世界を敵に回しても世界で一番幸せです_2

世界会議2日目…

前日はイギリスの人生ではなかなか激動の一日だった。
なにしろ人生初の男の恋人が出来た。
相手は元軍国プロイセン――ドイツの兄である。



一人の時間が多いのを揶揄られる者同士、一緒にいて言い返そう。
そんな事が具体的な理由の一つで、でも結局はお互いなんとなく一緒にいる事に無理がでない相手なんじゃないか…それが一番大きい理由な気がする。

だから対外的には恋人という名ではあるが実質は仲の良い家族でも良い、そんな誘いで、実に気楽なその申し出にイギリスは手を伸ばした。

そしてその日は二人で買って帰ったサンドイッチで夕食を摂って、車でホテルまで送ってもらったのだった。

そんな感じだったので恋人になったと言っても、朝、当たり前に会議室で顔を合わせてもさして何か変わるわけではない…そう思っていたのだが、プロイセンはドイツの兄らしく意外に立場に対して真面目な男だったようだ。

会議室で顔を合わせるどころか、朝、ホテルの部屋で身支度をしていると電話が来た。
いわく下のラウンジで待っているから朝食を一緒に食おうというのだ。

正直少し…そう、少しだけだが嬉しかった。
なにしろ世界会議の時は当たり前に主催国が宿泊するホテルをとるので、当たり前だが他の国々も同じホテルに宿泊している。
ということで、昨日の帰りのようなことは朝からありうる。

イギリス的には朝はがっつり摂りたいので、ホテルの朝食バイキングを食べに行きたい。
が、一人で食べているとまたフランスやアメリカがからかいにくるので、それが嫌でいつもはルームサービスをとることになるのだ。

でも今日はプロイセンが一緒だ。
一人じゃないから言い返せる。
少し浮かれた気分で誘いを了承すると、イギリスは手早く身支度を終わらせてプロイセンが待つラウンジへと急いだ。



「guten Morgen!」

1Fにあるラウンジにつくと、当たり前だがそこにプロイセンはいた。
一人がけのソファにゆったりと足を組んで座り、コーヒーを片手に文庫本を読んでいる。
出来るビジネスマンといった風貌で、普段の騒々しさはかけらも見えない。

ラウンジ前までついたイギリスをすぐ見つけると、プロイセンはそう言いつつ素早く本を閉じて支払いを済ませて走り寄ってくる。

そして
「ここの展望レストランの朝食は旨いだぜ。
行くだろ?」
と、当たり前にイギリスのカバンを持ち、エレベータへと促した。

ああ、やっと食べられる朝食バイキング!
嬉しさについつい顔がほころぶのを、
「なんだか喜んでもらえて何より」
と、プロイセンが笑う。

しかしそれは他のように揶揄するようなものではなく、本当にイギリスが喜んでいるのを喜んでくれているような笑みなので、イギリスにしては素直に
「ああ、今まではフランスやアメリカがうるさかったから部屋で食べてたんだけど、本当は食べたかったんだ」
と言うと、プロイセンは一瞬ビックリ眼で固まって、それから
「これからは好きなモン好きな時に食べようぜ」
と破顔した。



まだ時間が早めだったこともあり、レストラン内は人もまばらで、二人は外を見渡せる眺めの良い窓際に陣取った。

「荷物見てるから、先行ってきていいぜ。
あ、でもコーヒーだけ1杯いれてきてくれるか?」
というプロイセンの言葉に甘えて、イギリスはまずは先にプロイセンのコーヒーだけいれてきて渡すと、上機嫌で料理に向かう。

思い切り食べたいもので皿を山盛りにして戻ったら、
「お前細っこいくせにすげえ食うよな」
と、笑うプロイセンの顔が楽しそうで、イギリスまですごく楽しい気分になってきた。

そして入れ違いに料理を取りに行くプロイセン。
イギリスとは対象的に、非常に栄養バランスを考えてますと言う感じのものを適量、きっちりと測ったようにいれて戻るプロイセンのプレートを見て、今度はイギリスが
「お前、めちゃくっちゃな事ばかりやってるイメージあるけど、実は色々きっちりしてるよな」
と、感心したように感想を述べると、プロイセンはトレイをテーブルに置いて椅子を引きながら
「そりゃあな。
久々に守らねえとなんねえものが出来たばっかだからな。
体調管理もしっかりしねえと」
と、ニコリと笑ってイギリスの正面に腰をかけた。
その言葉にイギリスは今更ながら、ああ付き合っているんだ…と思い出して何か気恥ずかしくなって赤くなる。
が、嫌な感じではない。
何かくすぐったくて、笑いだしたくなるような感じだ。

二人きりでこうしていると、プロイセンは意外に騒々しくもなく穏やかで、でも気まずくない程度に適度に楽しい会話を提供してくれる。

「お前、無理してないか?」
と、そのイギリスに合わせたような心地よさに思わず聞くと、
「は?どうしてだ?何か変か?」
と不思議そうな顔をするので、イギリスは正直に言った。

プロイセンなら本音を言ってもからかってきたり嫌な事を言ってきたりしないと、なんとなく思う。
だからごくごく自然に言葉が出てきた。

するとプロイセンは嬉しそうに笑う。
「あー俺様もさ、イギリスといるのすごく楽だし楽しいぜ?
なんつーか…変に構えねえでいいっつーの?
お前なら無意味に落としてきたりしねえしさ」

「俺もっ!
俺もそれ思ってたっ」
イギリスも同じ事を考えていた事を話すと
「俺ら本当に気が合うんだな」
と、二人して笑う。

プロイセンといると本当に穏やかでいられる。
そして相手もそうだと言われるととても嬉しい。

こんなに楽しい朝食は久々だと思った。
料理は美味しいし会話も楽しい。
景色も綺麗だ。

これから仕事、会議なのが残念だが、それも
「今日会議終わったら飲みに行こうぜ。
俺様いつも一人の時に行ってるとっておきの店があるんだ。
そこならうるせえ奴らは誰もこないし、気楽に呑めるからな」
という会議後の予定を示されれば、楽しみに変わる。

昨日までの憂鬱な毎日がウソのようだ…と思っていたら、現実がやってきたらしい。

「やあ、今日は珍しくレストランなんだね」
「坊っちゃん珍しいじゃない。
今日はレストランな気分?」

本当にお前ら仲良しか?
いつも同じタイミングだな。
と言いたくなるくらい、同じタイミングで現れる二国。

もちろんイギリスは二国が牽制しあって結果同じタイミングになることなど気づくはずもない。

二人はそのまま当たり前に二人席の左右に椅子を引きずってきて座る。
ああ…楽しく平和なブレックファーストの時間が…とイギリスは泣きたくなった。

………が、

「マナーなってねえことしてんじゃねえよ。
俺様は同席許可してねえし、そもそもここは二人席だ。
勝手に椅子を移動したら通行のじゃまだし迷惑だろうが」

へ????
容赦なく座ったアメリカごと持ち上げて元の場所に椅子を戻すプロイセン。
ありえない…普通の成人男性でもあんなに軽々持ち上げられるとは思えないのに、相手はアメリカだ。

どういう鍛え方をしていたらその筋力なんだ?
と、驚いてポカンと呆けるイギリス。
もちろん当のアメリカも次いで同じように戻されたフランスも呆然だ。

「確かに…マナー違反だったよね。
じゃあ4人席に移ろうよ」
と、それでも気を取り直して言うフランスに、プロイセンは一言
「や~なこった」
と切り捨てる。

「え~…アメリカはとにかく、お兄さんはお前とも友達でしょ」
「俺はとにかくって、失礼なんだぞ」
「だって本当のことじゃない」
と言い合う二人にプロイセンはきっぱりと
「ふたりとも却下だ。
俺様はイギリスと二人で大事な話しながら飯食ってんだから邪魔すんな」
と断言した。

「大事な…話?
お兄さんがいちゃ駄目なの?」
「今から根回しとか卑怯なんだぞ」
とそれぞれ不満げに言う二人。

「根回しじゃねえよ。プライベートだ。
二人で話したい。他は邪魔だ。
お前ら俺らに粘着しねえと一緒に飯食う相手もいねえ寂しい奴なのかよ」
とそれでもそう畳み掛ければ、普段さんざん相手のことを揶揄っているだけにそれ以上は言えない。

「ま、せっかく普段ぼっちの二人がご飯食べる相手みつけたわけだしね。
お兄さんは別に?
スペインでも日本でもいくらでも相手はいるし…」
「何言ってんだい。
日本は俺の友達なんだぞっ!」
と、言い合いながら、二人して離れていった。

それを見送ってイギリスがハ~っと安堵の息をつくと、プロイセンは
「ごめんな。今はあんま揉めると食う時間なくなるから、帰りにでももしまだ言ってくるっようならピシッと言って追い払うからな」
と苦笑しながら手を伸ばして頭をなでてくる。

「お前の方が年下なんだし子どもじゃねえんだから頭とか撫でてんなよ、ばかぁ」

頭を撫でられたのなんてどのくらいぶりだろうか…
存外に心地よい…
なのにハリネズミのように自衛で攻撃する事に慣れすぎてしまった口から出てきたのはそんな言葉で、言ってしまってから、“しまった!”と思ったのだが、外へ飛び出てしまった言葉を回収する術はない。

不快にさせただろうか…嫌な奴だと思われただろうか…と、イギリスが泣きそうな気分でちらりと様子を伺うと、目があった瞬間、ギルベルトはおおらかな様子で笑った。

「だってよ、お前の髪って硬そうにみえんのに、案外撫で心地いいからよ。
俺様好みだぜ!
1000年単位で生きてて大人も子どももねえと思うけど、なんならお前も俺様のこと撫でてくれてもいいんだぜ?」
なんて気を悪くする事もなく言ってくるからホッとする。

それでも反省したはずの自分の口から出て来るのは性懲りもなく
「お前、頭撫でてなんか欲しいのかよ」
可愛げのない声音の可愛げのない言葉で、それにまた焦るのだが、プロイセンはそれにも笑顔で
「おう!俺様ちゃんと敵を撃退したろ?
ご褒美、ご褒美」
と、楽しげに頭を差し出してきた。


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