ピョン!と慌ててイギリスの上から飛び退いて、窓際に張り付くフランスには応えず、スペインはまずベッドに向かう。
「これ羽織っとき。」
と、コートを脱いで、ボタンが飛んで前が半分肌蹴たシャツのまま呆然と横たわっているイギリスを助け起こすと、その細い身体を脱いだコートで包む。
「可哀想に…。怖い目ぇにあったな~。親分が来たからもう大丈夫やで」
と、イギリスの額にかかった乱れた前髪を払ってやると、チュッとその額に口づけを落とす。
「あ…あのね、スペイン…誤解だからね?」
その静けさが返って怖い。
フランスが恐る恐る口を開いた瞬間…ギラリとこちらを見た視線は一転いくつもの文明を容赦なく踏み潰し滅亡に追いやった帝国時代のそれで……
「違うからっ!坊ちゃんがねっ、お前とやんのに経験がないからって……」
「…自分に口きいてええとは言うてへんで…?」
慌てて言い募るフランスに、ドスの聞いた低い声でそう言うと、フランスの言葉で今度は自分が顔面蒼白になったイギリスに黙って視線を落とす。
「アーティー?」
慈愛に満ちた柔らかい声で促すようにイギリスの白い頬を褐色の手がスルリと撫でると、イギリスはまたポロポロと涙をこぼした。
「ご…ごめん…。経験なくて…上手くできなかったらどうしようって……それで…俺ヒゲに……」
何度も言葉に詰まりながらも言葉を紡ぐイギリスに、フランスはハ~っと安堵の息を吐く。
これで誤解はとけるだろう…。
「…っ……ご…ごめんっ…俺っ…も…お前といられない……嫌になっただろ…別れても……」
ヒッヒッとシャクリを上げて本格的に泣き出すイギリス。
さすが悲観主義者…。
子どもが好きで頼られるのも大好き…他人の手で上手くなるより自分が教えたい…そんなスペインだ。
経験ないなんて喜びはしても引くなんてありえないし、嫌われるのが怖くて言えなかったなんて可愛い事を言ったら怒るより可愛らしさに内心悶えてるのは間違いない。
別れるなんてとんでもない。
やれやれ、一件落着…じゃあお兄さんは残ったワインでも飲もうかね…と、一歩踏み出しかけたが、スペインの口から恐ろしい言葉を聞いた。
うん…なんだか恐ろしい言葉を聞いたんだ。
大事な事だから二度言いました…なんて悠長に構えていられない言葉を…。
「堪忍な。親分がもっと早く助けに来たったら良かったんや。
アーティーはなんも悪くないで。そんなに泣かんといて?
事故やからな?犬に噛まれたようなもんやから気にせんとき?
そんな事で親分はアーティーを嫌ったりせんよ?
アーティーは何があっても親分の大事な大事な恋人や。
世界の誰より愛しとるよ。」
え~っと…これってよく乱暴された相手とかにいう言葉…みたいだよね?
「アーティーが信頼して相談しに来たんをええことに無理矢理乱暴しよったド畜生は親分がちゃんと退治したるからな?
二度と馬鹿な事出来ひんように…潰してお姉さんにしたろか…」
ぜんっぜん…解けてないよ、誤解っ!!!
その瞬間…その場で誤解を解くのを放棄して窓から逃げ出したお兄さんは悪くはないと思うんだ。
主催国で宿泊先を知っていたからドイツと一緒のホテルに泊まっているプーちゃんの部屋に逃げ込んだお兄さんグッジョブ!
結局その夜プーちゃんとドイツのツインルームに無理矢理エキストラベッド入れてもらってお兄さんが恐怖に眠れない夜を過ごしている間に、馬鹿っぷるはカップル御用達のロマンティックなホテルを取って熱い夜を過ごして誤解が解けたらしい。
うん…おかげで起きれないイギリスに付き合って会議に遅れてきた二人の代わりに、朝っぱらから今度はヨーロッパ会議なのに何故か押しかけてきた超大国に追い掛け回される事になるなんて、お兄さんなんて可哀想っ!
誰かお兄さんに愛の手をっ!!!
会議後…そんな事を叫んでいたら何故かどこからともなく聞こえてくる声
「時代はラブラブ西英…プラス仏憫ですねっ!今年の冬はこれで乗り越えられそうです」
ああ…見てたんなら助けてください、お願いします…。
晴れた空の下、窓の下にはいちゃつく馬鹿っぷる。
超大国に怯えながら控え室の一室に隠れたフランスは、日本に弟子入りして忍者になりたい…と、今度は日本行きのチケットの予約を入れたのだった。
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