フェイク!7章_2

クルン兄弟


「イギリス、味見っ♪」
イタリアがいるとそれだけで、自宅のキッチンがお花畑に見える…。

ロマーノのモスグリーンエプロンと色違いのベージュのエプロンをつけながら楽しげに料理をするイタリアはどこか可愛い。

クルンと一筋はねた髪をゆらゆら揺らしながら、所在なげにダイニングで座っているイギリスの所まで来ると、イタリアはにっこりと笑みを浮かべてイギリスの口元にスプーンを差し出す。

それをパクリと口にすると、まろやかなホワイトソースの味が口いっぱいに広がった。

「…美味しくない?」

イギリスがどこか浮かない顔をしているのに気づいたのだろう。
イタリアは、眉間に縦皺~と、自分の眉間を指先でつつきながら、イギリスの顔を覗き込んだ。

「いや、美味いけど…?」
「じゃあどうして?」
と、首をかしげるイタリアに、まさか本当の事は言えない。

料理…という確固とした愛情表現を持っているイタリアが羨ましいなどとは絶対に…。





お互い他の相手からの求婚を断る理由を作るため…そんな理由で始まったはずの結婚生活だったが、結婚してからのスペインはイギリスに優しかった。

なぜそうするのか?そうする必要があるのか?というと謎だが、もしかしたらスペイン的には最初にスペインの側からイギリスに偽装結婚を持ち込んだ時に、良い夫になるから、と持ちかけた手前なのかもしれない。

まるで本当に愛し合って結婚した伴侶に対するように日々当たり前に注がれる愛情。

それは料理だったり言葉だったり態度だったりと様々だが、決して不快なものではない。

それどころか偽装結婚に協力する条件として提示されたはずのものなのに、たった2ヶ月ですっかりそれに依存してしまっているイギリスがいる。

どういう形であれ、これだけはっきり好意を示された事は、幼少時のアメリカ以来で…自分が依存して良いという立場の相手からという事になると、おそらく長い人生の中で初めてなのではないだろうか…。

幼い頃から渇望し続けて与えられなかったものを与えられて、それが与えられる事が当たり前になってきて、そして思う。
これがなくなったらどうなるのだろう…と。


本来100年という契約だった。

先日のスペインの言葉を信じるなら、100年たってまだお互い続けても良いと思えるなら続けられるらしい。

美味しい食事に優しい手、愛情に満ちた言葉の数々……イギリスがスペインから与えられているものは多い。
でも逆はと考えてみると何もない。

素直に愛情を紡いだりできない性格…むしろ甘い言葉など自分が口にすれば妙に白々しくも嘘っぽい。
言葉や態度以外の愛情表現といえば思いつくのは料理だが、もうこれは嫌がらせと思われても仕方ない腕らしい。

ああ…だめだ…。
スペインが今の生活を続けても良いと思うような要素が何も無い。

そんな絶望的な気分の中でふと目の前を見ると、料理上手で愛情上手といった感じの、イタリアがいるというわけだ。
落ち込まないわけがない。





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