年上息子の心配
「なあ…魔法ってどのくらいできれるんだ?」
ティータイム後に書類を渡し、その後、夕食の下準備に入るロマーノの作業をちょろちょろとしながら物珍しげに覗きこんでくるイギリスに聞いてみると、イギリスは、ん~、と、人差し指を唇に当てて小首をかしげる。
うん…なんつ~か…プライベートだといちいちそういう仕草とかしてんのか……
マジでスペインホイホイだな…
と、ロマーノは遠い目をする。
紅茶と甘いものが大好きで、刺繍とガーデニングが趣味で、ティディベアコレクターで…という童顔23歳をあそこまで恐れていた過去の自分のアホさ加減にめまいがしそうだ。
そんなロマーノをよそに、イギリスは
「たぶん…あと1時間くらい?
ロマーノは俺のこと嫌ってると思ってたから、書類受け取ってすぐくらい帰るつもりだろうし2時間くらい持てばいいかと…」
と、耳に痛い話を無意識にする。
あ~ごめんな。マジごめん。
と、そこまで気を使わせていた事も知らずに本当にその通りにするつもりだった数時間前の自分をど突き倒したい気分に駆られた。
それ…美味しそうだなっ…と、ソースとかを作るたびいちいちつぶやくイギリスに、思わずスプーンで味見をさせてやると、ぱくりと小さな口でスプーンをくわえるのがなんというか…クルものがある。
その小動物か子どものような様子に、料理をイギリスにさせたくない…というのとは別に、自分が料理して食べさせたいという欲求にかられる。
ロマーノもなんのかんのいって下に兄弟のいる兄なのだ。
ヘタレと名高いためあまり知られていないが、実は庇護してやらないといけないような存在に弱い。
公のしっかりと生真面目な顔を脱ぎ去ったイギリスにこんなに可愛らしい一面があると知っていたらもう少し対応も違っていた気がする。
そんなロマーノの内心を知らずにイギリスは
「男に戻ったら…怖いか?」
と、不安げに瞳を揺らす。
だ~か~ら~~!!そういう態度は旦那以外にはやめておけっ!とロマーノは声を大にして言いたいっ。
「別にもう怖くねえよっ。そういう意味じゃなくてな、スペインが帰るまでその状態なのかと…」
「この状態?」
またくるりんと目を丸くするイギリス。
もともと線が細いイギリスだが女になってさらに一回り華奢になっていて、今この体格でまだ新婚で我慢がきかない状態のスペインに抱き潰されたら壊れそうな気がする。
そう指摘するとパ~~っと真っ赤になってうつむくイギリス。
小さな手が彼シャツ状態の大き目のシャツの裾をきつく握り締めて皺をつくった。
ちょ…勘弁してください。あの怖いイギリス様はどこ消えたんですか?そんな可愛い反応示されたら俺の俺様がやばいんですが……
そこで初めて相手を性的に意識して、ロマーノは慌てた。
まずいまずいまずい!!!
気持ちをそらすように無意味に鍋の中身をお玉でクルクルとかき回す。
絶対絶対ここで手を出したらまずい!
色々な意味で終わるっ。
焦りまくるロマーノに気づくことなく、
「…我慢…とか…そこまでそんなことしたい気にはならねえと思う……」
と、フォローのつもりなのか横でロマーノのエプロンの端をきゅっと握ってそういうイギリス。
なに?これ誘ってるのか?今俺誘われてる??
一瞬思うものの、たぶんイギリスに深い意味はないのだろう。
ああ…なんというか…この無意識の言動が凶悪だ。
ある意味いままでとは違う意味で恐ろしい。
現実を避けるように理性との戦いに赴いたロマーノに訪れた援軍はドアの呼び鈴だった。
キッチン横のカメラで見るとドアの前にはフランス。
それを見て顔面蒼白のイギリス。
「やばい…あのクソヒゲにこんな姿見られたら一生笑いモンだ!」
とつぶやくが、ロマーノにしたら心配なのはそこじゃない。
自分ですら元気になりすぎた自分の俺様の暴発と戦っているのだ。
あのナチュラル色ボケ親父にこんな状態のイギリスを見せたら確実に食われるっ!!
「イギリス、俺に任せろ。お前は絶対にしゃべんなよっ。声でバレる」
と、イギリスに念を押す。
それに対して神妙な顔でうなづくイギリスを見えるわけでもないが背に隠すようにして、ロマーノはインターホンに出た。
「今スペインは留守だ。帰れ」
にべもない応対にフランスは眉をよせる。
『相変わらず冷たいねぇ。いいの、お兄さん坊ちゃんのほうに用があってきたの。』
「イギリス様も急用で留守だ。帰れ。」
『え?だって午前中はスペインに帰るって…』
「しつこいっ!用があるならイギリス邸のスペインに言え。俺は留守を預かってるだけだから開けられねえ!それでもしつこくするならマフィ○呼ぶぞ、ごらぁ!!」
いつになく強気なロマーノに気押されしたのか、
『も~、じゃあさ、坊ちゃんに連絡ついたらこれあげといて。前約束したマカロン。』
と、籠をちらつかせるので、ロマーノはイギリスに絶対にキッチンからでないように言い含めて玄関に向かう。
がちゃりとドアを開けるとそのまま有無を言わさず足を踏み入れようとするフランスに、スチャっと銃をつきつけた。
「ちょ、ロマーノ、なんてもんもってんのよっ!!」
と慌てるフランスに
「うるせえっ!てめえ最近夜中に不法侵入した挙句寝室にまでおしかけやがったくせにっ!
自分の留守中はてめえが来ても絶対に家にあげんなってスペインの野郎から言われてんだよっ!」
と、すごむロマーノ。
このままうやむやに中で待とうと思っていたが、それを持ち出されるとフランスも弱い。
しぶしぶ手土産だけを置いて帰っていった。
こうして危機はとりあえずは去った。
しかしよもや自分がイギリスを守る日がこようとは…としみじみ思うロマーノ。
「ロマ、ヒゲ帰ったか?」
と、戻ったロマをキッチンからチラリと顔だけ出して迎えるイギリスが可愛い。
せっかく収まってきた俺様がまた元気になってきて、ロマーノはがっくりと肩を落とした。
もう早く男に戻ってくれっ!!!
切実に願うロマーノの声が天に届いたのだろうか…。
次の瞬間、ボフン!と煙が立ち込めたかと思うと、その場で尻餅をついているイギリス。
「…も…戻った~!!」
嬉しそうなキラキラした目で隣に立ち尽くすロマーノを見上げる。
一方その場に立ち尽くすロマーノ。
呆然と立ち尽くす。
ちょっと待ておいっ!
なんでショーパンから出てる足がそんな白くて細いんだよっ!!
目、大きいじゃねえか、おいっ!
口ちっちぇ~。柔らかそうじゃん。
そう…つまりは…どちらにしても色っぽい…。
がっくりとその場にひざをつくロマーノの顔をイギリスは心配そうに覗き込んだ。
「ロマ?どうした?やっぱり女の方が怖くなくて良かったか?」
だ~か~ら~そのでっかい目を潤ませて俺を見んのやめてくれ~~!!!
という心の叫びは当然表に出さず、
「いや…一緒だから…男でも女でも…一緒な事がよくわかったから…」
と、ぶつぶつつぶやくロマーノの言葉の真意など、イギリスには当然わかるはずもない。
この日、結局ロマーノはそのままスペイン邸に泊まっていくことにした…。
…旦那である元宗主国の連れ子的な立場としては、彼が留守中、万が一ヒゲやメタボなどが来た時のために、このどこまでも無防備なマンマの貞操を守る、ただひとえにその義務感ゆえにであった。
そしてそれ以降、スペインの留守にはこの連れ子的立場の青年はちょくちょく愛しの伴侶の護衛として呼ばれることになる。
0 件のコメント :
コメントを投稿