ハプニング・バースデー_5

――好きだから、抱きたい…

その時にはてっきりオロオロして自分がリードしてやって…などと思っていたら、目の前にはしっかりと雄の顔をしてそんな事を言うプロイセンがいた。

イギリスの方も好きなら抱くと自分の方の気持ちまで聞いてこられて、イギリスはひたすら動揺する。



そういう意味で好きだと言われた事もなければ、好かれているはずもない自分が好きと言って喜ぶ相手もいないだろうから、自分の気持ちなんて考えた事もない。

からかいとかではなく、イギリスの事をそういう意味で好きだなんて言う奴がいるとは夢にも思わなかったから、好きだと言われた瞬間頭の中が真っ白になった。
ついでに…たぶん顔は真っ赤だ。

こんなの…こんな自宅の書庫の奥深くに隠してある愛読書の恋愛小説のような事が自分の身に起こるなんて事は思ってもみなかったから、本当にどうして良いかわからない。

だから
――わ…わからない……
と、素直に思ったままを答えると、プロイセンは少し眉を寄せて、だよな、と、苦笑した。

「じゃ、明日から口説くから覚悟しとけよ?」
と、おそらくがっかりはしているのだろうが笑って言うと、今日はもう寝るか、と、立ち上がりかけるプロイセンのその袖をイギリスは思わずつかむ。

「でもっ…でも、抱かれてみようと思ったのはお前が初めてだっ!
友達って言う事ならポルも日本もいたし、知人て言うところまで範囲を広げれば知ってる奴はたくさんいるけど、抱かれてみたいって思ったのはお前だけだからなっ」

悲しい思いをさせるのは嫌だったし、嘘はついていない。
自分でわかる範囲の事はそのくらいだけど…と、立ち上がりかけたプロイセンを見あげると、その端正な顔から笑みが消えた。

グイっと腕を掴まれて引き寄せられ、
――男に戻れ…
と低く言われた。

ギラギラとした目…
今までギルベルトからこんな目を向けられた事はなくて、少し恐ろしく感じながらもコクコクと頷いてイギリスは魔法を解いた。

肩先にかかっていたサラサラした髪が消え、膨らんだ胸に合わせて着つけた浴衣の胸元が少し緩んではだける。
背筋に冷やりとした汗が伝った。

何か…怒らせたのだろうか?
鋭い目で自分を見つめるプロイセンに身をすくめると、さらに抱き寄せられて噛みつくように口づけられた。

貪る…というのが正しいような、激しく全てを奪うような口づけ。
口内を暴れ回る熱い舌。
呼吸が出来なくて、苦しさに目尻に浮かんだ涙の粒を、ようやく唇を開放したプロイセンの舌先が舐め取って、そのまま口元が耳を食む。

――煽ったのはお前だからな?待たねえ。…全部頂くぞ?
低く吹き込まれる熱のこもった声に背筋がぞくぞくとする。
そのままやや乱暴に布団の上に引き倒され……荒れ狂う嵐に翻弄されるように、全てを奪われた…





――イギリス、飯だぞ~。

まるで嵐の翌日の晴天のように穏やかな声が降ってきた。
食事…の言葉にぐぅ~と腹の虫が素直に空腹を告げるので起き上がろうとしたイギリスは、あらぬところからする鈍痛にそのまま布団に突っ伏した。

その原因を作った男は上機嫌で
「起きられないようなら、運んでやろうか?
なんなら俺様が手ずから食わせてやるぜ?」
などと、ケセセっと笑う。

昨夜…いや今朝までの事を思い出すと恥ずかしくて死にそうだ。
嘘のように激しく…でも優しく、何度も何度も貪られた。
喘いで啼いて、もう無理だから…死んじゃうから…と許しを乞いながら、何も出ないくらいまで何度もイかされて、最後は完全に意識を失ったのだろう。記憶にない。
自分とプロイセンのものでぐちゃぐちゃになっていた身体はすっかり清められて綺麗な方の布団で寝かされてはいるが、疲労と痛みと昨日の余韻のようなかすかな熱を持ったダルさが、それが実際にあった事なのだと告げていた。


布団から起き上がれないまま、…誰のせいだ……と、喘ぎすぎて枯れ果てた声をなんとか絞り出して眼だけを向けて睨みつけると、男は、ごめんな?余裕なくてがっつきすぎたな、俺様…と、心底気遣わしげに顔を覗き込んでくる。

全くだ。
元軍国の本気を舐めていた…と思う。
体力も技術も人並み以上だ。
本当に違う世界の扉を開けてしまった気分である。

それにしても……
「…お前……絶対に童貞じゃねえだろ……」

余裕ないというわりに、的確にピンポイントで弱い部分を攻められていた気がするし、やりすぎて腰が筋肉痛で擦られ過ぎたあらぬ場所がはれぼったく熱を持っている気がするが、切れて血がでたとかもない。
全く初めてのイギリスを何度も何度もイかせるくらい性感帯を開発なんてこと、いくら机上で勉強したって無理に決まっている。

盆をどこからか調達してそれに朝食を乗せて運んできたプロイセンをそう言って睨みつけると、プロイセンは少し目を丸くして、当たり前のように言いきった。

「俺様…自分が童貞なんて言った事ねえぜ?
フランス達が勝手に言ってるだけで……」

…へ??
イギリスは一瞬痛みも忘れてプロイセンを見あげた。

「…一度も言ってねえだろ?」
と、視線をあわせて微笑むプロイセン。


あ…そうか…言われてみればそうかもしれない。
よし、フランス今度殺す。絶対に殺すっ!!
自分はフランスにはめられたのか…と、怒りにこぶしを握り締めるイギリスの布団の横に盆を置いて、ギルベルトは痛む腰に負担がかからないようにゆっくりとイギリスの半身を起させた。

そして見た事もないような優しい目で
「Guten Morgen, mein lieber(おはよう、愛しい人)」
と口づけてくる。


「確かに初めてじゃねえけど…最後の恋人だからな。
俺様は国じゃねえからしがらみもねえし、なんでも全力で味方するし全力で守るから、何かあったら何でも言えよ?」

真剣な顔で言われてイギリスは固まった。
え?ええ?いや、あの…そう…なのか?
友達じゃなくて恋人??
いつそうなったのかはわからないが、なんだか言いきられたらそんな気がしてきた。
実は非常に押しに弱い男である。

…が……こんな時に何を言ったら良いんだろうか…と、悩んだ挙句の返事が…

「とりあえず腰が痛いから…今度フランス殴る時には一緒に来てくれるか?」
で、我ながら何を言っているんだ、と思ったのだが、プロイセンは茶化す事も貶す事もせず、握りこんでいたイギリスの拳を手に取って口元に持って行くと

「おう、まかせとけ。
お前が殴るまでもねえ。元軍国の俺様がきっちり殴り飛ばしてやんよ」
と、ちゅっと口づけて微笑んだ。

元軍国と元海賊王…世紀のバカップルが誕生した瞬間である。





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