青い大地の果てにあるもの3章_6

一方こちらは鍛錬室についた二人。

「で?何するん?」
黙々と柔軟をするアーサーに、アントーニョも隣で柔軟をしながら聞く。

意志の強さばかり先行して体力が追い付いていない…必要なのは鍛錬より休息なんじゃないか…と、アーサーの青褪めた顔色を見ると思うわけだが、どこか追い詰められたようなギリギリの光を放つグリーンアイに、普段はKYと言われるほど他者を気にせずモノを言うアントーニョも、その言葉を呑み込まざるを得ない。

「棒術の他に何を?」
アーサーは前屈を終えて立ち上がると、当たり前にそう言って練習用の棒を2本取ると、パシッと一本をアントーニョに投げてよこした。

アントーニョは座ったままそれを受け取って立ち上がる。
「なんで棒術?自分魔術師やん」
と、それでも棒を構えるアントーニョに、アーサーは素早い動きで接近すると、まず一打打ち込む。
「魔術は殴られたら詠唱中断するからっ!いったん棒でダメージ与えて動きとめて距離とんないと殺られるっ!」
「今まではともかく、これからは親分いるから殴らせへんて。」
カン!と軽い音をたててその突きをふせぎながら、アントーニョは距離を取るが、
「わかんねえだろっ!いつまでいるかなんてっ!」
と、アーサーはさらに踏み込んできて突きをしかける。

後衛しかいない極東組。
相方は回復と支援しかできない完全回復系のジャスティス。
唯一の攻撃手である自分が倒れたら全滅する。
そんな張りつめた中で常に緊張を強いられながらやってきたのだろう。

他者から守られる事も他者を頼る事も知らない、頼れるのは自分だけと自分の腕一本でやってきた人慣れない野良の子猫。

「おるよ…」
アントーニョは自分の棒を投げ捨てるとアーサーが突出してきた棒を素手で受け止めた。
そのまま棒ごと引き寄せ、アーサーを片手で肩にかつぎあげた。

「親分は攻撃特化で普通の人間はもちろん、自分らより何倍も頑丈やさかいな。
タマが生きとる間くらいは余裕やで。」
アーサーの手からも棒を取り上げて自分の分と一緒に元に戻すと、アントーニョはそう言ってアーサーを抱えたままバルコニーに出る。

「な、放せっ!!」
アーサーは慌ててバタバタと暴れるが、攻撃特化の怪力でしっかりと支えている腕はびくともしない。
「自分めっちゃ顔色悪いやん。
極東から本部ついたの昨日やし、鍛錬より休み?ちゃんと休息を取るのも仕事のうちやで」
と、アントーニョはそのまま人目のない木の枝を飛び渡って5区のジャスティスの宿舎へ。

普段から鍵をかけない自分の部屋の窓から中に入ると、そこでボスン!とベッドにアーサーを放り投げた。
そこでアーサーは慌てて飛び起きようとするが、それを軽く片手で制す。

「言うたやろ?休み!ちゃんと休まんで倒れでもしたらそれこそ敵につけこまれるで!」
珍しく真剣なアントーニョの表情と、倒れたら付け込まれるというその言葉に、アーサーは仕方なく力を抜いた。

「ん。それでええ。じゃ、親分食堂で飯テイクアウトしてくるから一緒に食お?
それまでここで寝とき?」
ときびすを返しかけるアントーニョに、アーサーは
「ポチ、ちょっと…」
と、ちょいちょいと布団の中から手招きをした。
「なん?」
と、寄って行くアントーニョ。
「耳貸せ」
「うん?」
言われるままアントーニョが耳を寄せた瞬間…チュッと軽く耳たぶにキスをした後甘噛み。
そして舌を這わせるコンボ。

「……っ!!!!」
さ~っと褐色の肌を全身朱に染めて、その場にしゃがみこむアントーニョの横を、くすりと笑みを落として悠々とドアへと歩き去るアーサー。

「ちょ…何してくれてん!」
耳を押さえてしゃがみこんだまま振り向くアントーニョに、アーサーは
「飯は俺が取ってくる。ここには戻ってきてやるから感謝しろ」
としてやったりといった顔を見せて、音もなくドアの向こうへ消えていった。

「も~、あの子には敵わんわぁ…」
決して少なくない経験の中でここまで振り回された事は皆無だったアントーニョ。
今さら年下の…しかも同性に振り回される事になるとは思わんかったわぁ…と、一人残された部屋の中で、顔を赤くしたままつぶやいたのだった。



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