青い大地の果てにあるもの7章_2

相互理解的和解が生む友情以上の関係?私室編


頭が痛い...気持ちも悪い...。
ウッと吐き気にうめくと、すかさず柔らかい布が敷き詰められた袋が口元に差し出された。

「我慢してねえで吐いておけ。」
上から声が振ってくるのに促されてそのまま袋の中に吐いていると、大きな手が後ろから背中をさすってくれる。
気持ち悪くて苦しいのだが何故か懐かしくて心地よい。

祖父のモノと違う若い声…。

祖父に引き取られる前…自分がまだ普通の家庭の普通の子どもだった頃…虚勢をはる必要もなかった頃に自分を守っていてくれた存在…父親を少し彷彿させるような声。

「…ダッド……」
胃液まで吐いて涙がまじる中で思わずつぶやく。

「...自分と対して年の違わねえ息子を持った覚えはねえぞ。」
上から振ってくる声に力なく顔を上げると、そこには信じられない顔が…

「うあああ!!」
思わず悲鳴を上げて後ずさると、
「...お前なぁ...ひとを化け物みたいに...」
と、自分の事を嫌いなはずの俺様ボスが顔をしかめる。

「あ…なんで俺…」
さっきまで背中をさすっていたのはこいつだったのか。

いったい何が起こっているのかわからずに混乱するロヴィーノを気にすることもなく、ロヴィーノの汚物の入った袋の口を縛って処理すると、ギルベルトはコトリとベッドラックに水差しとコップを置いた。

「水…飲んどけ。薬は?要るか?」
「…ここは?」
見回してみると見覚えのない部屋で、何故ここにいるのかさえ思い出せない。
おそるおそる聞くロヴィーノにギルベルトは水差しから水をコップに注いで差し出す。

「俺様の部屋。酔いつぶれたまま人目のつく所に放り出してくる訳にもいかねえだろ。」
というギルベルトの言葉に、バーで飲んでつぶれたのかと記憶がつながる。

よりによって…自分を嫌っているこいつの前でか…と、ロヴィーノは青くなった。

「まだ気分悪いのか?...薬要るか?」
しかしギルベルトはバカにする様子もなく、返事のないロヴィーノにそう言って顔を覗き込んでくる。

「なっ…なんでてめえがそんなに優しいんだよっ、気味が悪いっ!!」
反射的に噛み付くロヴィーノに、ギルベルトは怒ることなく苦笑した。

「わりい。俺様誤解してた。お前さ、ちゃんと仕事やってんだよな。
勝手に七光りでなんもしてねえとか勘違いしてて悪かった」

そう言いつつ差し出される茶封筒をロヴィーノは慌てて受け取った。

「あのよ、今回は豪州支部壊滅で慌ててジャスティスを全員本部召集なんつ~ことになって慌ただしかったからよ、正直さすがの俺様も移動距離問題なんてすっかり頭になかったんだわ。
マジ感心した。
だからな、もしブレイン内部でそれ提出しても取り合ってくれねえってことなら、フリーダムから上げてみようと思うんだけど、どうだ?」

「…へ??」

自分はどこまで話したんだろう…。
そう思いつつも、チラリと目の前の銀髪の男に目をやると、男はニカっと笑って

「とりあえず悪かった。改めて宜しくなっ」
と手を差し出してくる。

ちきしょーと思う。
自分なら素直に謝ったり出来ない。
こんな風に笑って手を差し出したり出来ない。
そうされるのは心地よい事だとわかっているのに……。

悔しいから握手として差し出されている事はわかっているのに、その手に
「頼んだ」
と、茶封筒を押し付けた。

ずいぶん失礼な態度を取ったつもりだが、ギルベルトは気にしてないようだ。

一瞬少し驚いたように目を丸くしたが、すぐまたニカっと笑って
「おうっ!頼まれたぜっ!」
と、茶封筒をしっかり受け取った。

そして

「ま、どっちにしても、もうしばらく寝とけ。
今は外部的には今回の敵の強襲時の報告会も兼ねた会談中って事にしてあっから。
夕飯時になったら起こしてやる。夕飯食って解散だな。
俺様は居間にいるから、何か会ったら遠慮なく呼べよ。」

と言って止める間もなくギルベルトは部屋から出て行った。

意外に...というか、かなり良い奴なのかもしれない。
思い起こせば...完全につぶれる前にかなり暴言吐いた気もするし、勝手に酔いつぶれたのだから放っておけば良かったのに、人目につくと体裁が悪かろうと気を利かして自室に連れ帰ってくれるあたりが大雑把な人間に思っていたが気遣いが細やかだ。
上に立つ器というのはこういうのを言うのか…。
自分とは大違いだと思う。

ロヴィーノはそんな事を思いながら、だるい体をまたベッドに横たわらせた。




「やっぱり二日酔いだねぇ」
居間に戻ったギルベルトをソファで迎えたのはもうかなり長いつきあいになる医者の旧友。

「夕方に奴が起きてくるまでには帰れよ、フラン。あんまこういう所見られたくねえだろうし。」
汚物入れをダスターシュートに放り込むと、ギルベルトはフランに渡されたマグを受け取り、コーヒーをすする。

「お兄さんこれでも多忙な中、ゆうりちゃんの目を盗んで来たのにギルちゃん冷たいわ」
肩をすくめるフランに

「しかたねえだろ。つぶれんのはいいが死にそうに青い顔してたから。急性アルコール中毒って下手すれば死ぬし。自己責任ていうにはなんつーか…思いつめたような顔してたし…色々誤解してたしな、俺様も。」
は~っと額に手をやってため息をついた。

「なあに?ギルちゃんてば絆されちゃった?」
ニヨニヨと人の悪そうな笑みを浮かべるフランシスをギルベルトは思い切り蹴り上げる。

確かに綺麗な顔でチャラいのかと思えば、意外に真面目で憔悴した思いつめた顔で七光りなんて欲しくなかったと泣いていた姿に、惹かれなかったと言えば嘘になるわけだが…

いや…でも俺様は異性愛者だし?
まあ…綺麗な顔はしてっけど…あ~体型もゴツさがなくて細いよな…
エリザの方がまだ筋肉とかあるんじゃね?
なんつ~かあれだよな、しっかりしようとしてて、でも脆さがあってっていうのが…助けてやりたくなるっつ~か…

いやいや、俺様何考えてんだっ!
百面相をしながらプルプルと首を横に振るギルベルトを面白そうに観察するフラン。

(これ…ゆうりちゃんあたりに流してあげたら喜んでくれるかな~)
と、秘かに可愛い部下の娯楽にどうかなどと思っていることは秘密である。







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