしたアメリカで学習したのではなかったのか…。

第一そんな理由で造られる子どもが可哀想だ…。
こんなことを考えついてしまう自分だから他人から好かれないのだ。

ああ、自分がイタリアのような性格だったら…考えても仕方のない考えにとらわれ始めて、なんだか胃が痛くなってきた。

そんな気分のまま食欲がわこうはずもなく、理性では美味しいと認識できている食事がなかなか喉を通らない。

「アーサー、もしかしてトマトソースの方が良かった?」
アントーニョ兄ちゃんはトマト料理中心だもんね、と、それを見てイタリアが気を使ってくるのに、余計に落ち込みが増す。

「いや…少し疲れてて食欲がないだけで…悪いな。」
と、その視線にいたたまれなくなって、イギリスは早々に席を立ち上がった。
ロマーノもそのタイミングで何故かダイニングを出て行った。

しかしそこでイギリスの腕を遠慮がちにイタリアがつかむ。

「ごめんね?何か気に障った?俺いっつもドイツにも兄ちゃんに周りを見ろって言われるんだけど…」

クルンがしょぼんと垂れ下がっているのを見ると、そこでそれを振り払っていくことができず、イギリスはため息をついてまた座った。

「イギリス、俺のこと嫌い?それとも兄ちゃんの時みたいにすごく緊張してるだけ?
俺馬鹿だからさ、ごめんね?はっきり言われないとわからないんだ。」

うなだれる様子が可愛らしい。

自分だってこんな風に可愛らしく素直な態度が取れれば、もう少し違ったんじゃ無いだろうか…。
ヘタリアと呼ばれて、散々お荷物になってもついついドイツが面倒を見てしまうのは、この悪気のかけらも感じられない可愛らしさゆえなのだろう。

トマト一家的に言えば…めっちゃ守ってやりたくなる感じ…だ。

「悪い…。お前が悪いわけじゃねえんだ。」

言わなければやはり納得してもらえないだろう…。
イギリスは少し困ったように眉尻をさげた。

「ただ…俺も料理とか出来たら違ったのかなと…」

「料理?どういう事?」

聞かれてイギリスは少し考え込む
どこまで話していいのだろうか…。

「わかりやすく好意を示せるというか…役にたてるというか……」
「…?…スペイン兄ちゃんにってこと?」

不思議そうに直球で聞き返されて、羞恥で言葉に詰まる。

いや…別にスペインに好かれたいとか、そういうわけでは…と、口を開きかけて、しかしそこでそれを言っては色々不都合が出ることに気づいて、仕方なしに続けた。

「い、一応結婚したわけだからなっ。借りを作りっぱなしというのも…」

借りってなんだ?と自分で自分の言葉に内心突っ込みを入れるが、イタリアはそのあたりの細かい事は気にしないらしい。

「あ~、うん。なんとなくわかった気がしたけど…」
と、ふわりと笑った。

「スペイン兄ちゃん料理上手いモンね。愛情表現もすごくわかりやすいし。
でもイギリスは言葉で好きとか言うの得意じゃないし、かといって態度で示そうにもうまくいかない。だからわかりやすく美味しい料理とか作れればって事だよね?」

論理的に話すのは得意じゃないくせに、感情の機微についてはイタリアはとても察しがいいらしい。

本当はそれに期限付きの結婚で、期限までに少しでもスペインの気持ちをこちらに向かせなければ…という内情があるのだが、それはまあ内密の偽装結婚なだけに言えない。

それを除けば大まかにはその通りなので、イギリスがしかたなくうなづくと、イタリアは
「あのね…」
と、ほわほわした笑みを浮かべながら言った。

「ドイツはね、料理できるの。俺の方が美味いけど食べられないってレベルじゃなくてね。
でも俺は美味しいからって理由以外で自分が料理作りたいのね。
なんでかっていうと…あのいつも厳しい顔したドイツがね、俺の作った料理を食べる時はとっても幸せそうな顔してくれるからなんだよ。
ドイツもあんまり愛情表現とか得意じゃなくて、いつも好き好き言うのも俺だけなんだけどさ、俺は別にそれが嫌じゃないよ?
俺がしてあげた事で幸せそうな顔するドイツを見てると幸せな気分になるんだ。
俺さ、好きな相手ができると好き好き言うの好きだし、色々やってあげるのも好きな人なんだ。
スペイン兄ちゃんもそういうタイプだと思うんだけど?」

なんとなくわかったようなわからないような…イギリスが微妙な表情をすると、

「ごめんね。俺説明下手かも。」
と、イタリアは苦笑した。

そんな話をしていると、ロマーノがダイニングへと戻ってきた。
そしてそのままイギリスの額に手を当てる。

「…なんだ?」
「いや…熱とかないかと思って…」

コトリと置かれるホットミルク。

「飲めるようなら飲んでおけ。」
と言われて、せっかくなので口をつけると、ほんのり甘い味がした。

「蜂蜜入ってっから。少し甘いだろ?」
と、そこで添えられる言葉。

どうやら体調が悪いと思って少しでも何か胃に入れたほうがいいのではと作ってくれたらしい。

「あ~、兄ちゃん。病気とかじゃないから大丈夫。」
と、そこでイタリアが言うと、ロマーノは、ふ~ん?と何か携帯をいじりながら生返事をした。

「単にね、イギリスは兄ちゃんと一緒で感情表現が得意じゃないからさ、せめて料理とかできればな~って思っただけなんだ。」
「…スペインの野郎に関してのことか?」

弟と同じ事を聞いてくるロマーノに、同じように羞恥で言葉がないイギリス。

しかし今回はイタリアが
「うん。スペイン兄ちゃんて愛情表現も料理も上手だからさ」
と、代わりに答えてくれる。

それに対してロマーノは携帯を胸ポケットにつっこみながら、大きくため息をついた。

「あのな…これ以上スペインに飴をやんないほうがイギリスの身のためだと思うぞ?
そんでなくてもあいつイギリスの事好きすぎんだからさ。
もうあとちょっとでも好意が増えたら、イギリスあいつに死ぬまで抱き潰されて寝込むぞ、絶対。」

いや…それはない。
そもそも偽装結婚…フェイクな夫婦だから性交渉はないから…というわけにもいかず、ただただ赤くなってうつむくしかない。

それをどう取ったのか、ロマーノは、もしかして…と話を発展させていく。

「急に愛情表現とか言う話し始めたのって、もしかしてそれか?
夜にあいつの体力についていけないとか?
そういう事なら心配すんな。俺がちゃんと言っておいてやるよ。」

いやいや…そういうわけじゃ…

「あいつも無駄にでけえ上に激しそうだもんな。体力も無駄にあるし…。
あ、いや、俺が小さいとかじゃねえぞ?単にあいつがでけえだけで…」

いやいや、聞いて無いし…

なんか話が変な方向へ反れて来た気がする。

「兄ちゃん、他人様の夫婦生活に立ち入っちゃダメだよ。
イギリス困ってるじゃない。
何もイギリスに言わなくてもスペイン兄ちゃんにこっそり言えばいい話でしょ?」

とフォローをいれているつもりかもしれないイタリアの言葉も全くフォローになってない。
…というか、もう最初は“もしかして”だったものが確定になっている。

この思い込みの激しさと性的にアレがアレなのはローマの血か…

イギリスは頭痛を覚えて小さく頭を振った。






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